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第三十六話【オッサン、お使いをする】

 次の日の朝、俺は着替え終わった後ギルドのロビーへと向かった。

 一応、仕事があるかどうかだけは確認しておかないといけない。

 新種の迷宮が無ければ、今日もニーナ達と一緒に散歩に出かけるつもりだ。


「ふあぁ……はっ、お、おはようございますっ!」


 受付では夜勤明けのシエラが少し眠そうにしていた。

 こちらに気付くや否や、気を取り直した様子でぺこりと頭を下げて挨拶をする。

 いきなり夜から仕事とは、もう少し何とかならなかったんだろうか……俺が思ってる以上に人手不足なのだろうか?


「おはようシエラ。大変そうだな」

「あ、アハハ……慣れるまでの辛抱ですね」

「頑張れよ。ところで新種の迷宮は見つかったりしてるか?」

「今の所は無いですね、なので今日も自由にしててもらって大丈夫ですよ」


 なるほど、まあそんなすぐに見つかるものでも無いか。


「あっ!そういえば、ニャムちゃんがジムさんに用事があるって言ってましたよ」


 ニャムが俺に用事? 一体何だろうな。


「分かった、ありがとう。道具屋に居るよな?」

「そうですね、多分とっても忙しそうにしてると思いますよ、ふふっ」


 そういうと、シエラは少しだけ意地悪そうに笑った。

 ……なんとなく、ヘレンの面影が見えた気がする。


 俺が道具屋へと向かうと、結構な数の冒険者と迷宮測量士が部屋の中にいた。

 流石ギルドに併設されてる場所だな、ダンジリアではこうも人が集まったりはしない。

 カウンターではニャムがせっせと対応に追われていた。


「嬢ちゃん、これ会計頼むよ!」

「はいはーい、ええと、銀貨一枚だよー」

「あのーすみません、黒チョークどこにあります?」

「聖なる木炭は奥の棚の三段目にあるからねぇ、キャンプキットも近くにあるからー」


 ほう、ニャムの奴、意外とちゃんとやってるじゃないか。

 ダンジリアでは見れなかった彼女の忙しそうにしている姿を、俺は少し珍しそうに見ていた。


「な、なぁ〜ぅ……寝る暇もないよ〜……」

「よう、大変そうだなニャム」

「あっ、にゃっほーおっちゃん。ちょうど良かったー、頼みたいことがあるんだよー」


 へたりと畳んでいた耳をピンと立て、ニャムは俺に挨拶する。心なしか尻尾も揺れている。

 頼みたいことがあるというが、一体なんだろうか?


「凄腕のおっちゃんを見込んでの頼みなんだよねぇ」


 ははん、さては迷宮に関係する事だな?

