第三十五話【オッサン、帰宅する】
俺達がギルドに到着する頃には、もう太陽は完全に日が沈んでいた。
街灯が街を照らし、人々は自分の家へと帰って行く。
ギルドの前の大広場は殆ど人はおらず、ギルドの近くにある酒場の喧騒が聞こえてくる。
「すっかりおそくなっちゃったね、パパ」
「そうだな、シエラ達心配してないといいが」
キューちゃんは疲れたか鳥目なのかは分からないがお眠な様子で、腕の中でスヤスヤと寝息を立てていた。
なんとも可愛らしい寝顔だ。どんな種族でも、やっぱり子供の寝顔は良いな。
まあそのおかげで俺の腕はもう力尽きる寸前だが……あともうちょっとの辛抱だ。
「あっ、ジムさん、ニーナちゃん! お帰りなさいっ」
ギルドの建物の中に入ると、迷宮測量士用の受付にシエラが立っていた。
この間の俺達みたく、夜に帰ってくる者も少なくない為、この時間でもギルドは営業している。
トランパルでは交代制で仕事をしてるんだとか。ちょっと大変そうだ。
他の受付嬢達も俺達を暖かく出迎えてくれた。
「ただいまっ、シエラおねえちゃん!」
ニーナが元気よく挨拶をする。この子はいつまでも元気なままだな……若いって羨ましい。
「きゅ……くあぁ」
ギルド内の明かりでキューちゃんも目を覚まし、欠伸を一つしながら俺の腕から飛び降りた。
やっと解放されたが、キューちゃんは今も眠そうにしている。その場で寝てしまいそうな勢いだ。
早く寝床に連れてってやらないとな。
「ただいま、シエラ」
「ふふっ、今日は楽しめましたか?」
「ああ、ニーナ共々たっぷり楽しんできた。そうそう、ミアにも会ったぞ」
「まあっ、ミアちゃんにですか? 元気にしてました?」
「勿論。占いもして貰ったよ」
「ええっ! いいなぁ、ミアちゃんの占いってよく当たるんですよっ」
私も今度占ってもらおうっ、と呟くシエラ。ミアも言っていたがやはりよく当たる占いらしい。
俺の場合は良い運勢だったから、今後が楽しみだ。
……なんて、年甲斐もなく心の中ではしゃいでる俺が居る。
「俺達はもう部屋に戻って寝る準備をするよ、キューちゃんもお眠だし。お仕事頑張ってな」
「はいっ、ありがとうございます!」
俺はシエラに別れを告げると、うとうととしているキューちゃんを元気なニーナを連れて部屋へと向かう。
「おやすみなさい、シエラおねえちゃんっ!」
「ふふっ、おやすみなさい、ニーナちゃん。明日も良い日になるといいねっ!」
「うんっ!」
ニーナはシエラに手を振って別れを告げた。
明日も良い日に、か。そうだな、明日は何をしようかな。
トランパルにはまだ行きたい場所が山ほどある。それを巡るのも良いな。
俺は仕事の事も忘れ、すっかりトランパルを観光する事に夢中になっていた。
まあ、たまにはこういうのも良いだろう? って、ちょっと開き直りつつ。
……そういえば、扇風機買うのすっかり忘れてたな。今思い出した。
明日買いに行くか、なんて色んな事を考えながら俺は部屋へと戻った。
◇
いやはや、流石大手のギルドと言った所か。まさか風呂まで併設されてるなんてな。
すっかり心も身体も温まった俺は寝間着に着替え、部屋で飲み物を飲みながら涼んでいた。
キューちゃんは寝床ですやすやと寝息を立てて寝ている。
「はーさっぱりさっぱり……♪」
オッサンみたいな事を言いながら、ニーナも寝間着姿で風呂から戻って来た。
……俺の口癖が移ったか?
「おかえりニーナ。風呂はどうだった?」
「とってもよかった! あとねあとね、ニャムおねえちゃんがねてたよっ!」
マジか。死ぬぞアイツ。
ニーナの事だからちゃんと起こしたとは思いたいが……。
「ま、まぁ良かったな、ニーナ」
「うんっ! あっ、パパなに飲んでるの?」
「ミルクだ。ニーナも飲むか?」
「のむっ!」
俺は冷蔵樽にしまってあるミルク瓶を一つ取り出すと、ニーナに手渡した。
風呂あがりにはこのキンキンに冷えたミルクを飲むのが良いのだ。
……こういう時は普通ビールとかなんだろうが、俺は酒に弱いのであいにく飲めない。
「んく、んく……ぷはーっ! このいっぱい!」
「何処でそういう言葉覚えてくるんだよお前……」
若干オッサン臭いニーナに苦笑いしつつ、空になったミルク瓶をキッチンへと持っていく。
ニーナも飲み終わった後俺のマネをしてキッチンへと持っていった。
全てが片付け終わり、寝る準備が出来たので寝ようと俺達はそれぞれのベッドに入る。
今日は中々楽しかったが、それと同時に疲れたな。明日も筋肉痛は継続なようだ。
「おやすみ、パパっ」
ニーナがこっちを向いてにこりと笑う。
「ああ、おやすみニーナ」
俺はそれに笑って返して。
「明日も良い日になるといいな」
「うん……ふあぁ」
そう一言声を掛け、ゆっくりと眼を閉じた。
こうして、俺達の休日は終わった。
明日も仕事が無ければ、ニーナを連れて何処か遊びに行くか。
トランパルには遺物を研究する施設があると聞いた事がある。そこに連れて行ってやるのも良いな。
もしくは迷宮測量士としての稽古でもつけてやるか。
迷宮はそこら中にある。手頃な迷宮に挑んで勉強させてやるのも良いだろうな。
この子に色んな事を教えてやりたいと思いながら、俺はふっと意識を手放した。
明日もきっと、良い日になるだろう。





