第二十九話【"大きな街の、小さな部屋で"】
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「……なるほど、海底の迷宮でそんな事が」
俺が報告すると、髭を撫でながらラルフは聞いていた。
俺達は今、海底の迷宮で起こった出来事を報告する為にギルドマスターの部屋に来ていた。
ニーナとキューちゃんはもうお眠な様子で、ソファの上で仲良く並んで寝ている。
「まず礼を言わせて欲しい、ジョン君を救ってくれてありがとう。彼はギルドにとっても貴重な戦力の一人だからね。少し向こう見ずな所がたまに傷だが」
ラルフは苦笑いをしつつそう言う。
まあ確かにひと悶着はあったが、俺も助けられたし何も言うまい。
「地図の方は資料として買い取らせて貰うよ、金貨一枚と銀貨五十枚でどうだろうか」
「そんなに良いのか?」
「迷宮内のサハギンの性質や罠についても知る事が出来たし、何より冒険者の危機を救ってくれた礼もある。気にしないでくれて良いよ」
なんとも太っ腹な話だ。有難く貰っておこう。
俺は地図を手渡し硬貨の詰まった金袋を受け取り、ラルフに感謝した。
「さて、今日は夜も遅いし部屋でゆっくり休むといい。今の所新しい迷宮は見つかっていないから、君が良ければ明日この街をゆっくり観光するのも良いだろう」
「ああ分かった、そうさせて貰うよラルフさん」
観光か、良いかもしれないな。ニーナが喜びそうだ。
トランパルほど大きな街なら、何か変わった店や面白い物があるかもしれない。
明日、少しこの街を巡ってみるか。
「部屋は何処にあるんだ?」
「私が案内しよう、ついてきなさい」
これも冒険者を助けてくれた礼だよ、とラルフは案内を申し出てくれる。何から何までありがたいな。
「ニーナ、起きろ。移動するぞ」
「んぅ……ふぁい……」
寝ぼけ眼を擦りながら、キューちゃんを抱き上げてソファを降りる。
二人とも立ったまま寝てしまいそうだ。よほど疲れてるんだな……早く部屋に行ってベッドに寝かせなければ。
「では行こうか、こっちだ」
と、ラルフは部屋の扉を開け、俺達を案内し始める。
部屋はギルドマスターの部屋から出て左に進み、二階への階段を昇った先にあった。
二階はどうやらギルドで働く者達の部屋が並んでいる様子。扉に番号が振られている。
まるで宿屋みたいだな、なんて思いつつも俺達は『203』と書かれた部屋の前で立ち止まった。
「ここが君達に割り当てられた部屋だ、好きに使ってくれて構わない」
「何から何までありがとう、ラルフさん」
「いや、良いんだよ。これからしばらく宜しく頼むよ」
と、手を差し出した彼と握手を交わす。
良いギルドマスターで良かった。俺は彼に礼を言うと、部屋の中へと入った。
部屋は二人用を想定しているのか、結構広々としている。
ベッドが二つ、衣装を仕舞うタンスや机と椅子は勿論の事、簡易的なキッチンや冷蔵樽までも設置してある。
ベッドの横にはキューちゃん用の籠のベッドが一つ。これもラルフの計らいだろう、ありがたい。
俺は疲れているニーナとキューちゃんとベッドに寝かせると、部屋に備え付けてある窓から外を見渡した。
暗闇に、街灯と家の明かりがポツポツと輝いている。
暗くてよく見えないが、大きな建物も幾つか見える。
そう言えばトランパルには旅の神カルーンを祀る大聖堂があったな、明日ちょっとニーナと行ってみるか。
俺は荷物を置き、部屋の明かりを消すとベッドに近づいて。
「おやすみ、ニーナ」
と、ニーナの頭を撫でてやり、自分ももう一つのベッドに入った。
今日は確かに疲れた。ベッドに入った瞬間まぶたが重くなってくる。
思い返すと大変な一日だったが、あの迷宮の景色は素晴らしかったな。
また、今日みたいな迷宮と出会う事が出来るだろうか。
表には出さない冒険心を密かに揺らしながら、俺は眠りについた。
この大きな街の、小さな部屋で。
◇
「パパーッ! はやくはやくっ!」
「きゅっきゅー!」
「待ってくれニーナ……ふう、昨日の今日なのに元気いっぱいだな」
次の日、俺はニーナとキューちゃんを連れて街へと散策に出かけていた。
昨日の迷宮での大立ち回りは流石に無茶が過ぎた様で、身体中が悲鳴を上げている。
ニーナは相変わらずの調子で俺の前を進み、早く早くと道を先導していた。
こっちは全身筋肉痛だってのに……やはり若さには勝てんか。
ニーナはシエラに用意してもらった、お出かけ用のフリルの付いた可愛らしいワンピースを着ている。
いつの間に用意したのかはさておき、ニーナはすごく気に入った様子で鼻歌交じりに歩っている。
キューちゃんも首にリボンを付けてもらってご機嫌だ。
ニーナの横を時折ぴょんぴょん跳ねてついて行っている。
やれやれ元気な子供達だ、なんて思いながら重い身体を動かして俺はなんとかついていく。
今回の目的はトランパルの大聖堂。
俺達も世話になっている旅の神カルーンを祀っている大きな聖堂だ。
そこに辿り着くまでそこそこ距離がある。
その間に面白い出会いもあるかもしれないな。
俺は期待に胸を膨らませ、再びニーナを追って歩き始めた。
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