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第三十四話【オッサン、大司教に会う】

――


――――


――――――


 ん、ここは何処だ?

 俺はいつの間にか、見知らぬ場所に居た。

 周りを見渡すと塔のような建築物の中にある、巨大な螺旋階段の途中にいるようだ。


 そしてニーナが居ない事に気が付く。

 一体何処に行ってしまったのだろうかと周囲を見回すと、螺旋階段の下の方へ知らない人物に手を引かれて下って行くニーナが居た。

 

「おいニーナ、待ってくれ! そこの男の人は誰だ?」


 ニーナは俺の声に振り向くことは無く、ただひたすら階段を下って行く。

 俺は何が何だか分からないまま、彼女の後を追う為に階段を駆け下りた。


「待ってくれニーナ!」


 彼女は振り向く事は無い、ただひたすら階段を下りて行く。

 しかも俺が全力で走ってるのにも関わらずそれに追いつくことは出来ない。

 一体どうなっているんだ、これは?


「ニーナッ!」


 俺の叫びにも振り向かず、彼女達が見えなくなってしまった所でふつりと意識は切れた。


――――――


――――


――


「……はっ」


 俺が意識を取り戻すと、大聖堂の中庭に居た。

 どうやらいつのまにか寝ていたようだ。

 全く変な夢を見てしまった。


「おや、お目覚めですかな」


 横から見知らぬ人の声がする。

 そちらの方へと向くと豪華な司祭服に身を包み、杖を突いている白髪の老人が俺の隣に座っていた。

 あれ、ニーナは? と思い辺りを見回すと、草地でキューちゃんと遊んでいるのが見えた。


「ほっほ、娘さんを本当に大事にしていると見える。寝ている時も彼女の名前を呼んでましたからのぉ」

「いやはや、お恥ずかしい所を見せてしまった……貴方は一体?」

「おおっと、申し遅れましたな。私の名は"カールス・ウァールデント"。この大聖堂で大司教をやらせて貰っています」


 ……はっ? 大司教!?


「こ、これはとんだ無礼を……」

「ああ、そう畏まらないで下さいな。今はただの散歩好きの老人ですからのぉ、ほっほっほ」


 まさか大司教がこんな所に現れるとは、夢にも思っていなかった。

 彼がここに居て、聖歌が止んでいるって事は随分と時間が経ってるって事か。

 太陽も建物の陰に隠れ始めていた。


「良い場所でしょう、この庭は。私が丹精込めて作ったんですよ」

「大司教様自らが作ったんですか?」

「ほっほ、そうなりますな。まあこの老体ですから、今は司祭やシスターに手伝ってもらっていますが」


 庭弄りが趣味だなんて、いい趣味を持っているな。

 意外と話しやすいし、面白いお爺さんだ。


「あっ、パパっ!」


 そう話していると、ニーナが何かを手に持ってこちらへとやってくる。キューちゃんも一緒だ。


「これあげるっ!」


 手には白い花で作られた小さな冠。

 なるほど、草地に居たのはこれを一生懸命作ってたんだな。

 よく見たらキューちゃんにも冠が付けられている。よく出来てるな。

 ……でも勝手に花とか取って怒られないか、これ?


