永久にあなたのそばで
森先生のお話です。
ピ・・ピ・・ピ・・
『とうとう・・・あなたのもとに・・・』
電子音の響く部屋で私を囲む子どもたち・・・。
すすり泣く大勢の者が私の横たわるベッドを囲っている。
私は裕福な家庭に生まれて何一つ苦労することなく、何の疑問もなく、そして何の起伏もなく、ただただ息をしているだけの生活を送っていた。
親の言われるままに、勉学に励み、親の言うままに就職して、親の言われるままに見たこともない人とお見合いをして・・・。
でもただ一つ、親の引いたレールとは違う道を選択した。
そう、私は親の勧める人との縁談を断り続けて、心の底から愛する人と結婚した。
その人は・・・
恵さん。
あの人が結婚すると聞いた時、私はなぜか泣いた。
知り合った時は、私にとってはまだ、可愛くて、少し好意を持っている程度の男子生徒だった。
でも一緒に過ごす時間を少しづつ積み重ねているうちに少しの好意は愛しているのかな?に変わっていった。
あぁ、私は教師なのに生徒に恋してしまったのだな・・・なんて少し自嘲気味に笑ったものだ。
「俺達結婚します。だから・・・式に出てくれませんか??」
手を繋いで母校である私の務める学校にやってきた二人・・・。
恵さんと弥生さん。
私の務める学校を卒業して医学部に進んだ二人。
学生の身で結婚するというのだ。
私は顔見知りだから笑顔で
「おめでとう!!」
そうとしか言えなかった。
そしてその晩、家で泣きまくったっけ??
今ではいい思い出ね。
でも結婚生活はそんなに長く続かなかったみたい。
そして彼は結婚離婚を繰り返していた。
その理由は彼女たちをすべて幸せにするために。
愛が終わって離婚したなんてことは一度もない。
そんな感じでいつまでも離婚した彼女たちとも仲良くしながら楽しそうな日々を送っていた。
私もいつの間にか30も終盤に入り、焦り始めた時、彼と食事をする機会があった。
しかも2人で・・・。
私はしっかりと覚えていないんだけど、彼が言うには酒によった私は彼に責任を追求したそうだ。
「おい!!!恵くん!!」
「はい!!?」
「私はあなたを愛しているのよ!!わかってるの??」
「え・・・えっと・・・そうなんですか・・・。」
「なんだその答え??そうなんだよ!!私はあなたが大好き!!結構前からね!!で、いまはあなた・・・フリーでしょ??私と結婚しなさいよ!!!責任とって!!もう私・・・30代終了よ??親がなんて言ってるか知っている??孫が〜〜〜孫が〜〜〜・・・うっさいわ!!」
テーブルをドン!!と叩いて睨んでいたそうだ。
「はぁ・・・すみません。じゃぁ・・・結婚してください。」
「ふぇ??」
その時の話を聞かされた時は赤面して走って逃げたくなった。
だけど彼は本当に私と結婚してくれた。
そしてあっという間に子供が出来た。
双子の息子と、娘2人。
その4人の子供は私の宝物。そして恵さんと過ごした日々も・・・。
あぁ・・・今思えば幸せな一生ね。
子どもたちも立派な大人になって、孫の顔も見せてくれた。
曾孫とまでは行かなかったけどね・・・。
「「お母さん!!」」
「「おかぁさん!!」」
「バァバ!!」
「バァちゃん!!」
皆が私をよんでいる。だけど・・・もう・・・すぐ・・・
「ふふ・・・たのしかったなぁ・・・」
とても小さな声でそう云う。
そして・・・私はそっと息を引き取る。
『恵さん・・・はぁ・・・早くあなたに・・・』
「・・」
「ん?」
「・・、・・」
「え?」
「美香!」
「ふぇ???」
私は名前を呼ばれて飛び起きる。
