どんな小さな障害も
俺は普通にメイリーンを見据える。
「俺は別に絶対殺さないといけないと言っているわけじゃない。ただ、自分の親がやってきたことも知らずに俺を恨むのはお門違いでしょ?その貴族たちは俺を殺して金儲けしようとしてたんだよ?それに失敗して奴隷になった。何なら一家皆殺しでも良かったんだよ?それをしないのは俺がそこまで非情になりきれないから。他の国ならどうなる?皇帝の意に反したものや、皇帝になる前とはいえ、殺そうとした者、そんな奴らが奴隷程度で済むと思ってるの?」
「・・・済まないですね・・・。見せしめに虐殺されるでしょう・・・。」
メルギスが悲しそうな顔をして断言する。
「俺は極悪人??殺されなかっただけいいと思えないの?それなら仕方ないけど・・・馬鹿には死刑ということで。」
俺がそう言うとこのボロ屋にかなりの数の兵士がなだれ込んでくる。
「ちょっと!!恵様??どういうことですか??もしかして・・・」
「俺はね。バカが嫌いなの。ここの孤児院の存在は最近知ったけど、それを隠れ蓑にバカが成長してこの国の脅威となるなら、申し訳ないが子供であろうと始末する。俺は仲間以外の死に対して何も思わないようにしている。それが幼かろうと老人であろうと関係ない。子供は確かにこの世界の光だけど、闇になるなら刈り取るのが一番いいと思っているからね。」
俺の冷たい反応に体を震わすメイリーン。やっちゃんならわかってくれるかな?レイなら?
きっと多分だが、同じ反応だろう。
「恵様・・・見損ないました・・・。そんな人だったなんて・・・。」
「じゃぁ、メイリーンに聞くけど・・・事情を知らない奴が陰でこそこそ自分の敵を作っていたらどうする?自分の親が奴隷になった理由は?自分をここに追いやった原因も考えずに逆恨みをして害を及ぼすんだよ?俺が極悪?そうかも知れないけどね。そう思うのは俺の敵であって、俺の味方ではないよ。なら滅ぼせばいいじゃない?メイリーンも今までそうしてきたでしょ?わからない奴は殺す。それと今の俺の考えと何が違うの?それがわからないなら今すぐこの国との契約を切って出て行くことだね。ほら。」
俺は腕を見せる。そこにはメイリーンとの主従の印はない。
慌ててメイリーンは自分の腕を見るがメイリーンの腕にもない。
「これで俺が持つ奴隷はすべて解放になったかな?じゃぁメイリーン。好きな道を選んで。今ここで子どもたちのために戦うか、俺に従うか。」
「グッ・・・」
悔しそうに顔を歪ませるメイリーン。
そして・・・
「私は自分が奴隷で嫌な思いをしてきました。それを救ってくださったのは恵様です。しかし・・・子どもたちを殺す選択は出来ません!!」
剣を抜くメイリーン。
「わかったよ。」
俺は沈黙する。
「デュオーン!!マッキー!敵だ!!始末してくれ!!」
俺の言葉に速攻で現れる2人。
「話は聞きました・・・。ですが・・・メイリーンさんのお気持ちもわかります。」
「恵・・・マジなのか?メイリーンを始末するつもりか??」
悲しそうな顔をするデュオーンとマッキー。
「できないの?ならいいよ。俺が戦うから。君たちはこの孤児院の子供の中で元貴族の子どもたちを始末して。」
「恵!!私は嫌だぞ!!子供を殺すなんて!!絶対嫌だ!!」
マッキーが涙を流す。マッキーに子供を殺せというのは酷か?
