第三十話【オッサン、遺物屋に寄る】
「ふんふんふ~ん♪」
「きゅっきゅ~♪」
天気は晴天。楽しそうに目の前を歩く一人と一匹。
傍から見たら、子供が楽しそうに散歩をしている微笑ましい光景だ。
その後ろを全身筋肉痛の俺が頑張って付いて行く。
正直、あの子達の歩くスピードは結構早い。疲弊したオッサンには中々堪える速度だ。
「あんまり離れるなよー」
「はーいっ!」
それとなくスピードを落とすように言うと、元気に返事を返すニーナ。
彼女は素直に少しスピードを落として歩き始める。
このまま先に行かれて、迷子になってしまっては困るからな。
まあ、ついでに言うと満身創痍な俺の為でもあるが。
俺達は、この街の観光地の一つである"カルーン大聖堂"へと向けて歩いていた。
今までもお世話になってるカルーンって言う神様は、この世界の神の一人。"旅を司る神"だと言われている。
帰還魔法を使えるのもこの神様のお陰だとかなんとか。
パンドラには様々な神が居て―― っとと、周りを見てないとぶつかってしまうな。
大都市という事もあって、本当に様々な人とすれ違う。
測量を終えギルドに帰る迷宮測量士達や冒険者。
"ボード"という車輪の付いた板の遺物を乗り回して回る配達員。
遺物を元にして作られた、宙に飛ぶ玩具で遊ぶ子供達――。
見渡す限りそこら中遺物だらけだ。流石"迷宮の街"と呼ばれるだけはある。
人だけでなく、店の種類も豊富だ。
冒険者や迷宮測量士達に必須の道具屋。冒険者御用達の武具屋に宿屋。
そして、遺物を取り扱う遺物屋。非常に大きな店構えだ。
「パパっ、ちょっとよりみちしてもいい?」
「ん、いいぞ」
ニーナは遺物屋の方を見ながら言った。どうやら興味が湧いた様子。
ダンジリアにも遺物屋はあったが、ここまで大きな店は無かったな。
俺も少し気になって来た、早速中に入ってみよう。
「いらっしゃい!」
店主が明るく対応する。背が高く感じのいい男だ。
中は広々としており、棚に様々な遺物が綺麗に陳列されていた。
ぐるりと店内を見て回ったが、どうやらここは雷の魔石を使って動かす"珍しい遺物"を主に扱っているらしい。
簡単に言えば"レアアイテム専門店"みたいな感じだろうか。
こういうのは、新種の迷宮の一つである"機構の迷宮"でよく見つかるってヘレンが言ってたっけな。
大体の遺物が下部についている黒い線の先端の金属部に、加工した雷の魔石を取り付けると動く仕組みになっているとか。
勿論、これらの遺物を動かす為の魔石も各属性揃っている。品揃えが良いなここ。
「あっ、パパがもってる石にそっくり……でも色がちがうね?」
「きゅー?」
ニーナとキューちゃんが棚に並べられた魔石を覗き込んでいる。
そういえば詳しく教えてなかったな。
「属性が違うのさ。その石には炎、氷、風、雷……まあ色んな種類があってな、それぞれ色が違うんだよ」
「そうなんだっ! じゃあこれは何のませきなの?」
「黄色いのは雷の魔石、そっちの赤いのは炎の魔石だな」
指を指してこれは? と質問攻めをしてくるニーナ。
まったく勉強熱心な事だ、と俺は苦笑いしながら答えた。
魔力を帯びているこの石は、自然界でよく採れる重要な資源の一つだ。
ある種の魔法を使うのに使ったりする他、遺物を動かすのにもよく用いられる。
確かトランパルから更に北に言った場所に、良質の魔石鉱脈がある鉱山街があったな……この魔石もそこから来た物だろうか。
採れた魔石はそれぞれの遺物に合った形に加工されて、各地の店に並べられるんだよな。
俺はそんな事を考えながら魔石を手に取り、少しの間それを見つめていた。
「パパっ! ねえ見て見てっ!」
そうしてるといつのまにか店の奥に行ったニーナが俺を呼んでいる。
一体何事かと見に行くと、羽根を回転させて風を起こす遺物の前で遊んでいた。
その遺物の後ろには雷の魔石が取り付けられている。元々取り付けてある物のようだ。
「ここでこえを出すとね、へんなこえになるんだよっ! あ゛~♪」
と、遺物に向かって声を出す。
声が回転部に当たりかき乱され、まるで声を震わせているかのような音になる。
……多分、そうやって使うものじゃないと思うんだがな。
「ああ、それね。"扇風機"と言って、暑くなってくるこの時期に最適な遺物さ!」
と、店主が後ろから声をかけてくる。
なるほど、起こした風で涼む物なんだなこれ。
気軽に涼む事が出来る便利な代物みたいだし、値段によっては買っても良いかもしれない。
「これいくらなんだ?」
「銀貨四十枚だね」
やっぱりそこそこするか……だがこの時期には是非欲しい代物だ。
でもこれを持ち歩きながら大聖堂に向かうのは少し大変そうだな。
大聖堂に行った帰りで買って帰るとするか。
「ちょっと今は買うのはやめとくよ、これから向かいたい場所があるんだ」
「へえ、どちらまで?」
「カルーン大聖堂。一度行ってみたくてね」
「なるほど、だったらこのまま真っ直ぐ進むよりも大通りを逸れて行った方が近いよ」
と、店主はあの道を行けばいいと指差して教えてくれた。
親切な店主だな、ありがたい。
「道を教えてくれてありがとう、帰りにまた寄らせてもらうよ」
店主に礼を言うと、遺物で遊んでいるニーナとキューちゃんを呼び戻して店を出る。
そしてカルーン大聖堂へ向けて、店主が教えてくれた道へと進み始めた。