キョロキョロするとそこは深い青い空間だった。
私にまとわり付く白い煙のようなもの。だけどそれで苦しいとか言うのは全くない。
「美香。目を覚ました?」
「え??」
私は私の右側で膝を付いている人を見て驚く。
「め・・・恵さん!!!????」
「ははは。先生の驚いた顔、面白いね。」
驚くも何も・・・彼の若かりし頃の姿を見て顔に血液が登ってくるのがわかる。
綺麗な顔立ち。線が細いのに弱そうに感じない体。
私は死の間際になんて幸せな夢を見ているのだろう。
私は恵さんの頬に手をやる。
すると彼は私の手に手を添えて目をつむってくれる。
「ははは。先生。久しぶりだね。お別れしてからどれくらいかな??」
「え??ふふふ・・・あなたと別れて・・・8年かしら??」
「そんなにか・・・俺も先生がこっちに来るのを待っていたんだよ。」
「こっち??それは・・・えっと・・・ここは地獄??」
薄暗い青い世界。どう見ても天国っていう感じではない。
「はははははは。まぁ見た感じは暗くてそう感じるね。でもね、ん〜〜〜〜〜。なんて言えばいいのかな???先生はどっちがいい??」
「ふふふ・・・あなたがいるならどっちでもいいわ。地獄でも、天国でも。あなたの側が一番いい。」
私はあふれる涙をこらえきれずに彼の胸に顔を埋める。
「ははは。そんな泣かなくてもいいじゃない?」
「・・・は!!こんなババァがあなたみたいな若い人に抱きついたら変よね!!」
私は我に返って彼から離れる。
「ババァッって・・・。先生は若くて可愛いよ。それよりこっちに来て。」
「え??」
彼は私の手をとってゆっくりと引っ張り起こしてくれる。
そして彼の背に隠れて見えなかった明るい光の方に手を繋いだまま引っ張られる。
「え??え・・・っと・・・。ちょっと・・・」
グイグイ躊躇なくその光の方に歩く恵さん。
そして・・・目の前が明るくなり何も見えなくなる。
「ようこそ、先生。」
私はゆっくりと眩しくてつむっていた目を開ける。
するとそこには・・・
「え?ここ・・・どこ??」
豪勢な飾り付けをされたとても大きな広間にいる私と恵さん。
そして・・・
「え??え?ええ??ええええええ???」
私の目の前にずらりと並ぶ見覚えのある顔。
「先生。久しぶりね。」
「ほんと!!いつになったらこっちに来るのかと待ちわびたわ?」
「まぁ、そう怒るなよ!長生きして子供や孫のことも見なくちゃだけだろ??恵みたいに早死してちゃダメなんだよ!」
「まぁそれより早死したレイは何も言えないわね。」
「ええ??だって、向こうの生活も大事だけどこっちにもね〜。」
「それでも58はないんじゃないかしら?」
「ハウンだって結構早かったでしょ?」
「早いって言っても70よ?」
「まぁまぁ、そんな寿命で喧嘩しなくても。で、先生、俺のそばに居たいんだよね?」
「え?ええ。まぁ。」
私は困惑している。ここはどこなの??何故全員集合??
「ほら、恵!先生にちゃんと説明してあげなよ!!」
「ん〜〜〜〜〜、じゃぁ簡単に説明しようかな??」
私は恵さんにことの始まりから話を聞く。
レイさんのこと、弥生さんのこと、そしてハウンさんのこと。
何故人気絶頂のマッキーと知り合いだったのか。
何故強そうに見えないのに圧倒的な腕力を誇っていたのか?
頭脳明晰、成績優秀だった理由、以上に落ち着いた性質だったのか。
そして私は納得する。何故かすんなりと。
こんな突拍子もないことをいきなり聞かされたのに、頭の中にすっと入って、すっと馴染んでいく。
「はぁ・・・。そういうことだったのね。恵さん・・・。」
ばちん!!!
