第二十話【オッサン、話を聞く】
「早速で悪いんだが、現状を説明させて欲しい」
ラルフは膝の上で手を組み、真面目な顔で語り始める。
「ヘレンからもう話は聞いているだろうし、君達も気が付いているだろうが……今回の総転移で、非常に沢山の新種の迷宮が各地で発見されている。私が把握しているだけでも、この大陸内で十八種の迷宮が見つかっているのだ」
十八種。明らかに異常なケースだろう。
迷宮が出現し始めて数十年間、四種の迷宮しか見つかっていなかったのだ。こんなに一気に増えるとは明らかに妙だ。
総転移から一ヶ月間、俺は新種の迷宮の測量で大忙しだったから、その異常さが身に染みて分かる。
「新種の迷宮の中でも特異なのが、例の"黄金の迷宮"。君達を呼んだのもその調査に協力して欲しいからだ」
「今の所どこまで分かってるんだ? ラルフさん」
「……全くだよ、ジム。第一階層までの地図は何とか完成しているものの、それより先の深層へ行った者は逃げ帰って来たか、戻らなかった。何でも、恐ろしく強力な魔物が大量に居るらしくてね」
強力な魔物……一体どのような魔物なのだろうか?
対処するためにも、生き残った測量士達に話を聞ければいいのだが。
後で当たってみるか、情報は多い方が良い。
「次に攻略する時はSランク冒険者との混成軍で行こうと思っている……が、肝心の迷宮が見当たらない」
「数日すると転移してしまうんですよね、おじさま」
「そのとおりだシエラ、その性質もあって全く調査が進んでいないのが現状だ……全く頭が痛いよ」
渋い顔で、ほんの少しだけ悔しそうにラルフは言う。
大陸一を誇るギルドが手も足も出ないとあって、色々思う所もあるのだろう。
しかしSランク冒険者と共同作戦とはずいぶん大きな話だな……。
冒険者はD~Sのランクで分けられていて、高いランクの冒険者ほど、難しい任務をこなすことができる。
中でもSランク級の冒険者は、一人で一般的な迷宮の守護者を圧倒できる程の力を持つ。全冒険者の憧れとも言える存在だ。
それほどの存在と組んで迷宮を測量するとは、ギルドの本気さが伝わってくる。
「ジム、君には黄金の迷宮が見つかるまでは、トランパル近郊に出現した新種の迷宮を測量してもらいたい。時には冒険者と組んで仕事をして貰う事もあるだろう。普段と勝手が違って大変だろうが、しばらくの間よろしく頼む」
「了解した。それと安心して大丈夫だ、人を連れて歩くのには慣れているからな」
と言うと、ちらりとニーナの方へ目線をやる。
ニーナは話にちょっと飽きてきたのか、キューちゃんの毛繕いをしていた。まあ子供には少し難しい話だよな。
その目線の先にラルフも気が付いたのか少し驚いた様子。
「にわかには信じがたいが……もしかして君は、本当に娘を連れて迷宮に行ってるのか? ヘレンのいつもの冗談かと思っていたが」
普通、小さい子を連れて行くような場所じゃないしな。そう思って当然だろう。
「本当の娘じゃないんだけどな……まあ、その通りだ」
「なんと……心配ではないのか? 怪我とか、万が一の事もあり得るだろうに」
「心配は心配だが、一人で留守番は嫌だっていうもんでね……それにこの子、見た目では想像つかないかもしれないが、優秀な見習い迷宮測量士なんだ」
と、ここまで言うと俺の言葉を遮るようにニーナが語り始める。
「うんっ! あのねあのね、はいじょうのめいきゅーって所もパパといっしょに行ったんだっ!」
「そうなんですよっ、最近では付き添いが居るなら迷宮の地図も書けちゃう程で!」
ニーナの主張に乗っかるように、シエラがフォローを入れる。
ラルフは少し疑っている様子。まあそれも仕方がない事だろう。
「むう……まあ、測量のパーティに関しては君の一存に任せるつもりだ。ヘレンが任せたのなら大丈夫だろうしね」
「ありがたい。ちなみにヘレン……うちの街のギルドマスターは何て言ってたんだ?」
「『自分の娘を迷宮に連れて行くような親バカだが、腕は確かなのを送る』と。前半は比喩だと思っていたのだがな、フフッ」
誰が親バカだあの野郎っ!
自分だってニーナを滅茶苦茶可愛がってた癖に……まったく。
「しかし、申し訳無いのだがトランパルで活動するのなら、君も娘さんもギルドに登録してもらわなければならない」
「登録?」
「ああ、本来であれば必要無いのだが、ここトランパルのような大きな街にもなってくると迷宮測量士の数も膨大になってくる。それに、ギルドの依頼で冒険者とパーティを組む事も多々ある。人数の把握とパーティ作成の円滑化が目的でやって貰ってるんだ」
なるほど、大体分かった。
特に断る理由も無いだろうし、さっさと登録を済ませてしまうか。
「そっちの方も了解した、受付の方に行けばいいのか?」
「いや、今から用意する書類に書くだけで良い。面倒を掛けて済まないが、よろしく頼むよ」
とラルフは立ち上がり、自分の机から二枚の紙とペンを持ってくると俺に手渡した。
随分と用意が良い、元々準備してあったんだろうな。
ニーナの分の書類とペンを彼女に渡し、スラスラと書いていく。
名前、職業、スキル……ああ、そうだスキルといえば。
「……っと、そうだ。良ければスキル鑑定も頼めないか?」
「ふむ、何故だい?」
「ニーナのスキルが知りたい。この子、色々と特殊な力を持っているようなんだ」
思い出したとばかりに聞いてみる。
大きな街の冒険者達は、登録の際にスキル鑑定をして貰ったりするものだ。
その例があるならば、迷宮測量士も願い出れば鑑定してもらえる筈。
「うむ、分かった。早速手配させてもらうよ」
有難い事に、ラルフはうんと頷いて快諾してくれた。
魔物を見つける視野の広さ、罠を見分ける洞察力……それ以外にも、彼女には秘めた力を持っている。
それを理解する事は、今後一緒に活動していく上で必要な事だと思っていた。
これでようやくニーナの力が明らかになる。
俺たちは書類を書きつつ、鑑定士の到着を待つ事にした。