「ほっほっほ、何とも可愛らしい冠ですな」


 意外にも彼は怒る事は無く、その冠を微笑ましそうに見ていた。

 俺はニーナから冠を受け取ると、それを頭に乗せる。


「ありがとな、ニーナ」

「えへへー、にあってるよっ! パパっ!」


 にこりと笑いかけるニーナ。

 全く無邪気な子だな。俺は彼女の頭をぽんぽんと撫でてやった


「あの……花、すみません」

「気にしないで下さいな、私も子供の頃は草の王冠を作ったりして遊びましたから」


 ニコニコと微笑ましい顔でニーナを見つめる大司教。

 器の広い人物だな、この人……流石大司教を務めるだけの事はあるか。


「そういえば、貴方が噂のジム・ランパートさんだったのですね」

「どうして名前を?」

「ニーナちゃんから教えてもらったんですよ、パパはとっても凄い迷宮測量士だ、とね」


 ニーナめ、そんな事言いふらして……ちょっと恥ずかしいじゃないか。

 彼女の方はと言うとえへん、とちょっと得意げになっている。全くこの子と来たら。

 しかし、もう噂になっているのか。凄いな、都会の情報網。


「なんでも到着して早々に海底の迷宮を踏破したと聞きましたよ、全く凄い腕をお持ちで」

「いや、Aランク冒険者と一緒だったからですよ。自分は逃げてるだけでしたし」

「ご謙遜されなくてもいいのですよ、この街に到着して早々に新種の迷宮を攻略したと言う事実には、まったく変わりがないのですから」


 こうも褒められるとどうもむずかゆい。いや嬉しいんだけどさ。

 大司教はほっほっほと笑いながら話を続ける。


「いやはや、こうして巡り会えたのもカルーン様の御導きでしょうかのお」

「おじいちゃん、カルーンさまってどんなかみさまなの?」


 ニーナが大司教へと質問を投げかける。

 言われてみれば俺も旅の神様だってことしか知らないな。


「おや、ニーナちゃん気になりますかな?」

「うんっ! てんいまほーのかみさまってことしか分からないから、もっと知りたいのっ!」

「ほっほっほ、いいでしょういいでしょう。私で良ければ詳しくお話して差し上げましょう」


 そういうと大司教は眼を瞑り、ゆっくりと語り始めた。


「……原初の時代、今よりも太陽は小さく輝きも少なかった闇の時代。人々は今の様に一か所に定住する事なく、流浪の民として生活をしておりました。その当時は魔物が今よりも多く、常に危険と隣り合わせの生活だったとされていますのお。カルーン様はそれを憂い、自らと四人の神……そう、大五神に数えられる神々を連れて人々の前に降り立ったとされています」


 へえ、ご先祖様はそんな生活をしてたんだな。

 そこまで信仰深い人間じゃないが、この話は中々興味深いな。


「カルーン様は技神ツァル様に街を一つ作らせ、そこへ人々を導きました。そして二度と迷う事の無いよう太陽に暖かな火を灯して大地を照らし、人々に加護と帰還魔法を伝えたとされています。他の大五神も人々が生きる為の術を伝えました。戦神モルガ様は魔物と戦う力と武器を、魔神ウィアナ様は知恵と魔術を、技神ツァル様は街とそれを作る技術を、冥神スーラ様は罪とそれに伴う罰を。こうして人々は街という帰る場所を得て、平和に暮らせるようになったとされているのですじゃ」


 そこまで語ると大司教は眼を開き、にこりと笑ってニーナに微笑みかけた。

 

「簡単に言えばこんな感じですかのぉ。ニーナちゃん、分かりましたかな?」

「んー……なんと、なく?」


 苦笑いしながら答えるニーナ。まだちょっと難しかったか。

 しかし面白い話が聞けた。カルーンってそんな事してたんだな。 


「その後、カルーン様はどうしたんです?」

「おやジムさん、貴方も興味が湧きましたかな」

「はは、まあそんな所です」

「そうですのお、実の所その後は色んな説がありましてな。神々は人々が安心して暮らせるようになった後、神の世界へ帰ったとも、人々と離れた場所に宮殿を作りそこで暮らしているとも言われております。最近では迷宮が神々の作った宮殿の残骸なのでは、という説もありますのお」


 なるほど、よく分かっていないのか。

 しかし迷宮が神々の宮殿だったもの、という説はちょっと面白いな。

 もしかしたら迷宮を冒険していくうちに神々に会ったりして……なんてな。


 そんな話をしていると、一人のシスターが大司教の傍へとやってくる。


「大司教様、そろそろお時間が……」

「おおっと、もうそんな時間ですかな。ありがとうございましたジムさん、ニーナちゃん。実に楽しかったですぞ」


 大司教はよいしょと杖を突いて立ち上がると、こちらに一礼をする。 


「いやいや、俺達こそ良いお話を聞かせて貰ってありがとうございました」

「ありがとう、おじいちゃん!」


 俺もニーナも話を聞かせてもらった事に感謝する。

 いやはや、面白い話を聞かせてもらった。良い土産話が出来たな。


「ではでは、貴方達にカルーン様の加護がありますように……」


 再び一礼して大司教は去って行く。

 ニーナはその後ろ姿に手を振り、またねーと言っていた。……一応、偉い人なんだからな?


 太陽は建物の影に完全に隠れ、空はもう赤くなり始めていた。


「俺達も帰るか、ニーナ、キューちゃん」

「うんっ!」

「きゅっ!」


 元気よく返事を返すニーナ達。

 あれだけ遊んでたのにまだ大丈夫そうだな……流石子供。

 俺は再びニーナの手を取り、キューちゃんを背負うと元来た回廊へと向けて歩き始めた。

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