第二十四話【オッサン、救出する】
作戦も決まった事だし、早速行動に移そう。
俺はニーナが隠れたのを確認し、持っていた珊瑚の枝を持って曲がり角の先へと走る。
そして一番近いサハギンの後頭部目掛けて枝をぶん投げ、挑発した。
「フシャッ!?」
「おい、魚ども! お前らの相手はこっちだ!」
頭に見事命中し、驚きの声を上げるサハギン。
駄目押しにもう一度近くの珊瑚を折って投げつけてやると、全員こちらへと向いて怒りを露わにした。
それを見ていた黒狼の獣人が焦った様子で俺に忠告する。
「オイオイオイ! 何やってんだアンタ、早く逃げろ!」
「言われなくたってそうするさ!」
急いで来た道を戻ると、獣人を囲んでいたサハギンの一団が怒り狂って全員追いかけて来る。
全部で四体。正直言ってピンチだが、一階の複雑な構造を利用すれば上手く撒ける筈だ。
後はニーナがあの獣人のロープをうまく切れる事を祈ろう。
◇
……不味いな、思った以上にしぶとい奴らだ。
二体は撒けたが、もう二体は俺の逃げ足に食らいついてきている。
地の利は流石に向こうにあると言うことか、逃げた先に回り込んで来たり、撒けたと思ったら合流して来たり――。
あれから数十分後追いかけっこをしているが、流石に疲れが溜まってきた。
「フシュウーッ!」
「くそっ、しつこいなお前ら!」
俺が悪態をついていると、道の選択を誤り一本道に入ってしまう。
すると、目の前に先ほど撒いた二体のサハギンが現れた。
前に二体、後ろに二体。完全に囲まれた。
こうなったら腹をくくるしかない。
俺は道の真ん中で立ち止まり、サハギン達を迎え撃つ。
もちろん武器なんて持ってないし、戦闘なんてした事がほとんどないが。
……いや、訂正しよう。武器ならあるな。
「フシャーッ!」
サハギンの一体が槍を俺に向かって突こうと迫る。
俺は槍の一撃を『逃げ足』でステップし避けると、手でその軌道を少し逸らす。
逸らした先には勿論――。
「グギャアーッ!」
反対側から俺に向かって槍を向けていた一体。
俺の逸らした槍は奴の土手っ腹に思い切り突き刺さり、深手を負わせた。
傷を負ったサハギンは思わぬ出来事に戸惑い足が止まり、傷口を押さえている。
二体目、傷を負ったサハギンと同じ方向から来る槍を上半身を逸らして避ける。
そしてその槍を掴み、槍の持ち主を思い切り蹴飛ばした。
体勢を崩したサハギンはそのまま後方に倒れこむ。
そして最後、握った槍でもう一方から来る槍を弾き、そのまま思い切り突く。
狙ったわけではないがその一撃は胸へと入り、サハギンは青い血を吐いて倒れた。
なんとか活路は開けた、あとはもう一度逃げるだけだ。
俺は蹴り飛ばしたサハギンの方向へと逃げると、そのまま地下二階へ向かって全速力で戻った。
◇
どうやらなんとか撒けたようだ。
ふうと一息ついて、俺は獣人が捕まっていた場所へと戻る。
目の前にはサハギンの罠があった十字路。ようやくここまで来れた。
実に長い戦いだったな、なんて先程の戦闘を思い返しつつ、ワイヤートラップを跨ごうとした その時。
「フシャーッ!」
「な、おわぁっ!?」
しまった、伏兵か!
十字路の右からサハギンが槍を向けて突いてきた。
それを俺は『逃げ足』で避けた―― がしかし。
プツン、と嫌な音がする。
ぐわんと視界が揺れ、足が上へと引っ張られ、腕がぷらんと頭上を揺れる。
気がついた時には先程の男と同じ様に、俺は逆さ吊りの状態になっていた。
「シュウウ……ッ!」
奇襲してきたサハギンが、槍を向けて逆さ吊りの俺を威嚇する。
地下一階から先程対峙したサハギンが戻ってきているのが見える。
腹を押さえてるのが一体、元気なのが二体。全員怒りの形相だ。
マズい、今回は本当にマズい。
ロープを切るためのナイフはニーナに渡してしまったし、自力で脱出する手段がない。
運良く奴らの槍がロープに当たれば助かる可能性もあるが、確率はほぼ無いだろう。
万事休すか、と思ったその時である。
「動くなよ」
声が聞こえたと同時にパン、パン、パン、と乾いた音が辺りに響く。
グギャッ、と短い悲鳴をあげ、一階から来た三体のサハギン頭から血を流し倒れた。
何事かと思っていると黒い影が俺の横を通り過ぎる。
刹那、黒い影は狼狽える槍を持ったサハギンの懐に潜り込みその身を一閃した。
「お前らなんか大っ嫌いだ、この青魚野郎!」
切り裂かれ倒れるサハギンに、追い打ちとばかりに蹴りを入れる黒い影を、俺は知っていた。
それは先程宙吊りになっていた黒狼の獣人、まさにその人物だったのだ。
片手には薄く湾曲した異国の剣、もう片方には遺物の武器を携えている。
「パパっ!」
「きゅーっ!」
よく知る幼い声と鳴き声が俺へと向かって走ってくる。
ニーナとキューちゃんだ。
「ナイフを貸しな、嬢ちゃん」
獣人はそう言ってナイフを受け取ると、俺の足に繋がれているロープを切り落としてくれた。
どさっと身体が落ちる。ああ、本当に助かった。
「助かったよ、ありがとう」
「礼を言いたいのはこっちの方さ、Mr.ハンサム。俺は"ジョン・ガルフ"だ、アンタは?」
「……ジム・ランパートだ」
なんだそのMr.ハンサムって……とツッコミたくなったが、恩人にいきなり言うのもアレだし止めた。
「パパ、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だニーナ。それよりお手柄だぞ、彼を助けるなんて」
「え、えへへ……」
優しく頭を撫でてやると、ニーナは照れくさそうに俯いた。
本当、この子がジョンを助けてくれなかったらどうなっていたか分からない。
今回は助けられてしまったな。
「あー、こほん。 素晴らしい親子愛を見せてくれてる時に申し訳ないんだが……話を進めてもいいかい?」
ジェスチャーをしながら大袈裟に話すジョン。
何だか変人な予感しかしないが――そもそもサハギンを説得しようとしてた辺り変人だが―― とにかく聞いてみる事にしよう。
「ああ、分かった」
「これはどうも。ではまず質問なんだが――」
と、ジョンはどうやってここまで来たのか説明を求めてきた。
俺達はギルドの依頼で来た事、二人の迷宮測量士に会った事など、これまでの経緯を全て説明する。
なるほどなるほど、と納得したような様子のジョン。オーケイと呟くと。
「質問ばっかりじゃ面倒だよな? 俺の事も話そう!
俺はジョン・ガルフ……は言ったか。Aランク冒険者の"遺物使い"であり――夢と遺物を追い求めるトレジャーハンターだッッ」
最高のキメ顔で、彼はそう言った。
俺は心の底から「なんだこいつ」と思った。





