仮の店と真の店
メルダも落ち着いたのでじいさんと話せそうだ。
こたつに入っている俺達4人。
メルダは俺達にお茶を出してくれた。
「で、よい防具が欲しいと?」
爺さんは俺達にそう聞いてくる。そうそう、俺達の目的はそれだ。
自分のことなのにすっかり忘れていた。いい防具を付けてレイとやっちゃんの攻撃に耐えないといけないんだった。
「違うからね」
目を細めてこっちを睨むやっちゃん。最近なんか鋭いよね。
「いやいや、この爺さんの店は品揃え悪いんですよ!!そしてバカ高い。本人を前にして言うことではないと思いますけど。だって、普通の鋼の剣が3Gもするんですよ!おかしいでしょ?そんなもん買うのはアホです。金の価値がわからないバカだけです。」
力説している通り本人を前にしては言いにくい言葉だな。
でも、潰れていないのにはなにか理由があるはず。売上がないと生活できないもんね。綺麗な奥さんと2人とはいえ生活費はいるはずだから。
そう、メルダはものすごい美人さんなのだ。綺麗な金色のカールした髪、大きな目に高い鼻、肉厚の桃色の唇。ただ、割烹着姿でちょっと似合わない。すごく変な取り合わせなんだけどね・・・。
「アレは仮の店じゃからな。本当の店はアレの地下にあるんじゃ。メルダが用意した特殊な素材を使って打った逸品じゃぞ?知る人ぞ知る店としてひっそりやっているんじゃ!まぁ噂を聞きつけてきた貴族のバカどもはあの店を見て帰るという方法で今までやってきたわけじゃ。」
うゎははははははは!!って大笑いしながら言われてもね。
メルダはどうやって特殊なものを揃えるんだろ?
爺さん曰く、メルダの戦闘力で貴重な素材になる魔物を狩りまくっているそうだ。メルダは非常に強い魔族らしい。今の姿からは想像もつかないんだけどね。
「まぁ飛翔第3部隊の隊長だったからね・・・。」
レイの言葉に
「お前そんな地位にいてワシに付いて来たのか?ワシが惚れて声を口説きまくったがそんな地位なら捨てんでも良かっただろう。」
「嬉しかったの。あんなに熱心に言われて・・・」
モジモジしながら真っ赤になるメルダ。レイと反応が一緒だね。
「魔族の女って熱心に口説かれるとかあんまり経験ないからコロッといっちゃうのかも。私もメグミにそうされてすごく嬉しかったもん!!」
滅茶苦茶くっついてくる。別にメルダに見せつけなくてもいいんじゃない?
メルダも微笑んでいる。
「まさかゼロ様、じゃなかったレイさんがそんなふうな感じになっているなんて思いませんでしたよ。そういや、外の連中が熱狂するレイ様はレイ様で??」
すごい悲しそうな顔になりながら頷くレイ。ソレを見て申し訳無さそうに頭掻いているジル。
「この人のせいです。」
レイがジルを指さす。
「いやいや、アレはジルのせいではないでしょ?そもそもの原因はレイのお父さんじゃない?」
やっちゃんがジルの肩を持つ。ジルがやっちゃんの方を見て目を輝かせている。
「え??先代魔王のゾルミス様が原因??何があったんですか?」
経緯を話すとメルダは目を見開いて先代魔王がそんな変な人だったのかと落ち込む。
尊敬と畏怖の存在から娘ラブ過ぎて頭おかしい人レベルに落ちたみたい。
頑張って威厳を保ってきた現役時代が無駄になっていく今日このごろ、ある意味お気の毒だな。
『そんな人だったなんて』を呟きまくっていた。
「防具いいのある??」
しかたなく話を大きく変える。
爺さんは俺に合うのはやはりローブ系の軽いものだと言い切る。
鎧は向かないようだ。どうしても着たいのであれば職を変えて重装備に耐えられるようにしないといけないらしい。そこは力の問題ではなく性質の問題だと言っていた。鍛冶屋であり販売も行っているプロが言うんだから間違いないだろう。だから最初に勧めてくれたピーターは的確にそこを理解していたんだろう。
というわけで鍛冶屋とは全く関係ないローブを買うことになった。
真っ黒な生地。黒一色ではなくちょっとキラキラしたものが付いている。中は真っ白。リバーシブルではないらしい。
名前は昼夜のローブというらしい。試しにレイに小突かれてみたが当たっている感じしかしない。防御力が高いなこれ。やっちゃんは面白がって剣の腹で俺をスパーンとど突き俺は吹っ飛んだ。それはとっても痛かった。防御力が高いとはいえ刃があたっていたら両断間違いなしだろう。酷いやつだ。最近こいつにはひどい目にあってばかりのような気がしてきた。ヨロヨロ起き上がると慌てて介抱しに来るやっちゃん。
レイはメルダにお別れを言って抱き合っていた。
あんなに恐れられていたレイ、昔はどんな人だったんだろう。今では怖いイメージ全くないんだけどね。
怖いイメージより可愛いとか精神的に脆いとかすぐ泣くとか少しアホとか・・・。
冷酷なイメージは全くない。
その後、メルダの話をしてくれた。レイはメルダがいなくなった時、死んでいないか心配だったらしい。それが人と一緒に過ごして幸せそうだったからすごく嬉しかったそうだ。あれで子供でもいればよかったのにな。と言っていた。
俺達もあんな風に一緒にいれたらいいね。そう思う俺だった。