私は恵さんに平手打ちをかます。
その場にいた人たちはその行為に驚く。
「何故先に言ってくれなかったんですか!!どれだけ!!!どれだけ・・・どれだけ・・・」
私はその場にしゃがみこんで泣いてしまう。
「・・・ごめん。言いたかったんだけど・・・。言えなかったんだ。」
「はじめまして。私はシャロンと申します。恵さんのことを責める気持ちはわかりますが私の話を聞いてください。」
私の前にしゃがみこんで私の顔を覗きこむ美しい女性。
真っ白な透き通るような肌、それに美しいシルバーの髪。
なんとなくハウンさんに似た女性は笑顔を見せながら私にゆっくりと話を聞かせてくれる。
「・・・ということなので・・・。恵さんは地球でその話をすることができなかったのです。」
「シャロン、ありがとう。でも、先生を悲しませたことには変わりないんだよ。だから・・・ごめんね先生。」
「ふふふ。生徒に謝られていつまでも不貞腐れているのはダメですね。仕方ありません!!許しましょう!!」
そう言いながら私は立ち上がる。
「それでここではどうしていけばいいのですか??あと、子どもたちは??死後こちらに??」
私の言葉に少し顔をしかめる恵さん、そして困った顔をして顔を見合うレイさんたち。
「子どもたちには申し訳ないけど、俺達の代までにしているんだ。だから子どもたちは向こうで寿命が尽きれば、残念だけどそのまま。」
「そう・・・」
「ただ、俺の力で不幸になることは絶対に無い様にしているから。安心して。」
「まぁ、金に困ることはないだろうからね〜。恵の子どもたちは〜。安心しろ!先生!!」
マッキーさんが笑いながら私の肩を抱く。
「じゃぁ紹介していくね!!まずは・・・」
この場にいる人たちを一人づつ紹介してくれる恵さん。
名前、繋がり、関わり、その他いろいろ。
「あ・・・あの・・・いっぱいいすぎて・・・覚えれません。」
私はこの広間にいる数の10分の1ほどのところでギブアップする。
だって・・・複雑すぎる・・・。
恵さんの子供で恵さんの元妻の夫?
恵さんの娘の夫で、レイさんの弟で、元妻の息子??
「えっと、そのへんは複雑なんだよ。シャロンに頼んであちらとの繋がりを切ったら時間の流れが変わっちゃって・・・。そのせいでたった8年のはずがこっちではすごい時間が進んでしまっているんだ。そのせいで夫婦というのがね〜〜〜、長すぎてくっついたり離れたりで・・・。一応近親相姦にだけにはならないように気をつけているんだけど、それ以外は気にせず結婚したりしなかったりで・・・ははははは。」
「ははははは・・・って・・・。」
私は冷たい目で恵さんを見てしまっている。
きっと死ぬ前の夫婦生活では一度もしたことがないほど冷たい目を向けている。
「まぁやっぱり呆れるわよね?先生の気持ち・・・わかるから。」
弥生さんが困った顔をしながら近づいてくる。
「先生、こっちじゃそういうのあまり気にしちゃダメよ。」
「いや・・・でも・・・あ〜〜。だからみんなあんな結婚生活を送っていても平気だったのね・・・。なんか・・・納得。」
離婚したのに一緒に住むとかありえないと思っていたけど、この雰囲気ならやっても気にならないか・・・。
「はぁ・・・美しい私の思い出が・・・なんか・・・はぁ〜〜〜〜。」
何故か物凄く落ち込んできた。
何故か物凄く悲しくなってきた。
「なんか・・・幻滅しているわね。」
「そうね。」
「まぁ、現実知ったらそうなるわ。しゃぁない。」
弥生さんと、レイさん、マッキーさんが笑顔をこぼしながら話している。
「え・・・えっと・・・先生??やっぱりあの世のほうが良かった??」
私を見てオロオロしている恵さん。
「まぁこれから長い時間あるんだし、ゆっくり考えてみたらいいんじゃないですか??」
「そうよ〜〜。第二の人生だと思って愉しめば??恵さんにこだわらなくてもいい男はいっぱい居るわよ〜〜。」
「あ、そんなこと言うなよ、ミシュラ・・・。」
大爆笑に包まれる。
何で笑言えるの??
「私・・・ここでやっていけるのかしら??」
私は誰にも聞こえない小さな声で呟く。
いかがでしたか??
森先生だけあまりにも放置だったのでその後のお話を書いてみました。