穴、そしてお別れの時
「オヤジが来たよ。ミシュラ。」
ハーベルがミシュラの横に座って俺の方を少しだけ見る。
「ハーベル。お父様なんですからちゃんと呼んで上げなさい。」
「父親っていってもね〜。女癖悪すぎて子供に総スカン食らってるじゃない?そんな奴に尊敬して呼べって言われてもね・・・。」
「ハーベル・・・。最近生意気だな??ちょっとあの部屋行くか??」
「ははは。すぐに力かよ・・・。ミシュラと変わんないな。」
ミシュラに向かってものすごい言い方だ。
「ハーベルは怖いもの知らずね・・・。夫でなかったら殺していたわよ?」
「お母様もそう言わず・・・。兄さんだってそんなつもりないんですから・・・。ねぇ。」
「レイリーさんは大人だよね。周りの大人が子供すぎるだけか??」
ハーベルとレイリーが笑っている。会話からわかるように、今、関係がごちゃごちゃだ。ミシュラとハーベルは結婚している。そしてハーベルはチアの兄なのでものすごい年下のハーベルがレイリーの兄さんに当たる。そして・・・
「お父さん、お呼びしたのはこのことででして・・・。」
そう、今現在、レイリーは義理の息子だ。以前もそんな感じではあったが今では正真正銘の義理の息子となっている。関係がグチャグチャすぎてもうどうしていいかわからない。これも寿命が長すぎるのが悪いのだ。ミシュラは俺の元妻で義理の娘でその息子であるレイリーは俺の息子であるハーベルの義理の弟であり、レイと俺との関係があるので俺とも義理の弟である。しかも娘と結婚したから義理の息子でもある。ごちゃごちゃしすぎて意味がわからない・・・。
「恵さん、これ・・・穴なんですけどね・・・。なぜか全く違う世界に続いています。」
「え??地球じゃなくて?」
「ええ。地球ではないみたいです。機械のたぐいはありません。どちらかというと物理攻撃オンリーの世界のようです。」
「ほうほう。魔法が使えないってことだよね?」
「そうです。俺が行ってみたら、ただの人でした。」
レイリーの一言で、ハーベルとレイリーが肩を抱き合って爆笑している。君たち本当に仲がいいよね。
「で、相談なんですが、誰か向こうで遊んできてくれませんか??」
ルナリスがいきなり無茶なことを言い出す。
「オヤジはもうこの世界に飽きてるだろ?だからうってつけじゃないかな?という話になったんだよ。レイさんや弥生さんを連れて行ってみたら??」
「じゃぁお前が行けよ。」
俺の一言に眉をひそめるハーベル。
「あのさ〜〜。俺が行っても面白くないだろ?花を持たせてるんじゃない??俺だってオヤジに行かせたくないよ。できれば自分で行って遊びほうけたい。でもそれをミシュラも許してくれないんだよ。」
「シャロン!!」
俺の大声にすぐさま現れるシャロン。
「恵様!!何か用ですか??」
「ハーベルがむかつくから折檻しといて。」
「・・・ハーベル・・・。またお父さん怒らせたのね・・・。」
「あ・・・いや・・・その・・・オヤジ!!ママに言いつけるなんてひどいな!!」
「俺が甘い顔をしてる間に媚びへつらっときゃこんな目に会わないんだよ!!」
ハーベルにデコピンをしてそのまま穴に突き落とす。
「覚えてろよ〜〜!!」
「ちょっと!!恵さん!!ハーベルが行ってしまいましたよ!!」
ミシュラがオロオロしている。
「ミシュラも行っといでよ。ここに飽きているのは君が一番だろ?」
俺の一言に黙るミシュラ。
「最古の神々がそんなことをして大丈夫ですか?」
「ははは。もうそういうのは気にしなくていいと思うよ。神もいるしね。自由にやってみたらいいんじゃないかな??」
「ふふふ。やっぱり恵さんは・・・すばらしい。」
俺に美しい笑顔を見せて穴に飛び込む。
「ハーベル!!待って〜〜!!」
「物理特化だから丁度いいですよね・・・。お母様が死ぬようなことはないでしょうし・・・。」
レイリーが穴を覗き込みながら笑っている。
「実はですね・・・。穴はこれだけじゃないんですよ・・・。」
シャロンが怖ろしいことを言う。
「時空の神々は何やってるの??」
俺の呆れた声に
「えっと・・・恵様と遊び呆けてます。」
ニヤッと笑って誤魔化すシャロン。
「この世界は子供たちに任せて俺達はどこかの穴に入ってみるかな??」
「いいですね〜〜!!私とどこか行きましょう!!私が居ればどこに飛ばされても帰ってこれますよ!!」
「それは俺単品でもそうできるでしょ?まぁ誰を連れて行くかだな・・・。」
「私は??」
「一緒に来ればいいじゃない?レイ達にも声を掛けてみようか?」
「そうしましょう!!」
そして俺は自分の屋敷でその穴の話をみんなにしてみる。
すると・・・
思っていた以上に反応が悪い。思っていた以上というより俺の期待を裏切るほど冷たい反応だった。
「シャロンは行っちゃダメでしょ?あなたが仕事放棄してどうするのよ?さすがにそれはまずいんじゃない??」
「う・・・」
やっちゃんに言われて行けないことに気付くシャロン。
「じゃぁ・・・誰もついて来ないんだね??」
「この世界でやることがいっぱい有るわ。子供たちのこともだけど、孫やひ孫、それに国の運営。どれをとっても抜けることなんてできないわよ?」
やっちゃんが呆れた顔で俺に言う。
「私も神々という身分を捨てはしましたが、さすがにこの世界から切り離されてはいけないと思います。仕事と言われるほどのことはないですがね・・・。」
ハウンまで・・・。
「私はついていくぞ。面白そうだしな。デュオーン姉が言っていたよ。いろんな世界を旅すると楽しいって。それに勉強になるって!!」
マッキーが嬉しそうに俺にくっついてくる。
「私も行くわ。この世界じゃ面白いことがなさそうだし。メグミの傍が一番楽しいし。」
レイもマッキーと反対側の腕にくっついてくる。
それ以外のものは全員ここに残るそうだ。少しさみしいな・・・。
「じゃぁ行こうか!!やっちゃん!!ハウン!!ここをお願いするね!!」
「ええ。無責任に手放す人の後をしっかりやっていくわ!!」
「何かあったらデュランチャンネルから連絡して!!すぐに戻るからさ!!」
「わかったわ。」
そうして俺達はルナリスの教えてくれた穴の一つへと向かう。