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閑話【その頃ダンジリアでは……】

 僕の名前はカイル・アベイン、十八歳。

 ダンジリアという小さな街で迷宮測量士をやってるんだ。


 ジム・ランパートという迷宮測量士がこの街を出て早三日が経過した。

 彼はダンジリアで最も、いや、パンドラで最もと言っても過言ではないほどの凄腕で、数多の迷宮を攻略してきた。

 僕も周りの迷宮測量士達も、彼を目標に日々頑張っていたんだ。


 でもある日、彼はトランパルという大都市へ行ってしまった。

 "黄金の迷宮"という難関不落の迷宮を攻略する為、ギルドから派遣されたんだ。

 とても名誉な事だし、頑張ってきてほしいと思うけど、彼の空いた穴を埋めるのはやっぱり大変だ。

 だけど、遠くで頑張ってる彼と"彼の小さいパートナー"に負けないように頑張らなくちゃ。


 そう思っていた矢先の事――。


「……あの、何ですかこれ」

「何って、受付の衣装だよ」


 僕は今、ギルドマスターの部屋にいる。

 目の前にいる人はヘレン・メル・ルナルモア。このギルドのギルドマスターだ。


 この日、僕は急に呼び出されて受付の仕事を手伝って欲しいと頼まれた。

 そこは僕も快諾した。ギルドの受付のお嬢さんも、ジムさんと一緒にトランパルへ行ってしまったから、ギルドが忙しいのは知っていたからだ。

 でも、手渡されたのが、このフリルの付いた可愛らしい衣装――


「あの……これ女物、ですよね?」

「そうだよ」

「……僕、男ですよ?」

「そうだね」

「いやそうだねじゃないですよ!?」

「良いじゃないか、似合うかもしれないだろう?」


 に、似合うかもしれないって、そんな乱暴な……!


 確かに僕は中性的な顔立ちなせいか、よく「女の子みたいだ」って言われるし、間違われることもある。

 だからって女物の服を着たりはしないし、ちゃんと男だという自覚も持っている!

 申し訳ないが普段の衣装のままやらせて貰うしかない。


「受付の仕事はしますが、その衣装は着ませんから!」

「いいや、着てもらうよ」


 凄い剣幕だ……!? どうしてそんなに着させたいんだ!?


「理由その一、残念ながら衣装はそれしか無い。その二、ギルドで働くにはちゃんとした衣装を着てもらわないといけないって決まっているんだよ」


 し、知らなかったそんな決まり……だからいつも同じ衣装を着てたのか。


「でも、だったら僕じゃなくても女性の方にやってもらえば――」

「そして一番重要な理由その三……カイルに着せたらきっと面白いから。以上だよ!」

「な、なんですかそれぇ!?」


 完全に人で遊んでるよこのギルドマスター!?

 何とかしてこの場を逃げなくては……!


「そういう事でしたら僕、帰りますんで!」

「――おっと、アタシから逃げられると思ってるのかい?」


 な……早いっ!

 あっという間に間合いを詰められて腕を掴まれてしまう。

 しかもかなり力が強い……! 元冒険者だって聞いてたけど、この人今でも普通に冒険者としてやっていけるんじゃ……。


「折角用意したんだ、意地でも着て貰うよ!」

「ちょ、やめて下さいヘレンさん! 冷静になって! あっ、脱がそうとしないで! 着ます! 着ますからぁぁぁ!」


                  ◇


 数分後……僕は受付嬢の衣装を着ていた。


「こ、これは……思った以上に似合うね、カイル」

「うぅ……もう恥ずかしくて死にそうです……」


 ヘレンさんが言葉を失っているが、そんなに似合うんだろうか?

 僕はヘレンさんから手渡された手鏡で自分の姿を見てみた――


 うん、どう見ても華奢な女の子だこれ!?

 メイクとかは特にはしていないんだけど、衣装を変えるだけで随分と女の子らしくなってしまった。

 まさかここまで変わるとは思わなかったけど、やっぱり恥ずかしいものは恥ずかしい。


「どうしてもやらないといけませんか、ヘレンさん……」

「せっかく似合ってるのに、誰かに見せなきゃ勿体無いだろう?」

「そ、そんなぁ」


 意地悪そうに笑うヘレンさん。この人は時々暴走するから困る。

 ジムさん達がいなくなった事でその暴走を止められる人が居ないのが辛い。


 僕が恥ずかしがっていると、扉を開く音が聞こえてくる。


「ヘレンさん、頼まれていた物を納品に来まし……」


 振り向いたらその相手と目があった……マオ・ナーゴちゃん。

 ジムさんと一緒にトランパルに行ってしまったお姉さんの道具屋を代わりに経営している白い猫獣人の女の子。

 本当、最悪なタイミングで会ってしまった……明日からなんて顔で道具屋に行ったら良いんだろう……。


「……かわいい、です」

「へっ?」


 少しだけ頬を赤らめて、彼女はそう言った。


「はっ、我を失いかけました」

「今完全に失ってたよね?」

「こ、こほん……カイルさん、ですよね? 一体その格好はどうしたのですか」


 気を取り直すように咳払いをして、いつものように淡々と喋るマオちゃん。

 なぜ僕の女装を見て我を失ったのかは……あまり気にしないでおこう、うん。


「ええと、実は――」


                  ◇


「成る程、急に女装趣味に目覚めたのでは無く、着ざるを得ない状況だった……という事なのですね」

「急にも目覚めないよそんなの!?」


 そもそも僕にそんな気なんて一切無い、着ないとヘレンさんがおっかないからだ。

 ……我ながらちょっと情けない話だけど。


「まあアタシのエゴで着てもらった訳なんだが、それにしても似合うだろう?」

「はい、悔しいですが姉さんの次くらいにはかわいいです」


 そういえばマオちゃんはお姉さんに特別な感情を抱いているんだったっけ。それも変な話だけど。

 つまり、彼女の中で二番目に素敵な人認定されたのだが……素直に喜んでいいか分からないよ、これ。


「ここまでかわいいと色んな服を着せたくなりますね」


 淡々と凄いこと言うなこの子っ!


「いいねぇ、シエラのお古でも着せてみるかい」

「ヘレンさんまでそんな事を……!」


 こ、このままじゃ着せ替え人形にされてしまう!


「ぼ、僕受付行ってきますっ!」

「ああそうだった、頼んだよカイル"ちゃん"?」

「ちゃんはやめて下さいっ!」


 もう受付に逃げるしか無いと諦めて受付嬢姿のまま外に飛び出した。

 こうなったら流れに身を任せてやるしかない。


「い、いらっしゃいませーっ!」


 ええい、もうどうにでもなれっ!


 その後、僕は受付に立ち受付嬢の仕事をちゃんとこなした。あの姿のままで。

 知り合いの目が物凄く痛かったが、なぜか概ね好評だった様だ。

 あと、冒険者達の間で密かにファンクラブが出来たらしい。……なんで?

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