時短しない
「レイ・・・どう??」
「あ・・・え・・・なんか今までと全く違ったけど・・・なんで??」
「光るとなんか違うのかな?で、出来てそう??」
「言っていい??」
「うん」
「わかんない・・・。」
俺とレイがベッドの上で笑い転げる。
「じゃぁシャロンに少し時間を進めてもらおうかな?そうすればお腹も少し大きくなるでしょ?」
「あの・・・そのことなんだけど・・・時短なしはダメ??」
「え?皆がやりたがってたやつじゃない。やらなくていいの??」
「ダメです。」
「「うわぁ!!」」
いきなりシャロンが割って入ってくる。俺とレイはあまりのことにびっくりする。
「びっくりした!!なんでダメなの??」
レイがシャロンに聞くと
「お腹に子供を宿したままあちらとコチラの世界を行き来できません。管理者がそれを出来ないんです。」
「シャロンがやればいいじゃない?わかってるんだし・・・。」
レイが不貞腐れながら聞く。
「それが出来ないんです。ほら、お腹の子供にはノートが発行されませんよね?それはお腹に宿っている命は一人の人として認識していないからなんです。生まれてきて初めて人として扱えるのです。難しいで話でややこしい問題なんですけど、それは出来ないんです。」
「じゃぁもし、お腹に子供がいるのに移動してしまったらどうなるの??」
「子供が消えます。」
「「う・・・」」
3人がその後、沈黙してしまう。
「そんな・・・じゃぁ今まで子供が出来なかったのはそれでってこともあるの??」
レイが泣きそうな顔をしてシャロンに聞く。
「いえ、一応移動前に警告しますから・・・。だからあの通路があるんです。」
「・・・」
レイが黙ってしまう。
「じゃぁ、俺達には時短しか無いってこと?」
「ええ。まぁ私がハーベルとチアを育てたみたいに時間の流れる速度を変えてその中で過ごすっていう方法もありますけど・・・時短のほうが安全で楽です。それとも、お腹の子どもと長い時間過ごしたいって思っているんですか?」
「そうだよ・・・。皆今まで時短だったじゃない??まぁお母様はシャロンが仲間になる前だったから違うけど・・・。時短では味わうことが出来ない幸せを感じたいと思って・・・。」
「そうですか・・・。移動しなくていいというのであれば、こっちで一時的に旅人をやめるっていう方法もありますよ。私が権限を持っているのでそれは可能です。ただ、向こうでの生活がなくなりますから人との繋がりとか、責任問題とか、今までの努力を放棄することになるので、あまりお勧めできませんけど。」
「メグミ・・・どうしよう・・・。」
レイが泣きそうな顔をして俺を見る。
「シャロン・・・俺とレイをシャロンが子育てした空間に閉じ込めてもらえる??出産間近までそこにいて生まれそうになったらこっちに戻ってくるから。」
「え?恵様はレイさんと一緒にその中で生活するつもりですか?」
シャロンがちょっと悲しい顔をする。
「そりゃそうでしょ?俺の子供だよ??そうするべきだと思うんだけど。」
「じゃぁ私も行っていいですか?」
「なんで来るのよ!!」
レイがシャロンの頬をつねって引っ張っている。二人の時間を邪魔されたくないみたいだ。
「イタイイタイ!!ちょっと!何するんですか??私がいないと時間の流れをうまくコントロールできないでしょ?それとも、もしかしてデュラ〜〜ンですか??あまり時間のことでそれは止めて欲しいんですけど!!」
ものすごい頬をふくらませて、怒っている。
「その空間で寝ても向こうに飛ぶなんてことないよね?」
俺の疑問に
「無いです。それは私がいれば大丈夫です。」
「ああ、それで・・・わかった。シャロンも一緒にいて。レイもいいよね??」
「う〜〜〜ん・・・しぶしぶ・・・。」
レイが変顔で了承する。
いろんなことがあって俺達はまた正常な時間の流れに戻ってくる。
もちろんレイのお腹は大きい。少し陣痛のようなものもあるらしい。
魔族の姿で嬉しそうにお腹をなでてニコニコしている。
普通の時間の流れにいた人からすれば時短と何ら変わりなくいきなり臨月であるが、俺達にとってはとても楽しい時間だった。日に日に大きくなるお腹を見て、2人とシャロンでワイワイやりながら過ごした時間。
いきなりの出産とは違い、『子供が出来た!!』という充実した感じをしっかり持っている。
シャロンの時のようなパニックもないしね・・・。
お腹の大きなレイを連れて宴会の会場に戻る。
「え??何そのお腹!!時短したの??」
やっちゃんが食いついてくる。
ハウンが羨ましそうな顔でやっちゃんの後ろから手を伸ばしてレイのお腹を触っている。
「きゃぁぁ!!孫ね!!孫なのね!!きゃぁぁ!!クルク!!早く酔いを覚まして!!」
酔っ払って真っ赤なミシュラがフラフラな状態でダッシュしてクルクのもとに走っていく。
「私がそれくらいするから〜〜。レイのもとに居させてくれ〜〜」
嬉しそうな顔をしてレイのお腹を見ていたのに、慌ててミシュラを追いかけるお父様・・・。
そしてすぐに酔を魔法で強制的に解いてきたミシュラが走って戻ってくる。
「ちょっと!!もうすぐ生まれるんでしょ?準備しないと!!みんな!!早く準備して!!さぁさぁ!!」
笑顔で走り回っていろんな人に声をかけまくるミシュラ。産婆さんたちがいっぱい集まってくる。
「レイ様おめでとうございます!!さぁ出産の準備です!!向こうに行きましょう!!あ!恵様はここで待機!!」
魔族の産婆さんに待機を命じられて『ハィ』とだけ返事をする。
レイが俺に手を振ってお腹を押さえている。それに付いて行くシャロン。
産気づくまで時間を進めるのだろう。
「やぁ、兄さん。結婚式が台無しじゃないですか。もうすぐ生まれるんですね。甥か、姪か・・・う〜〜ん、楽しみだな。」
台無しにされたことを怒っている感じもなくレイリーが嬉しそうに笑っている。その横に3人の花嫁が俺に『おめでとう』と言葉をかけてくれる。
「ごめんね。せっかくの結婚式なのにこんなことになって。シャロンが妊婦は旅人を継続できないっていうからさ・・・。」
「結婚式中に姉夫婦が抜けてそういう行為をしているというのは少し怒りを感じますが、兄さんにも事情があるんでしょうから。まぁ結婚式はまた別にやるからいいんですけどね。魔族領でもやらないと、王としてね・・・。」
笑顔を見せるレイリー。優しい弟でよかった。
「みんな!!騒がせてごめんね。もっとジャンジャン盛り上がって!!宴会はまだまだ続くから!!」
俺は皆に声を大きくして伝える。全員が嬉しそうな顔で『お〜〜〜!!』と答えてくれる。
俺の幸せな時間。本当にやり直しが無事に終わってよかった。