 凄腕と呼ばれて心の中で少し得意げになりつつ、俺は彼女に詳細を聞いた。


「おだてても何も出ないぞ。で、どんな用なんだ? 迷宮に行って欲しいとかか?」

「いやまあただのお使いなんだけど」


 …… …… ……


「帰るぞ」

「ちょ、ちょっと待って! 後生だから〜!」


 立ち去ろうとする俺を必死に止めるニャム。

 俺は振り返って彼女の方を見た。多分少し意地悪そうな顔になってると思う。

 半分くらい冗談のつもりだったが、こうも反応してくれると面白いものだ。

 誰かに悪戯をしたがるヘレンの気持ちがよく分かる気がする。


「冗談だよ。お使いに行けないくらい忙しい、ってところか?」

「心臓に悪いからやめてよー……まあその通りなんだよね。そのせいで在庫が尽きそうでさー」

「前言ってた店主のお爺さんに店番を頼めばいいんじゃないのか?」

「それが急に体調崩しちゃって動けないんだよねぇ……頼むよおっちゃん、行ってきてくれない?」


 お願いっ、と両手を合わせて助けを乞われる。

 そう言う理由なら仕方がないか。ニーナの鞄の件もあるし一肌脱いでやろう。


「分かった、引き受けよう」

「よかったぁ、助かるよーおっちゃん。市場にある商人組合にこの伝票を届けて欲しいんだ。大きな建物だからすぐに分かると思うよ」

「それだけで良いのか? 何か運んでくるとか、そういう事じゃないんだな」

「うん、品物は馬車で運んでくるからね。おっちゃんが大量の木箱を運びたいってなら止めないけどさー」

「……この身体でそれは御免被りたいな」


 まだ筋肉痛が治ってないしな……特に腕とか。

 しかし市場か。確か昨日通った大通りの途中にあったはずだ。

 伝票を届けるだけでいいなら、ついでに昨日の遺物屋に寄ってウィンドメーカーを買って帰ろう。

 俺はニャムから伝票を受け取り、カウンターから離れる。


「じゃ、頼んだよーおっちゃん。……あ、はいはーいお会計ねぇ、ええと――」


 俺が離れるや否や、再び忙しそうに仕事に戻るニャム。

 本当に大変そうだ……まあ場所が場所だけにしょうがないか。

 頑張れよと心の中で応援しつつ、俺は道具屋を出た。


                  ◇


「る~らら~♪ ふんふ~ん♪」

「きゅっきゅっきゅ~♪」


 今日もご機嫌な子供達を連れて、俺は市場まで来ていた。

 大通りの途中に作られた広場に、沢山の屋台が並んでいる。

 広場に面した家々も全て商店。外に品物を出している所もあれば、呼び込みを行っている所もあった。


 大都市の市場というだけあって人通りも激しい。

 隣を歩くニーナを見失わないようにして歩いている。

 キューちゃんは今日も腕の中だ。……ハッキリ言って腕が辛いが仕方がない。頑張れ俺。

 

「パパっ、しょーにんくみあいってどんなところなの?」

「んー、俺もよくは知らないが……ニャムみたいな商人が集まる場所、って感じかな」


 俺も商店に品物を卸売りしてる、ぐらいしか分からないんだよな。

 まあ、商人じゃない限りそんなにお世話になる所でも無いから、大体の人がその位の認識だろう。

 さて、ニャムが言ってた大きな建物は、と……ああ、あった。広場の奥の方にある。


「多分あそこが商人組合だな、行こうニーナ」

「うんっ!」


 俺はニーナに一声掛け、その建物へと向かった。

 周りの商店と比べて倍程の大きさの建物だ。建物の周りには馬車も止まっている。

 

「馬車が通るよ! 道を開けてくれぇい!」


 建物の方から男性の大きな声が聞こえてくる。

 道を避けると、ゆっくりとしたスピードで馬車が隣を横切って行く。

 荷台をちらりと見ると沢山の木箱が積まれていて、木箱には商人組合の印章が付いているのが見えた。

 どうやら目的地に間違いはないようだ。


 俺達は声の主の方へと歩みを進めた。

 商人の服を着たふくよかな初老の男、胸に商人組合の紋章を付けているので彼が声の主だろう。

 馬車が無事に発進したのを見届け、建物の中に戻ろうとしている所に俺は声を掛けた。


「あの、すみませんが……伝票を届けに来たのですが」

「ん? ああ、お疲れ様。受付は分かるかい?」

「実は初めて商人組合に来たんですよ、ギルドの使いで」

「なるほど、じゃあ中に入って左の方に受付があるから、そこのお嬢さんに渡してくれるかい?」

「分かりました、ありがとうございます」


 気さくな人だな、親切に教えてくれて助かった。


「おじさんありがとっ!」

「ああ、人にぶつからないよう気をつけて行くんだよ、お嬢ちゃん」


 俺達は彼に礼を言うと、建物の中へと入って行く。

 冒険者ギルド程ではないが、内部は広々とした作りになっている。

 まあ、卸売り用の木箱やらなにやらでちょっとごちゃっとしてる印象はあるか。


「わあ……いろんなものがあるね、パパっ!」


 キョロキョロと辺りを見回すニーナ。キューちゃんも興味深々な様子だ。


「あんまり触っちゃだめだぞ、ニーナ」

「はーいっ!」


 一応ニーナに釘を刺しておく。

 見慣れない物だからと触って怪我したり、商品を壊したりしたら大変だからな。


 受付のカウンターは三か所。中央は書類を持った商人が並び、右側は御者が列を成している。

 察するに中央は出店等の申請をする所で、右側は各地から運んできた積み荷を預かったりする場所なんだろう。


 初老の男が案内してくれた左側の受付へと行くと、やはりここも列が出来ていた。

 しかし伝票を受け取るだけなのか列の進みは早く、すぐに自分達の番へと回って来た。


「次の方どうぞっス!」


 そこの受付嬢は何とも変わった出で立ちだった。

 結んである綺麗な茶髪にぱっちりとした金色の眼。

 口元を大きな髭で隠している、踏み台に乗った小さな少女のような――。


「……えっ、ドワーフ!?」

「っス?」

 

 俺は驚愕した。他人の眼も気にする暇もなく。

 何故ならば、あの"他種族嫌い"で有名なドワーフが今目の前に現れたのだから。

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