圧力とボロ
「あの・・・申し訳ございませんでした。まさか・・・裸だとは・・・」
真っ赤な顔のまま俺の後をついてくる召使。その後ろからジルとクロエが歩いてついてくる。
「ところで何があったの??」
俺の問に困った顔で答えに困る召使。
「あの・・・えっと・・・来ていただければ解ると思います。」
ゆっくり大きな扉を開く召使。
開いた扉の向こうに居る複数の人影。
「やぁ、兄さん。姉さんから連絡があったからこちらの方々と遊びに来ました。」
ニコニコしながら俺の方に歩いてくるレイリー。
「え??なんでレイリーが?なんで連絡したの??レイ??あれ??」
いつもいるから着いて来ているものだと思ったらアホ3人娘がいない。
後ろにいるのはジルとクロエだけだった。
「恵殿、昨日はおもてなしもせず申し訳ありませんでしたね。」
そう言いながら俺に握手を求めるこの国の皇帝。
自ら来て圧力ですか・・・。ボロを出さないように気をつけてね。
皇帝の横に立つ者を見ると・・・シュムだった。
シュムはこの国に巣食うヴァンパイアの一人。
生きていたこの国の本物の皇帝の側室として毎夜魅了をかけていた頑張り屋さんだ。
今はこの国の皇帝の城に住むもので事情通なのはこの女しかいない。
俺を見て目をパチパチさせているジルの父親と思しき人物。
「ジル、この方が君のお父さん?」
「ええ、そうであります。そして後ろにいるのが俺の母上であります。」
顔面蒼白の女性がいる。目の前に皇帝と魔王が居ればそうなるか・・・。
「あの・・・陛下・・・この方は??」
俺の訪問を知らなかったようだ。
「ご紹介が遅れました。俺は吉永恵。ジルの友人です。」
「ヨシナガ・・・メグミ・・・。・・・え??あの??」
目を見開いて俺を見るジルの父親。
「父上。恵殿は俺が連れてきた女性の雇い主であります!」
従魔の変身している皇帝と言い、ジルと言い、俺を殿付けで呼ぶけど・・・変な感じ・・・。
「クロエさんは・・・恵皇帝の召使ということで??」
「召使というより友人ですね。」
俺が笑って答えると
「それは・・・貴族と比べてどちらが身分が高いのですか??」
「友人が?」
青い顔で俺に変なことを聞くジルの父親。
「貴族なんぞいつでも始末できますけど友人はそうはいかないでしょう?俺が命をかけて守るべき存在であって。貴族なんかどれだけお取り潰しにしたことか・・・。」
俺が笑って答えると従魔の変身している皇帝とレイリーが爆笑する。
そんなに笑うことなのか??
「兄さんは無茶苦茶ですもんね。貴族が誰も挨拶に来ないですもんね。会って失敗したら殺されると恐れられてますし。」
「ちょい待って!!俺そんなふうに思われてるの?」
クロエが口を押さえて震えている。どうやら本当のようだ。
「俺は話しのわからない馬鹿を始末しているだけで圧政しているつもりはないんだけど?」
「あ!それは俺もですよ。街に出てびっくり!圧政でした。」
レイリーが笑い続ける。
「まぁ、国を治めるというのは難しいですね。私も最近そう感じます。」
従魔も笑う。ちょっとボロ出てるけど大丈夫??
「でだ、私の主である恵様の友人と息子を結婚させないというのはどういうことだ?」
いきなり空気を変える従魔が変身している皇帝が言う。ものすごい高圧に・・・。
「え??あるじ??めぐみさま???」
こいつ・・・ボロ出しやがった。俺が頭を抱えるとレイリーが腹を抱えて笑い出す。
「兄さん、ダメですね・・・。ボロが出てしまいました。ははははははは」
俺が横を見ると皇帝の姿をした俺の従魔が頭をポリポリ掻いて真っ赤になっている。
変身してても赤面するんだね・・・。
「あの・・・どういうことですか?」
「父上・・・それを知れば・・・きっと死にますよ・・・。」
ジルが脂汗を流しながら父親に忠告する。
「もしかして・・・この場にいる陛下や、レイリー王は偽物ですか??私をだますために??」
顔に血管を浮かせて怒りの顔を見せるジルの父。
「父上・・・あなたを騙すためではなく戦争にならないためです。この国は・・・恵皇帝の支配下です。」
ジルの言葉に顔を青くするジルの父。
「どういうことだ??ジル・・・それはどういうことだ??」
「あの・・・主様。説明しても?」
ジルに向かって俺が頷く。
どれくらいの時間が経っただろう。
床に座り込むジルの父親。その横で放心している母親。
「陛下が死んだ??なぜ?いつ?どのように??私の地位はどうなるんだ??・・・ジルよ・・・私達はどうなるんだ??」
涙を流して項垂れるジルの父親。ジルは・・・。
「主様は何もしません。事実、今まで何もしませんでした。ここにいる偽物の陛下も変わらずこの国を治めています。だから父上にも母上にも、もちろん姉上にも何も起きません。だからこのことは心に仕舞って普段通りに過ごしてください。」
「いや、ジルとクロエの結婚を許可しなかったらそうは行かないよ。俺はそのためにここに来ているんだから。俺はジルとクロエが幸せになれるように手伝いたいのよ。」
俺の言葉に
「それはダメです!!ジルさんのお父さんとお母さんがいいと思ってもいないのに脅して結婚するなんて!!私はジルさんとの結婚を皆に喜んでもらいたい!!それなのにそんな脅し方をしたら心から祝福してもらえないじゃないですか!!」
涙を流して俺に怒るクロエ。
「・・・ごめん。そうだね。脅しちゃダメだね。」
俺がクロエに頭を下げる。
「おお!!皇帝に面と向かって自分の意見を述べる。そんな人がいるなんて・・・。」
目に力を戻すジルの父。
「あなたは素晴らしい女性のようだ。私達の考え方が間違っていたようだ。ジルとの結婚を許すとしよう。」
「クロエは俺にダメなものはダメって言ってくれる大事な友達なんだ。だから大事な友達同士が結婚するって言うから嬉しくてこの街に来たんだけど・・・まさか・・・ジルが貴族だったとは・・・そんな感じかな??ジルが貴族だから両親のいないクロエが凄く自分の身分の低さを感じて落ち込んでいたんだよ。それなのに身分で結婚の許可が出なかったと聞いて、ものすごく腹が立ったんだ。だからこんなことになっちゃって。申し訳ないです。」
俺がジルの父親に頭を下げる。
「ジルとクロエの結婚を許してあげてください。身分の保証は俺がします。おねがいします。」
「・・・はい。もちろんです。これからもジルをよろしく。」
ジルの父親がクロエと握手する。
涙を流しながらクロエは
「はい」
とだけ言う。
そして・・・
クロエロス・・・。俺は今・・・クロエロス・・・。
クロエは今、ジルの実家にいる。俺は・・・クロエロス・・・。
もう・・・何故か何もヤル気になれない。
俺はもしかして・・・クロエを愛していたのか?とさえ思ってしまうほどに・・・。