第二十七話【オッサン、遺物探しをする①】
沈没船の真下までやって来た。
木造の巨大な船で、かなりの年月が経っているのか所々腐っている。
船底には大きな穴が開いており、そこから内部に侵入できるようだ。
「さぁて、何が出てくるかな」
ジョンが鼻歌交じりで先へと進んでいく。
この先に遺物が眠っているのは恐らく確かだろう。
ニーナとキューちゃんは始めて見る船に興味津々な様子でキョロキョロと辺りを見回していた。
内部は薄暗く、船に開いた穴から青い光が木漏れ日の様に地面を照らしている。
俺はニーナからカンテラを受け取り、ぐるりと辺りを見回す。
するとここを根城にしていた小魚達が驚いて急いで外へと逃げ出した。
本当、海中を歩っているみたいで不思議な感覚に陥るな、ここは……。
どうやらここは船員が食事をとる場所だった様で、皿やコップ、腐りきった木の机などが辺りに散乱している。
今の所遺物らしきものは見当たらない。
まあ食堂にあるものなんてたかが知れているだろうし、あるとすれば他の場所だろう。
「ねえパパっ、あっち行ってみたいな!」
とニーナが指差す先は斜めになった上り階段。
恐らく甲板まで続いているであろうそれは、まだなんとか形を保っていた。
足を載せて見るとギシッと音は鳴るが、強度も十分にある様だ。
「よしニーナ、行って見るか」
「はーいっ!」
そう返事をすると彼女は転ばない様にゆっくりと階段を上っていく。
「ジョン、俺はニーナと上を見てくる」
「オーケイ! この辺りは任せといてくれ」
俺はジョンに下の階を任せて甲板へと上がる。
少し斜めになった船体の甲板は歩きにくいが、滑り落ちてしまうほどではない。
先に甲板に辿り着いていたニーナ達は、高いところからの眺めを堪能していた。
そこはまるで、海の中にできた巨大な劇場の舞台に立っているかの様な絶景だった。
キラキラと水面の様に輝く天井、様々な色の珊瑚、宙を踊る魚達――。
通路で見たものとはまた違う美しい風景が、眼前に広がっていた。
「すごいきれいだね、パパっ!」
「きゅっきゅー!」
「ああ、良い景色だ」
ニーナは目を輝かせながらその光景を見上げていた。
キューちゃんもカバンの中で楽しそうに鳴いている。
全く無邪気な子供達だな、と俺は微笑んでその様子を見ていた。
ここから見る限り甲板には三本の折れたマスト、壊れた操舵輪に続く登り階段、そして部屋に続く扉が一つ確認できる。
床板は見た目の割にはしっかりした作りで、歩く分には問題ない様だ。
遺物があるとするならば部屋の中だろうと考えた俺は、腐った部分を踏み抜かないようにゆっくりと歩いて扉へと向かった。
「ニーナ、俺の後ろを歩くんだぞ? 危ないからな」
「おっけいパパっ!」
ああ、完全にジョンの口癖が移ってるなこりゃ……
色んなことを覚えてくれるのは良いんだが、変な癖が付いちゃ困るぞ
……まあ今のところ大丈夫そうだが、酷い時はちゃんとビシッと言ってやらなきゃな、うん。
部屋の前に着いた俺は、扉をゆっくりと開けようとする。
が、留め具の部分が腐っていたか、みしゃりと扉が取れる音がしてこちらへと倒れかかってきた。
俺はなんとか潰されないように踏ん張り扉を持ち上げると、部屋の入り口の横に置いた。
運ぶ時に床板がミシミシと音を立てていたが、なんとか床が抜けずに済んだ。全くヒヤヒヤさせてくれる。
「パパだいじょうぶ?」
「あ、ああ、なんとかな……早速中を見てみよう」
中は薄暗く、カンテラで照らすと色んな物が散乱しているのが分かる。
大きな机にベッド、地図、豪華そうな杯……察するに船長室か、それに近い部屋だろう。
地図を見てみてもこの大陸や知ってる地形が見当たらない。
未踏の地の物か、それとも別の世界から来たものか……詳しいことはわからないが、何だかとてもロマンを感じる。
まあ実用性は無さそうだから二足三文の価値しか無さそうだが。
ニーナはベッドの辺りを散策している。
いつのまにかキューちゃんをバッグの外に出し、一緒に遺物を探しているようだ。
よし、向こうは任せて俺は机の方を見てみるか。
机には小さな地球儀と羽ペン、封のされたインク瓶が転がっている。
机の引き出しを開けてみると未知の言語で書かれたいくつかの書類と小さな小瓶が出てきた。
小瓶の中にはカラフルな球状の物がいくつか入っている。
蓋を開けてみると甘い香りがする。飴玉か何かだろうか? 流石にこれを舐める勇気はないが。
こんなところに入れておくなんて、この船の船長だった者は余程の甘党だったんだな、なんて想像してしまいふっと笑う。
後は変な模様の書かれた小さな紙ぐらいか。なんだこれ。
結果的には机はハズレだった。
飴玉? はあったが流石にこれを遺物と言う訳にはいかないだろう。
もしかしたらこの船自体が遺物なのではないかとも考え始める。
遺物にも当たり外れがあるものだし、今回は縁がなかったものだと諦めるか……。
「パパーっ!」
ん? ニーナが呼んでいる。何か見つけたんだろうか。
「どうした、ニーナ」
「あのねあのね、キューちゃんがこれもってきてくれたのっ」
そう言うとキューちゃんを抱っこして見せてくるニーナ。
キューちゃんの口には鍵が咥えられていた。
「鍵か……でかしたぞキューちゃん」
「きゅっきゅー!」
鍵を受け取り頭を撫でてやると、嬉しそうに鳴くキューちゃん。
もしかしたら鍵のかかっている場所に重要な物をしまってあるかもしれない。
問題はその場所だが……ここじゃないとしたら下の方だろうか?
「鍵のかかった扉とかは無かったか?」
「うん、ここにはなかったよ」
ふむ、やっぱり下を当たった方が良いかもしれないな。
俺達は見落としが無い事を確認した後、ジョンの所へと戻る事にした。





