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第二十三話【オッサン、海底探索】

 トランパル北西の岩場に到着した俺達は、すぐに中から青白い光を放つ洞窟が目に入る。

 ここが海底の迷宮で間違いないだろう。

 俺はいつもの通り帰還地点を設置すると、いざ探索開始をしようとした、その時。


「ハァ、ハァ……何とか出る事が出来た」

「ジョンを本当に置いてきて良かったの? 助けに行かなきゃ!」

「迷宮測量士の俺達に何が出来るっていうんだ、それよりもギルドに急いで連絡入れないと――」


 中から二人の男女が軽く言い合いをしながら慌てて出てきた。

 良かった、彼らは生きてたのか。


「話し中の所済まないが、ギルドから来た迷宮測量士だ。状況を説明してくれ」

「ああ、アンタっ! 中は危険だぞ、罠だらけだ! それにサハギン達がウヨウヨいる!」

「落ち着いてくれ、深呼吸深呼吸」


 少し興奮気味の男をなだめると、仕方ないと代わりに女性が話し始める。


「彼の言った通り、中は罠と魔物で溢れている。帰還魔法で帰ろうとしたけど、罠に引っかかってカバンを無くしてしまったの。今Aランク冒険者の"ジョン・ガルフ"が私達を逃がす為にサハギンと交戦してるわ……中に入るなら彼を助けてあげて」


 なるほど、大体状況は分かった。

 迷宮測量士を逃がすために魔物を一手に引き受けるなんて、とても勇気のある行動だ。

 戦闘に参加する事は出来ないが、何とか助けてやりたいな。


「ああ、それとこれ、一応私達が途中まで書いた地図の写しよ。地下二階の途中まで書き終わってるから活かして頂戴」

「俺達はギルドに急いで報告しに行く、どうかジョンを頼む!」


 地図の写しをこちらに渡すと、彼らは走ってトランパルの方へと向かって行った。

 内部はだいぶ複雑な様だ……この地図が無かったら結構時間がかかっていたな。

 地下二階に降り、中央辺りまで進んだところで線が途切れている。恐らくそこでサハギンと出くわしたのだろう。


「ニーナ、十分に注意して行こう」

「うん、パパっ! わなを見つけたらすぐに言うねっ」

「きゅーっ!」


 全員やる気も十分、早速測量開始だ。

 俺達は地図を頼りに、地下二階へと急いで向かって行った。


                  ◇


 内部はそれは美しい場所だった。

 薄青く光る空間、細かい砂のような地面、道の脇に生える珊瑚、宙に浮く色とりどりの魚達……。

 それはまるで、サンゴ礁の中を歩いているかのよう。

 俺もニーナも一瞬心を奪われ、わあ、と声を上げてしまう程だった。


 しかしその美しさとは裏腹に、非常に高難度な迷宮になっているようだ。

 例のサハギンは勿論、スパイクトラップに落とし穴、海流のような物が流れ一方通行になっている場所……。

 美しい物には棘があるということわざの如く、罠も構造も凶悪だ。彼らが時間が掛ったのも頷ける。


 幸いな事に、地図もあってか苦労する事も無く地下二階の入り口まで来る事が出来た。

 サハギンに出会わなかったのも、恐らく例のジョンという冒険者が引き付けてくれているお陰だろう。

 しかし今の所争っている音は聞こえてこない。やられてしまったのだろうか?


「……! ねえ、パパっ」

「どうしたニーナ、何か聞こえたか?」

「うん、しずかにきいてみて……」


 俺が耳を澄ませると、確かに遠くの方で何か言い合うような声が聞こえてくる。

 慎重に進んでいくと十字路が見える。音はそのまま真っ直ぐの方向から聞こえてくるようだ。

 進んでも良かったが、何か十字路の中心の地面に違和感を感じる。


「ニーナ、止まれ……もしかしたら罠かもしれない」


 こくりと頷きその場に止まるニーナ。

 俺は十字路の真ん中に入らないようにゆっくりと近づいて、それをよく見てみた。

 視辛いが、細い一本の線がピンと張られている。地面には何かロープのような物が隠されているようだ。


「ワイヤートラップか……地図には無かったな、これ」

「サハギンさんたちが作ったのかな?」

「多分な。原始的とは言うが結構ちゃんとしてるじゃないか」


 俺とニーナはワイヤーに引っかからないようにそれを跨いで渡る。

 十字路や分かれ道などにこういった罠を設置するんだろうか?

 まだ一つだけしか見つけていないが、一応頭に入れておこう。


 そのまま真っ直ぐ進むと右へと曲がる通路になっていて、曲がり角の先に声の主は要るようだ。

 内容までは分からないが、音もちゃんと聞こえてくる。一人の人間と複数の魔物が言い争っているような声だ。

 ニーナをその場に待たせ、俺は曲がり角の先を覗いてみた。


「――だからさぁ、そろそろ降ろしてくれませんかね? イカしたサハギンさん? その槍とか危ないから下ろしてさ、ね?」

「フシュゥー……」

「ヒュウッ! その息遣い痺れるねぇ、まるで獲物を見つけた時のサメのようだ! 見たこと無いけど」


 その先には罠に引っかかり、逆さ吊りになっている黒狼の獣人族の男。

 それを囲むように、巨大な魚の骨で作られた白い槍を持つ青い魚人が数人居る。あれがサハギンだろう。

 獣人族の男はやれやれと両手でジェスチャーすると、更にこう続けた。


「オーケイ、伝わってねえわこりゃ。獣人語で言えば伝わるかな……がうっ!ぐるる、あぉーう!(お前なんか怖くねぇぞ! この青魚!)」

「フシュウゥーッ!!」

「わああっ! やめろやめろ! 槍はやめろって! つーか本当に伝わったのかよ!?」


 怒り狂うサハギンの突きを身体をよじらせ避け続ける男。

 あの身のこなしは恐らく例の冒険者……なのだろうが、罠に引っかかって捕まるとは何とも情けない。

 

「パパ、どうしよう?」

「そうだな……作戦会議をするぞ、ニーナ」


 かといって放ってはおけないな。

 彼が槍に刺さらない事を祈りつつ、救出するために俺達は作戦会議をする事にした。

 近くの珊瑚の枝を折り、すらすらと地面の砂に地図を書いて行く。


「まず俺が囮になってサハギンをおびき寄せ、十字路の方まで逃げる。ニーナは通路の脇の珊瑚や岩場に隠れててくれ。俺とサハギンが通り過ぎたのを確認したら、あの男の所まで走ってロープを切り落とすんだ」

「うん、分かったよっ! パパはその後どうするの?」

「俺は何とか逃げきってみせるさ、その為の『逃げ足』なんだからな」


 にっ、と笑ってニーナに返す。

 魔物に追われるのには慣れている。この子を助ける時だってそうだったしな。今回も何とかして見せるさ。


 さあ、救出作戦開始だ。

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