「デュオーン・・・君は出来るよね?君の大嫌いな下衆共だ。やってくれ。」
「かしこまりました。では・・・」
「行かせないぞ!!デュオーン姉!!やめてくれ!恵を説得するから待ってくれ!!」
マッキーが黒い霧の尾でデュオーンを捕まえる。
「恵様・・・お願いです!!子供を殺すという選択肢を選ばないでください。逆らった私はどんな罰も受けますから!!」
剣を構えたまま涙を流すメイリーン。
「なら、俺を殺してその未来を掴めばいい。メルギスさん、これはクロエからの手紙です。」
俺は震えるメルギスにクロエから預かっていた手紙を渡す。
「レイ様!!弥生様!!ハウン様!!早く出てきてください!!見ているんでしょ?なんで放置するんですか??」
メイリーンがたまらず声を上げる。すると・・・
「メイリーン・・・」
光学迷彩を駆使して姿を消していた3人が姿を表す。
「メグミ!!子供を殺すっていうのは本気なの??間違ってるよ!!メグミも子供がいるでしょ??その子たちにそんなことをしてなんて言うの?」
「・・・」
俺は答えることが出来ない。
「恵くん、昔のあなたなら絶対に選択しないことをしようとしているわ。お願いだから止めて!!」
やっちゃんが震えながら俺を止めようとする。
「恵様・・・あの程度のもの達は脅威になりません。ですから、殺すという選択肢は必要ありません。もし、大人になって害があると思うのであればそれからでも始末できます。もう少し成長してから自分の親の行いについて話してあげればきっとわかってくれるはずです。」
「・・・そのままでも脅威ではない?わからないよ?やっと掴んだハッピーエンドなのに??すこしの障害もなくさないと・・・先がどうなるかわからないよ??」
俺は涙を流して震えている。
「もしかして・・・メグミは・・・未来が怖いの?」
レイが震えながら俺に近づいて俺をゆっくり抱きしめる。
「ああ。怖い。この先が怖い・・・。どうなるのかわからない。今まではラスボスを殺すことだけ考えて生きてきた。今は皆無事にいる。でも・・・何かが狂って誰かが死んでしまったら・・・。またやり直しだよ?そのためにも小さな禍根でも摘み取らないと・・・。小さな脅威が大きな脅威になる前に・・・。」
俺はレイに抱きつきながら泣く。
「大丈夫!!人族でしょ?あっという間に死ぬんだよ!!後80年もすれば世代が交代して誰も覚えてないんだから!!だから殺さなくても大丈夫だって!!ほら!!メイリーンだってそう言いたかったんだって!!やっちゃんもそう!!ハウンなんか害があるなと思ったらすぐに殺してくれるって言ってくれてるじゃない!自分の手を汚さなくても勝手に死ぬかも知れないんだしさ!!」
レイが必死になって俺を説得する。俺の大好きな乳で俺の顔を挟んで。
バシ!!
「しっかりなさい!!あなたは最強の不死身の男なんでしょ?子供程度でビクビクしない!!」
やっちゃんが俺の背中を思いっきりひっぱたいて笑顔で励ましてくれる。
カラン・・・
剣を投げてメイリーンが土下座をしている。
「恵様に剣を向けたことは謝ります!!ですからお願いです!!もう一度考えなおしてください!!子どもたちには何もしないでください!!」
俺はレイから離れてメイリーンのもとに歩いて行く。そしてその横に膝をついて
「メイリーン・・・ごめんよ。俺がどうかしてたみたいだ。子供を殺すなんて怖ろしい考え・・・もう持たないようにするから・・・。本当にごめんね・・・。」
俺が謝ると俺に抱きついて
「私の方こそすみませんでした!!恵様のことも考えずに!!」
抱きついて震えているメイリーン。ずっとごめんなさいを連呼している。
「メルギス・・・子どもたちと俺の屋敷で生活しない?ここだと取り立てとか来るんだよね?俺のところなら衣食住には困らないから。お金にも不自由しないと思うよ。どう??」
俺がメルギスに話をすると
「はい・・・そうしてもいいというのであればその話に乗っかりたいと思います。あの・・・本当にいいのですか?」
「ああ。子どもたちに嫌な思いをさせてしまったことへの謝罪もこめてね。子供には罪はないということで・・・。無駄に広い庭に施設と元になる建物でも作るよ。」
『デュラン・・・』
俺はデュランに願い、孤児院の子どもたちとメルギス、そしてこの場にいた俺の仲間たちを俺の願いで作った建物に移動させる。
「こ・・・これは・・・いつの間に・・・??」
メルギスが建物の中で口をポカ〜ンと開けて驚いている。その傍らには大勢の子どもたちが同じような顔をして動かなくなっている。