キス
ちょっとした小競り合いにすら巻き込まれて死んでしまう俺。
俺のあこがれだった女性は思いの外性格が・・・。
勝手に理想を押し付けた俺も悪いけど・・・
家に帰るとさっきの騒ぎは何事?と家族に問われたが
「え?なんのはなし??」
ととぼけておいた。
するといとも簡単にそれが通ったのだ。
始まったばかりの今日をもうヘトヘトでベッドに転がる俺。
時間を止めた世界ってもしかして疲れが増すのかな?
どうでもいいことを思っていると
「ただいま〜」
「おじゃましま〜す」
下から2人の声が聞こえてくる。
ドタドタ走って上がってくる足音。
一人の時間が欲しかったんだけどね。思ったよりも早く帰ってきたな。
ガチャ!
入ってくる2人。
「「あ、あの」」
沈黙が長く長く空間を支配する。
「キスしていいですか?」
はい??なんで??レイもびっくりしてやっちゃんの方を向く。
「私はさっき言った願いを叶えてもらっていません。だからレイにした分は私にも必ずしてください!!これなら魔人に頼らず恵くんの力でやることが出来ます。」
真っ赤になりながら変なことを言うやっちゃん。
「レイにキスしたら私にもキスしてください。レイのチチに触ったら私のチチにも触れてください。レイの裸を見たら私の裸も見てください。レイとエッチしたら私とエッチしてください!!」
「それが願いです!!おねがいします!」
「ははははは」
俺は思わず笑ってしまった。
「これ、言わなくちゃダメなの??『その願い叶えてやろう』って。」
お腹を抱えながら笑う俺。
落ち込んだ気分がなくなった。
「げ、元気でた?恵くん。」
下を向いたままの俺を座って覗きこむやっちゃん。
「うん、元気でた。ありがとう。」
「私は何があっても漏らさないからやってもらう可能性はゼロです!!!」
あまりの爆弾発言でフリーズしていたレイが大慌てで食いついてきた。
「それはダメよ。正々堂々としないと。それが嫌なら妹になりなさい。」
「ぐぐぐ・・・」
どっちも嫌なんだろうな。可愛いなやっぱり。
やっぱり俺は女の子を見る目があったんだ。
こんなに親身になって俺を心配してくれる彼女たち。
和気藹々とした空気にしてくれる彼女たち。
俺は彼女たちに生かされている。
彼女たちの暴走で死んだとしても生かされているんだからプラマイゼロということでいいと思う。
「やっちゃん!!」
「はい!!」
俺が名前を呼ぶとシャキッ『気を付け』の姿勢になった。
やっちゃんの頬を両手で挟んでキスをする。
唇が当たる直前に
「だめ〜〜!!それは違う!!絶対違う!!昨日の晩は私がしたの!!キスは私からしたの!!これは意味合いが違うからダメ!!ぜ〜〜〜〜ったいダメ!!メグミからやるのは意味がちが〜〜〜〜う!!ちょっとやっちゃんも離れなさい!!」
ギャ〜〜ギャ〜〜言いながらレイは俺の首を腕でロックして引き離す。
俺の目の前のやっちゃんの顔が歪んでいく。そして世界が黒く染まっていった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。」
俺、今日というより数十分で2回死んだんだ。
レイの太ももの上で目覚める俺。
「はい!膝枕したね〜次私の番だよ〜〜」
俺の頭を拾い上げて自分の太ももの上に俺の頭を置くやっちゃん。
「減点したほうがいいよ〜〜絞め殺しちゃったもんね〜」
邪悪な笑みで俺に言ってくるやっちゃん。
「レイは10減点。理由は俺殺し。やっちゃんは10減点。理由は顔が邪悪すぎ。あはははは」
俺が笑うと、釣られて2人も笑う。そして膝枕をされる俺にやっちゃんがキスをした。
「レイ、これならいいんでしょ?」
微笑むやっちゃん。
「仕方ない。悔しいけど仕方ない・・・。」
涙目で下唇を噛んで言うレイ。
泣かんでもいいんじゃない?
そうこうしているうちにお昼の時間になった。
「お兄ちゃん、レイ姉ちゃん、弥生ちゃん、ごはんできたよ。降りといで〜。」
妹の美久が俺達を呼ぶ。
目をゴシゴシするレイ。
それを見た美久が
「お兄ちゃんがレイ姉ちゃん泣かした〜!!」
えぇ〜俺のせいですか?
「はい、メグミに泣かされました。」
ま、マジか。
やっちゃんはお腹おさえて笑いをこらえている。
心の中で減点しておこう。