第二十五話【オッサン、再び海底探索】
「Aランク冒険者の"遺物使い"であり――夢と遺物を追い求めるトレジャーハンターだッッ」
最高のキメ顔で言う彼を、俺は好奇の目で見つめていた。
遺物使い―― その名の通り、遺物の武器を扱い戦う冒険者だ。
彼の所持している剣と飛翔体の出る武器も、恐らく遺物なのだろう。
剣は東方の国で使われている"刀"に酷似している。
しかし、俺が知るそれよりもその刀は鋭い業物に見えた。
さらに刀身が真っ黒なのが特徴的だ。こんなものは見たことがない。
サハギン三体を瞬く間に倒した遺物も、これまた奇妙な形だ。
簡単に言えば狩猟用のマスケットを小さくした様なものなのだろうが、それに比べて銃身がかなり短い。
デザインも四角く、洗礼されている様に見える。
「この刀と銃が気になるかい?」
「ああ、珍しいものだと思ってな」
「その通り。この刀は"竹林の迷宮"で手に入れた大業物、名付けて『名刀クロガネ』。こっちの銃は"機構の迷宮"で手に入れた珍しい銃さ。弾もそこそこ珍しい物だからそんなには使えないけどな」
聞いて欲しかったのか、嬉々として語り始めるジョン。
終いには、銃から弾薬の入ったケースを取り出し「これたった一ケースで銀貨二十枚もするんだぜ」と少し興奮気味に話し始めた。
……遺物使いと言うよりも"遺物オタク"だな、こりゃ
「ところでアンタらはこのまま測量を続ける気かい?」
「そのつもりだが」
「オイオイ、この先はもっと危険だぜ。サハギンの巣が近いし罠も多い。アンタが凄腕とはいえ骨が折れるってもんだ……どうだい、この俺を連れて行かないかい」
ジョンはドヤ顔で言っているが……こちらとしてもありがたい申し出だ。
確かにサハギンは危険なのは実感したし、再び囲まれた時にニーナ達を守れるか心配だな。
実力は確かだし、一緒に来てもらおう。
「じゃあよろしく頼――」
「オールライト、Mr.ハンサム! 大船に乗ったつもりで居てくれ!」
……ニャム然りコイツ然り、獣人って変な奴しか居ないんだろうか。
いや、俺の周りに居るのが偶然変人だらけだって信じよう、うん。
「なんだかすごい人だね、パパ」
「マネしちゃだめだぞ、ニーナ」
「おーけい、パパっ!」
「ニーナ?」
◇
その後、俺たちは罠やサハギンを避けたり退治しつつ測量を行い、地下三階へと辿り着いた。
ジョンに関しては流石Aランク冒険者と言った所か、サハギンに遅れを取ること無く倒してしまう。
数体だけなら即座にクロガネで斬り倒し、数が多いなら銃も補助的に使いつつ敵を殲滅していく。
これでまだSランクに一歩届かないレベルだというから驚きだ。
一応最深部まで辿り着いたら戻るつもりではいるが、ジョンはどうだろうか。
夢と遺物を追い求めるって言ってたし、もしかしたら守護者と戦うかもしれないな。
そうなったら前と同じように、ニーナ達は扉の後ろに隠れててもらおう。
「まったく、それにしてもサハギンの数が多いぜ。これ以上撃ってたら弾が尽きちまう」
目の前に現れたサハギンを斬り捨てつつ、ジョンがボヤいた。
確かに最深部に近づくにつれ、サハギンの数が増えているような気がする。
後ろを見ると、サハギン達の屍がいくつも転がっていた。
ニーナはそれをあまり見ないようにしているが、匂いは誤魔化せないので気分悪そうにしている。
キューちゃんも心配そうにきゅーきゅー鳴いていた。
「ニーナ、もし気分が悪いなら抱っこしてやるぞ」
「ううん、まだ大丈夫っ」
「きゅー……」
少し強がっているのは分かるが、無理に抱っこしても嫌がるだろう。
素直な彼女の事だ、本当に辛くなってきたなら言ってくれるだろうし、ここは我慢だ。
「しっかし子供を連れて迷宮測量だなんて、見た目によらず随分とぶっ飛んだ思考してるんだな、Mr.ハンサム?」
「誰がハンサムだこの野郎」
こうやって少し言い合えるくらいにはジョンと仲良く(?)はなれた。
時々イラっとする事もあるが、基本的には気さくないい奴……だと思う。
今後トランパルで世話になるだろうし、仲良くなっていて損はない。
「っと、あの大扉は……」
ふと、ジョンがそう呟く。
視線の先には珊瑚や貝などの様々な飾りが付いている原始的な扉がある。
おそらくそこが最深部。見た目から察するにサハギンの巣になっているのだろう。
「ニーナ、キューちゃん、隠れとけ」
「うんっ、わかったよ」
こそこそと岩場の影に身を隠すニーナ。
ここから先は何があるか分からない。慎重に行かなくては――
「ヘイ! ファ××ンフィッシュ! ジョン・ガルフ様が相手をしてやる!」
慎重に行きたかったんだけどなぁ……。
ジョンが大扉を思い切り蹴飛ばすと勢いよく扉が開く。
中には数十体のサハギンが槍を持って立っており、その奥には珊瑚の王冠を被った一回り大きいサハギンが魚の骨で作られた王座に座っていた。
王座の奥にはボロボロになった巨大な沈没船が鎮座している。遺物があるならあの場所だろう。
サハギン達は急な来訪に驚き、そして敵意を露わにしている。
「オウ……思った以上にいるな?」
「そうだな」
「全員滅茶苦茶怒ってるな?」
「……そうだな」
「……ジムってさ、実は戦えたりしない?」
槍が数本、俺達目掛けて飛んでくる。
「出来ないからお前とここまで来たんだろ!」
「ですよねぇ!」
俺とジョンはステップでそれを避けると、臨戦態勢に入った。
ジョンが銃の遺物で槍を投げようとしているサハギンを撃ち、俺は近くの地面に突き刺さった槍を手に取る。
こうなりゃヤケだ、『逃げ足』で避けた槍を投げ返してやる。
こちらへ向かって走ってくるサハギン目掛けて槍を構え……投げるッ!
槍はヒュンと宙を切り、サハギンに命中――せず、サハギンの目の前に突き刺さった。
まあうん、こんなもんだよな。俺槍投げたの初めてだし。
「オーケイMr.ハンサム! その調子で投げてくれ!」
「意味あるのかこれ!?」
「奴らの動きを少しでも遅くしてくれるだけでいい! 槍で進路を塞ぐんだ!」
パン、と俺が狙ったサハギンの頭を銃で撃つジョン。
なるほど、俺の投げた槍が奴の進行を妨げたのか。
動きを遅くする、もしくはどうにか止めれば、ジョンは確実にサハギンを処理できるらしい。
……そうか、よく考えれば俺の得意分野じゃないか。
俺は地面に刺さった槍を手に取ると、向かってくるサハギン達目掛けて駆け出した。
「オイオイ! 何してんだ!?」
「良いから撃て、ジョン! 俺が囮になる!」
攻撃がこっちに向かってきているなら、逆にこっちから向かって行けば良い。
そして迫り来る攻撃を全て避けてしまえばいい。
こうして、俺の"避ける戦い"は幕を開けた。





