第九十二話【オッサン、作戦を聞く】
その日のギルドロビーは、いつも以上に人と活気であふれていた。
迷宮測量士、冒険者を始めとするギルドの精鋭、大聖堂から派遣されてきた治癒魔法の心得がある聖職者、それを囲むように見ている様々な人たち。
腕に自信のある者、正式に依頼された者、はたまた富や名誉を求める者。
様々な理由で集う猛者たちの中に、俺とニーナは居る。
「諸君、集まってくれてありがとう」
迷宮測量士と冒険者達が整列する中、いつも以上に真剣な表情のラルフは、そう言って話を切り出した。
自然と視線は先頭に居るラルフの方へ集まり、全員がその言葉に耳を傾ける。
「今回集まって貰ったのは他でもない、"黄金の迷宮"の測量、及び攻略を行う為だという事は、皆理解してくれていると思う。昨日ついにその迷宮がトランパル近郊に出現した。目と鼻の先と言っても過言ではない場所だ」
そう、例の"黄金の迷宮"が遂に姿を表したのだ。
そもそも俺たちがトランパルに来たのも、その迷宮を測量する為。
すっかりこの街に馴染んでしまったが、元々は一時的な滞在なのである。
……忘れてた訳じゃないぞ、断じて。
「かの迷宮には何人もの人間が犠牲になった、今回の作戦も相当厳しいものになると予想される……だが」
そう言うとラルフは拳を握りしめ、その声を響かせた。
「我らは冒険者であるッ! 夢を追い求める思想家であり、未知を探る探究者であり、人々を支える希望であるッ! 我らには迷宮から遺物を持ち帰り、世界の発展に貢献してきた歴史と誇りがあるッ! 今まさに、我らに挑戦状を叩き付けるかのようにかの迷宮は現れた、なればこそッ! 我らは挑まねばならないッ! かの迷宮が究極の未知として存在している限りッ!」
その力強い演説に、拍手と歓声が巻き起こる。
相変わらずラルフは人を惹き付けるのが上手い、流石ギルドマスターだ。
「では諸君、本作戦を説明するッ!」
大勢が盛り上がったところで、ラルフは次の様に説明した。
今回の作戦は測量班と攻略班に分かれての作戦になる。
まずは測量班。これは迷宮測量士二人とSランク冒険者一人で構成された六組のパーティだ。
護衛の冒険者と共に罠や最深部への道を捜索していく。深度が深ければ休憩地点の設置も行う。
攻略チームの消耗を出来るだけ抑える事が主な役目だ。俺とニーナは恐らく測量班だろう。
そして攻略班。Sランク冒険者の中でも選りすぐりの精鋭六人で構成された、最強のパーティだ。
測量班が最深部への安全な道を確保した後に出発し、守護者の撃破と遺物の確保を目的としている。
後発な分、攻略班の方が楽に思えるかもしれないが、相手は何人もの人間を喰らって来た最難関の迷宮だ。
そんな迷宮の守護者である。どんな相手にしろ、死闘が予想されるだろう。
あとは後方支援として、迷宮の外にテントが張られ、いつでも補給や治療が受けられるようになっている。
これは商人組合とカルーン教団の仕事だな。何があるか分からない以上、こういった支援はありがたい。
説明を終えると、ラルフはこほんと仕切り直すように咳払いをした。
「──さて、各班のリーダーを発表したい。呼ばれた者は前へ出てきてくれ。まず測量A班! ジム・ランパート!」
おっと、いきなりか。大勢の視線が俺の方へと集まっている。
俺は言われた通りに前へと歩きだそうとするが、ニーナの少し寂しそうな視線が痛い。
「ニーナ、ちょっと待っててくれよな」
頭をポンポンと撫でてやると、安心したのか笑顔を見せてコクリと頷いた。
……何だか複数から微笑ましい目で見られている気がする。ちょっと恥ずかしい。
俺が前に出ると、次々とパーティリーダーに選出された者が前に出てくる。
全員ギルドでも名の知れた腕の立つ迷宮測量士だ、俺も耳にしたことがある。
「さて、続いて攻略班のリーダーだが──西の大陸から来てくれた彼女に任せたい」
西の大陸? と俺が疑問を浮かべていると、一人の人物が前に出てきた。
高名な魔術師がよく被るとんがり帽を被り、黒いローブに身を包んだ女性。
赤いミディアムロングの髪を持つ、妖艶さを感じさせる女性……あれ、なんか何処かで見たような──って!?
「紹介しよう、彼女はクレア・ルエーシュ。かの機構の迷宮を始め、様々な未踏破の迷宮を攻略してきた実績を持つ冒険者だ」
「リーダーに選ばれて光栄よ、よろしくお願いするわ」
……ラルフが呼んだんだろうな、まさかこんな所で再会するとは。
突然の出来事に呆気に取られていると、クレアと眼が合った。
彼女はふっ、と微笑んで小さくブイサイン。ああ、変わってないんだな、アイツ。
……いかんいかん、つい頬が緩んでしまうが、今は集中する時だな。
「以上が選ばれたリーダーたちだ、メンバーの者は彼らの指示に従って欲しい。……さて」
ラルフは選出された者を紹介し終えると、改めて大勢の方に向き直った。
「ああは言ったが、我らは冒険者である前に一人の人間だ。我らには帰る場所があり、待っている者が居る。我がギルドは……私は君たちの事を家族の様に思っているし、誇りとも思っている」
そう言うと、彼は眼を瞑って祈るように頭を下げ、次の様に語った。
「私個人からの指令……いや、願う事は一つだけだ──"必ず生きて戻って来てくれ"」
全員がその言葉を聞く為に、騒々しかった場が静まり返る。
目の前に居るのは高名なギルドマスターではなく、全員の無事を祈るただ一人の人間だった。
その言葉を聞いた反応は様々。返事をするように強く頷く者、無言で拍手をしだす者、感銘を受け涙を浮かべる者。
今まさに、冒険者を始めとする迷宮に挑む者たちが一つになった瞬間である。
「……ありがとう、みんな」
その数々の返事を強く受け止めて、ラルフは顔を上げる。
全員を見渡し嬉しそうに微笑むと、力強い言葉で号令を出した。
「ではこれよりッ! 黄金の迷宮攻略作戦を開始するッ!」





