魔物っ娘の日常
「あ〜〜〜、だるいな・・・。」
リムが言う。
リムは私のパートナーでいつも私の側で仕事をしている。
「シュム・・・私達ってある程度強くはしてもらえたけどそれ以上はしてもらえないんだな・・・。なんでなんだろう?」
リムが不満そうに私に聞く。
「リム・・・実はね・・・恵様は私達のそれほど関心が無いのよ・・・。」
私の言葉に
「それくらい知ってるわよ。ここに来たヴァンパイアには基本的に接してくれないでしょ?雑用を言いに来るのは召使長のクロエさんだし・・・。あの人も色んな子に教育して回ってるから忙しいでしょうけど・・・。私達はのんびりさせてもらえて衣食住も与えられている。失敗した時の不安もない。まぁ以前ほど豪勢ではないけど、楽ではあるわね・・・。でも・・・」
「「退屈よね・・・。」」
私達は同じセリフを吐いて大きなため息をつく。
そこに
「何大きなため息ついてんだ?お前ら・・・。退屈なら遊んでやろうか??」
私達の前に仁王立ちで見下ろす女・・・。ダリアだ。
「ねぇダリア・・・。あなたは恵様のお気に入りよね?どうやったらそうなれるの?仲間になってすぐそうなの??最初は敵だったんでしょ?」
私がそう聞いてみると
「お前らもしかして恵様に気に入られたいのか??それならさっさと私に相談すればよかったのにな!!」
ダリアが笑いながら私達の方を抱く。
この女は私達の仲間内では有名なやつで『魔人ダリア』と呼ばれていた過去を持つ。
ヴァンパイアの中では非常に強い方でかつ、自分の領地を持つ恵まれていたヴァンパイアだった。
そこに恵様一行が現れて領地を滅ぼされて軍門に下ったそうだ。
その割にこの国の誰からも非常に可愛がられている。
私達から見ればとても羨ましい。
「いや・・・恵様だけど言う訳じゃないんだよ。ほら、レイ様や、ハウン様、弥生様とも仲がいいだろう?なんでだ?なにかいい方法でもあるのか?」
ダリアが困った顔をする。
「えっとな・・・裏表なく付き合う。ちゃんと突っ込む、たまに毒を吐くかな?」
ちょっと笑いながら言うダリア。
「それで仲良くなれるのか?」
「それでがどうかはわからないけど、私はそんな感じで接してるぞ。恐れずどんどん前に出る!!そして・・・」
「「そして??」」
「ひどい目にあう!!」
胸を張って威張りながら言うダリア。
「ちょっと・・・ひどい目にあうの??」
ダリアのこれまでに遭ったひどい目というものを聞いてみる。
それを聞いてリムは顔色を悪くする。
「あのロープはちょっと・・・。」
どうやらリムはその謎のロープを知っているようだ。
「あれ・・・やばいよな・・・。でもアレは誰が食らってもヤバイらしくて弥生様やハウン様、レイ様ですらロープを見せると顔色を変えて飛び退くぞ。」
「あの方たちもあんな目に遭ってるんだ・・・。恵様って容赦無いわね・・・。一応奥様なんでしょう?」
「恵様は誰にでも平等なんだよ。いい意味でも悪い意味でも。だからお前たちだって必ず扱いが一緒になるはずだぞ!!今まで距離を置いていたんじゃないか?自分の勝手な思い込みで。」
ダリアがそう言って笑う。
たしかにそうだ。新参者という勝手な思い込みや、恵様に攻撃した罪悪感、仲間にしてもらうまでの過程など・・・それを考えると仲よく出来そうな感じがしなかった。でもそれは私達が勝手に思い込んでいただけだ。
「顔にかいてあるな。その通りだなって。じゃあ今からいくか??『恵様遊ぼうぜぃ!!』って!!」
「「今から??」」
私とリムはダリアに手を曳かれて恵様がいつもいる食堂に走っていく。
不安もあるが、ちょっと楽しい。
「恵様!!暇っすか??」
自分の主に、しかもこの国の皇帝に『暇っすか?』はないな・・・。それは無礼にもほどがある。
私とリムは顔色を悪くしながら目を合わせてしまう。多分、リムもそう思っているのだろう。
「・・・」
うわ・・・滅茶苦茶黙っている。突っ伏したまま・・・。
「ん?ダリアか?暇かって??暇だよ。遊んでくれるのか??」
あれ?全然怒っていない。恵様は怒っていないけど何故か食堂の端にいる蛸女がものすごい形相で睨んでいる。(厳密にはラウルは蛸ではなく烏賊と鯨と人型の混合魔物)ものすごく怖い・・・。
「おい!!ラウル!!お前も睨んでないでこっち来いよ!!恵様と遊ぼうぜぃ!!」
「ん??ラウルもか?こっちおいで。」
恵様が手招きして蛸女を呼ぶと、ものすごい笑顔でこっちに走ってくる。
「ダリアと、シュムと、リムか・・・あまりみない取り合わせだね?で、なにする?」
「それより何で恵様はそんなに元気ないんだ?」
ダリアが私も持っていたことをものすごいストレートに聞く。そんなにまっすぐに聞いて答えてくれるのか?
「元気ない??やっぱりそう見える?なんかさ・・・クロエが嫁に出て・・・心にぽっかり穴が空いたんだ・・・。」
「え〜??恵様ってクロエが好きだったの??ちょっと意外だな!!お連れの方々とは全くタイプが違うじゃない?」
ダリアがズケズケと物申す。私達は脚が震えている。死刑でもおかしくないくらい、踏み込んだ距離感で話をしている。
「おぃ!!ダリア!!」
私が小声で耳打ちするが
「じゃぁ、傷心を癒やすために私達が相手します!!どうですか??クロエに代わりとまでは行かなくても・・・」
ダリアが私の忠告を気にせずどんどん話を進める。
「ダリアの替りかぁ・・・。君たちはクロエみたいに俺に忖度無しで話しできる?」
「恵様・・・私がそんなことすると思いますか??私がイエスと思えばイエスというし、ダメならノーと言いますよ!!今までだってそうだったでしょう?」
こっちに向いて座る恵様の膝の上に座って話をするダリア。
これ・・・大丈夫なのだろうか?
恵様自体から全く怒りの感情は感じないが、蛸女の殺気が半端ない。この女と私達との差は万単位のレベル差がある。そのせいで怖くて仕方ない。
「ラウル・・・お前な!!すぐに殺気立つなって!!ほら!!」
蛸女とダリアとでは蛸女のほうが圧倒的に強い。だが、ダリアはその蛸女を抱えて恵様の膝の上に座らせる。そうすると
ニカッ!!!
殺気が消えてものすごい笑顔を見せる蛸女。さっきまでの顔が嘘のようだ。
扱いに慣れすぎているというかなんというか・・・。こいつ、ものすごいな・・・。
「まぁ話だけっていうのも何だし・・・外に出て買い物でもしようか?そう言えば、カミーラは??」
キョロキョロしながら恵様が粘液女を探す。
「カミーラは里帰りしていますわ。あの子・・・地獄が出身地だそうです。そこにアッシュとクルク様と一緒に・・・。」
アッシュ・・・死の神々のはずだが・・・なぜ蛸女は呼び捨てなんだ?
「そうなんだ。じゃぁこのメンバーで出かけようか。」
蛸女を抱えたまま椅子から立ち上がって館の出入口に向かう恵様。その後をついて歩くダリアと私達。蛸女は顔を真っ赤にして目を輝かせながら恵様を見つめ続けている。