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第二十一話【オッサン、鑑定士に会う】

 暫く部屋で待っていると、コンコンとノックの音が鳴る。


「ギルドマスター、鑑定士様をお連れしました」


 先ほど案内してくれた男性の声が聞こえてくる。

 どうやら鑑定士が来たらしい。


「ご苦労、入ってくれ」


 扉を開けると、黒いローブとフードに身を包み口元を布で隠した、如何にも占い師風の女性が立っていた。

 紫髪に全てを見通すかのような透き通った紫色の眼、フードの隙間から見える長耳から察するにエルフだという事が分かった。


「お初にお目にかかります、鑑定士の"ミア・オルム・ルナルモア"と申します――」

「ミア・オルム……? えっ、ミアちゃん!?」


 その言葉に真っ先に反応したのはシエラだった。


「えっ……あっ、もしかしてシエラ?」

「ああやっぱり! 本っ当に久しぶりっ! 子供の時以来かな? 元気にしてた?」

「あ、うん、元気……ちょ、ちょっと今仕事中だから……」


 立ち上がって鑑定士の方へと向かい、手を握って嬉しそうにしている。


「シエラ、そのお嬢さんとは知り合いかい?」

「あっ……す、すみません、ついっ……! 同郷の友人でしてっ!」


 ラルフがそう聞くと、恥ずかしそうにぺこりと頭を下げて、いそいそと鑑定士のミアから離れるシエラ。

 あんなに元気な彼女は多分初めて見たな……相当親しい仲だったのだろう。


「二人とも"ルナルモア"っておなまえなんだねっ! しんせきの人なの?」

「きゅー?」

「違うよニーナちゃん、エルフは名前の最後に故郷の名前を付けるのが習慣なのっ」

「私達は二人ともルナルモア出身なので、このような名前なんです……ええと、仕事に戻っていいかな? シエラ」


 あっごめんねと言い、ミアの邪魔にならない所に移動するシエラ。

 鑑定士ミアはニーナの座っている所まで近づいて、しゃがみ込んで彼女を見る。


「こほん、貴女が今回の依頼人ですね、お名前は?」

「ニーナ! それでこの子はキューちゃんっ」

「きゅーっ!」


 キューちゃんの説明は要らないだろう、なんて思いつつ。

 相変わらず元気だなニーナは、とその姿を見てつい微笑んでしまう。

 ……ああうん、ヘレンに親バカって言われても仕方が無いな、これじゃ。


「ニーナ様、ですね。では早速貴女のスキルを視てみましょう」


 ミアはそう言うと、懐から水晶玉を取り出し手のひらに乗せ、水晶玉越しにニーナの顔を覗き込む。

 俺には分からないが、鑑定士はこうして"人の内面を視る"ことができるらしい。


 鑑定士になるには、相当厳しい試験を突破しなくちゃならないと聞いたことがある。

 合格するのは年に十数人と言われるほど。素質が無いとそもそもなる事すら叶わないらしい。

 ……そう考えると、シエラの知り合いって凄い人ばっかりだな。ギルドマスターといい鑑定士といい。


「……むう、これは」

「何か分かったのかい? ミアさん」


 俺がそう聞くと、難しい顔をしてミアは応えた。


「全てを見通す『鷹の眼』でもあり、周囲の状況をいち早く察知できる『予知』でもある……こんなスキルを視るのは初めてです」

「……つまり、複数スキルがあると? そんな馬鹿な」


 通常、スキルは一人一つと決まっている。複数のスキル持ちだなんて聞いたことが無い。

 ミアはもう一度水晶玉を通してニーナの顔を覗き、いや、と呟いた。


「複数のスキルと言うよりは、様々なスキルが入り混じった一つのスキル、でしょうか……名付けるとすれば――『万能』。その名に恥じぬ特別なスキルです」


 『万能』、それがニーナのスキル。

 この年齢で、しかも一ヶ月程度で迷宮測量士の仕事をある程度任せられるようになるのは、並大抵の事ではない。

 ニーナは特別な子供だと思っていたが、まさかそんな力を持っていたとは。しかし、納得せざるを得なかった。


「……? たぶんすごいスキル、なのかな」

「え、ええ、そうですね。とても凄いスキルです、はい」

「そうなんだっ! やったー!」


 本人が一番よく分かってなさそうだな、これ?

 ミアもこの反応に少し困惑した様子。確かに凄いスキルだろうけどさ。

 まあちょっと場の空気が和んだから良し……でいいか、うん、そうしよう。


「あっ、ミアちゃんミアちゃん、ついでに私も視て欲しいなー、なんて……」


 ひょっこり横からシエラが自分を指差しながら現れる。

 全くこの娘ときたら……まあ確かに気にはなるな。


「もう、しょうがないなシエラは。こほん……むむ、これは」

「どう? なにか分かった?」

「……『幸運』、ですね。周りに良い人が集まりやすいとか、ちょっとした良い事が起こりやすいとか、そんな感じです」


 ああ、うん、なんか納得した。

 なんだ、とシエラはちょっと落胆した様子だが俺からしたらちょっと羨ましいぞ、そのスキル。


「こほん、話を戻しまして……ニーナ様のお父様、『万能』を宿す身と言えど、ニーナ様はまだ幼き子供。彼女自身自分を守る術はありません。ゆめゆめお忘れなきよう」

「分かってるさ、ちゃんと守るとも」

「宜しくお願い致します。……では、私はこれで」


 と、ミアは立ち上がり部屋を出ようとするが、シエラが呼び止める。


「あっ、ミアちゃんっ、後でまた会えるかな?」

「……もうっ、お仕事モードの時にはそう言うのはナシにして欲しいんだけど、シエラ」

「ごめんねっ、つい嬉しくって」

「こういったお仕事が無ければ、ギルドの近くにある鑑定士の館にいつも居るから。用があったら来てね、遺物の鑑定とかもやってるから。……その、会えて私も嬉しかったわ。それじゃ、また後で」


 そう言うと、案内の男性に連れられて部屋を去って行った。最後の方、ちょっと笑ってたな。

 まあ同郷の親友との再会だし、本当はもっと話したかったんだろうが、仕事柄長く居る訳にはいかないのだろう。

 鑑定士はスキル鑑定以外にも遺物やアイテムの鑑定などもしている。割と忙しい職業なのだ。


「ねえパパっ! わたしすごいスキルもってるんだって!」

「良かったな、本当に。ニーナは凄い子だ」

「えっへへー♪」


 未だに興奮の冷めぬニーナの頭を撫でてやる。

 この子には驚かされてばっかりだが、今回ばかりは一番驚いた。

 『万能』をしっかり使いこなせるように、俺がしっかりと教育してやらなきゃな。


「さて、旅の疲れを部屋でゆっくり取って貰いたい……所だが、仕事の話があるんだ、ジム」


 静観していたラルフが口を開く。仕事の話、となると……。


「早速新種の迷宮か?」

「ああ、そのとおりだ。ギルドが"海底の迷宮"と呼称している迷宮に行ってもらいたいのだ」


 "海底の迷宮"、か。

 新たな冒険の予感に小さく心を躍らせながら、俺はその話を聞いていた。

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