大事(おおごと)に発展
大混乱の街の中に忍びこむ俺達。
この程度の城壁の高さはひとっ飛び!!と言いたいけど、ラウルが城壁を壊して入っていく。
それを見た列に並ぶ人々が恐怖にとらわれて一目散に散っていく。
「あぁあ!ああなったらラウルは止まらないね・・・。恵様どうします?」
他人ごとのように言うダリア。
「2人も出ておいでよ。」
ダリアが虫かごをひっくり返すと青ざめて震える2人のヴァンパイア、シュムとリム。
「こ・・・こわかった・・・。」
目の前でレベル差万単位の魔物が怒り狂えばそりゃぁ怖ろしいだろう。
レベル差が倍程度でも相当怖いんだから・・・。
街に入ると鎧を着たものが沢山、白目になって泡を吹いて倒れている。
けが人が居るようだがすべて鎧を着たものばかりだ。一般の街の人々は隅っこで座り込んで震えている。
「ラウルは鎧を着たものだけを襲うように指示したんでしょうか?町の人に怪我はなさそうですよ?」
ダリアが隅っこで震える一般市民であろう人々を見て笑いながら言う。
「それにしても統制が取れた軍隊ですよね?指示を忠実に守ってますよ。多分・・・。」
ラウルがどのようなことを言って魔物を動かしているかはわからないが、街の人々には負傷者がいないのはいいことだろう。
だが、ここまで街を壊されると体の傷云々の話ではすまなくなると思うんだけど・・・。
「「「あ!!」」」
ダリアとシュム、リムが同じ方を指さして声を上げる。俺もそっちを見ると・・・。
「・・・」
「恵様・・・。侵攻が終わったみたいですね・・・。おめでとうございます・・・。」
ダリアの言葉に俺は門で見せると思って持っていた自分のノートを落としてしまう。
ミューアスの皇帝の城にうじゃうじゃと海の魔物が押し寄せて兵士を拘束しているのだ。
そしてその城の一番高いところでミューアスの旗を燃やして俺の国の旗を掲げるラウルの姿が見える・・・。相当な大きさに戻っているのでこの距離からでも見えるのだ・・・。
「1時間もせずにミューアスを落としましたね・・・。さすがです、恵様・・・。ははははは・・・」
「ミューアスに住む、全ての者に告ぐ!!この国は我らの主、恵様の手中に入った!!抵抗するものは容赦なく始末する。恵様の支配を受けるというものは今までと変わらぬ生活を約束しよう。繰り返す・・・」
ラウルが大きな声で何度も同じことを言い続ける。その声を聞いて抵抗していた兵士たちが武器を置いて項垂れている。
「我が王の主様・・・王が呼んでいます。こちらに・・・。」
俺の前に現れた巨大な海の魔物が俺に頭を下げてそう云う。
「この子供が??」
「え?この軍を指揮しているの?」
「魔物をこんなに??」
ヒソヒソと話し声が聞こえる。
「主様を愚弄したものを捕まえました。我が王のもとに連れて来いとの命令です。」
逆さ吊りにされて担がれているさっきまで横柄だった衛兵。頬を腫らして口から血を流してぷらぷらしている。
「うわ・・・お気の毒・・・。」
他人ごとのように言うダリアをものすごい目で見ているシュムとリム。
「一番の厄災はこの衛兵に降ってきたみたいだね・・・。」
俺の一言に吹き出すダリア。
「あはははははは!!さすが恵様!!こんな状況でも冷静でいらっしゃる!!」
笑い続けるダリアをみてドン引きの2人。
そして俺達は海の魔物に連れたれてミューアスの皇帝のいる城に向かうのだった。
「すべてのもの、膝を付け!!恵様がご到着だ!!」
海の魔物たちが一斉に頭を下げて俺の方を向く。
「恵様!!こいつらどうしますか??」
この国の皇帝とその后、そして・・・確かこの女は・・・ビレという名前だったと思うんだけど・・・。
震える皇帝と后。そして俺を睨みつける面識のある女ビレ。
「久しぶりだね?ビレ!!あれで皇帝の病気は治った??」
俺がそう言うと、
「貴様なんぞ知らぬわ!!この国をメチャクチャにしよって!!許さん!!」
その言葉に笑顔のまま顔に血管を浮かせてビレの前に立つラウル。
「おい、貴様・・・。恵様に失礼でしょう?言葉の使い方も知らないんだったら今すぐミンチにしちゃうけど??」
ものすごい怒りのオーラに当てられて海の魔物たちが震えだす。
「ラウル。彼女とは面識あるんだよ。俺の姿がこんな姿だからわかっていないだけだから。」
俺は変身をとくと
「・・・貴様は・・・。おぉ!!貴様はあの時の!!」
ビレが立ち上がろうとするとすぐさまラウルが触手で押さえこむ。
「恵皇帝の前で何をする気だ??」
いつもの可愛らしい顔ではなく、食うものを口にする前の顔になっている。
大きな口が耳まで裂けて細かく鋭い歯がたくさん見えている。
「お〜〜〜い、ラウル。顔がアレだぞ。」
ダリアがそう言うといつもの顔に戻る。俺の顔を見て顔を覆って真っ赤になってどこかに走って行ってしまう。
「お前が恵皇帝?あの時は冒険者だっただろ??」
「ああ、色々あって今は皇帝をやらされている。ちなみにだ・・・秘密ではあるが・・・」
シュローデヒルムも俺が支配していることを告げると
「馬鹿な・・・あそこは軍事大国でもあるはずだぞ??そんな簡単に・・・。」
「まぁゴタゴタのことは後で話すとして、変なことになってごめんね。ラウルが衛兵のことでキレちゃって・・・。」
「何の話だ??」
ビレが話を聞く体制になる。
「実はね・・・。」
俺はただ単に遊びに来ただけでこんなことになったことを説明する。
この国で指名手配されている話や、この国とつながるA国の話などもする。
「お前は・・・散策するつもりでこの国を滅ぼしたのか?」
「え〜〜〜。いや、そういう言い方はまるで・・・アレに聞こえるよね??俺の意思とは無関係にことが進んじゃったの。だから俺の国の一部にはなるけど、あんたたちがそのまま治めてくれればいいからさ??ははははは・・・」
俺は今ものすごく困っている。侵略するつもりなんか全くなく、遊びに来ただけでこうなったのだ。
俺はもしかしてものすごい力を持っているのか?
数千年、数を変えること無くあった帝国が今では・・・。2つになってしまった。
もうひとつも1年もせずにレイリーたちに攻め滅ぼされるだろう。
1年後にはこの世界には俺の国と魔族領だけになってしまうのだ・・・。
「おかしい・・・俺の意思は?」
小声でつぶやくと何故か気の毒そうに俺の顔を見るシュム。
そしてポンポンと肩をたたいて悲しそうな顔をするリム。
「おぉ!!その感じ!!いい感じだぞ!!恵様との接し方はそうあるべきなんだよ!!二人共掴んできたね!!」
ダリアが分けのわからぬことを言っている。
「あ!!レイ様やハウン様にも報告しなくっちゃ!!」
「おい!!衛兵!!通信機器ある?」
ダリアが震えながらそこに立つ衛兵を一人捕まえてどこかに走っていった・・・。