下衆の成敗
「はぁ?何で私があなたの願いを聞かなくちゃダメなの?」
ルナリスのところでお茶を飲んでいた女が嫌悪を前面に出した顔を俺に向ける
「頼む!!あいつらを見つけてくれ!!」
「見つけて殺すんでしょう?馬鹿らしい。人族は放置しててもすぐ死ぬでしょ?そんなことごときに私の労力を割くのが馬鹿らしいのよ。」
「なら、俺をあいつらの場所に送った位の時間まで戻してくれ!!」
「いやよ!何で私が・・・」
時空の神々が俺の話を全く聞かずソッポを向く。
「そんな下らないことに私を巻き込まないで。ホントうざいわ・・・。」
俺を睨みつけて姿を消す。
「下らない??なんだと???」
俺は怒りで肩が震えているのに気づく。
「フレイン・・・落ち着いて。君なら彼女たちを戻すこともできるんだろう?元に戻せるならそんなに怒らなくてもいいじゃない?ほら、優しい君がそんなに怒っていたらその女性も悲しむよ。さぁ、早く戻ってあげたほうがいいって。」
ルナリスが俺の肩に手を当てて、ゆっくりと話をする。
「・・・あぁ、そうだな・・・。あの女にキレても仕方ない・・・。俺はデュオールのもとに戻るよ。そろそろ体が元に戻っている頃だろう。」
俺は立ち上がりルナリスに礼を言う。
「みんな元気になったら連れてきてよ。君がそこまで思う人族にあってみたいから。」
「ああ、ありがとう。またすぐに戻ってくる。いい奴らだからな。ルナリスも気に入ってくれるはずだよ。」
俺は少し笑ってテントに向かって飛んで戻る。
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「う・・・。え?あ・・・」
私の記憶は曖昧だ。たしか私は殺されたはず。犯されて、目の前で夫と子どもたちを殺されて・・・。
そして陵辱の限りを受けて甚振られて殺されたはず・・・。
私は裸のままではあったが体を覆うようにローブがかけられていた。それを着て、テントの中を歩く。
荒らされてグチャグチャになったテント・・・。
そして夢ではなかったと気づく。
大きな血だまりが3つ・・・。
その中に家族のペンダントも見つけてしまう。
「これはあの人の・・・」
私は泣き崩れる。夢ではなかった。何故か私だけ生かされている。
「許さない!!許さない!!絶対あいつらを!!」
唇を噛み、血が流れるのがわかる。目の前が赤くなる。目から血のように赤い涙が流れる。
「許さない!!許さない!!・・・」
その瞬間に頭の中にある言葉が浮かぶ。
「恨め、憎め・・・そうすればお前の願いは適う。憎き相手を滅ぼす力が手に入るぞ・・・。」
「憎い・・・憎い・・・あいつらを殺したい!!生まれてきたことを後悔するほどの苦痛と言う苦痛を与え続けて!!」
「契約だ・・・お前の願いは聞いた。必ずお前の憎む相手を地獄の苦しみを与え続けて殺してやろう・・・。」
私の体から黒い霧のような、煙のようなものが出る。
「夫と、子供の亡骸を返せ!!」
私はテントを飛び出してテントの入り口で倒れている2人を見る。
「生きているの・・・?ならばこの一団を任せるわ・・・。私と・・・あの人と・・・子どもたちの夢・・・。世界を笑いと感動でいっぱいにしてね・・・。」
彼らの顔を撫でる。私にとって最愛の仲間たち。
私は空を飛ぶ。
能力の使い方なんか知らないはずなのに、まるで最初から持っていたかのように力を操る。
「あっちね?聞こえる・・・あいつらの声・・・そしてニオイ・・・。私からは逃げられないわよ・・・。フハハはははははははははははは!!」
私は一直線にあいつらのもとに飛んでいく。
そしてあっという間にあいつらのいるキャンプに到着する。
「あら、久しぶりね・・・。さっきはありがとう。今度は私の番よ。」
男たちが私の顔を見て硬直している。そんなことはどうでもいい。
私を生かして何を楽しむつもりだったのか??
私が苦しむ姿を想像して笑い続けるつもりだったのか??
そんなゴミどもにありとあらゆる苦しみを与えてあげる。
「ねぇ、私の夫と子どもたちの亡骸を返して。そうすれば苦しみを少しは少なくしてあげるわよ?」
私は男たちを霧で包んで逃さない。そして男が苦痛の悲鳴を上げ続ける。
「さぁ、地獄に一日目が始まったわ。大丈夫。簡単には殺さないからね。殺してくれと5000億回は願わないと殺してあげないわ。フハハハはははははは!」
・・・
「あっけない・・・人の寿命は短すぎるわね?」
捕まえた男たちの寿命が尽きて死んでしまう。やはり永遠とは行かなかったか。
もっと、もっと苦しめてやりたかったのに・・・。
「こいつらだけでは物足りないわ。この世界のゴミを全員殺してしまおうかしら??そうしないと気が晴れないし・・・。」
私は飛ぶ。下衆の臭がする方へ。
そして何万という人を殺して思う。
「おかしいわ・・・下衆の匂いがまだまだある。臭くてたまらないわ・・・。でも・・・そこに行けないのよね・・・。どうしましょう?」
目の前に転がる下衆たちの亡骸の頭を踏みつぶして悩む。
「あぁ、この世界じゃないのね・・・。じゃぁ・・・」
私は霧で作り上げた尾を空間に伸ばし無理やりこじ開ける仕草をする。
尾が空間を壊して違う世界が見える。
「ふふふふふ・・・臭うわね。どぶ臭い下衆の匂いが・・・。いっぱいいるみたいね。この世界は下衆で出来ているのかしら??」
空いた割れ目に体を滑りこませて違う世界に移動する。
私の楽しい楽しい時間がやってくる。
すべてのものが私に敵意を向けて戦いを挑んでくる。
「ゴミはいくら集めてもゴミよね?ふふふふふ。さぁ、滅びなさい。あなた達は生きる資格を持たない下衆なんだから・・・。」
ありとあらゆる国を滅ぼし私は椅子に座る。
目の前に命乞いをするデブの王と、見た目が美しい心の醜悪な后。
「善人以外皆死ねばいいのに・・・」
その声と共に漏らす眼の前の2人。気色悪い・・・目障りもここまで来ると殺す気が失せるな。
「はぁ、殺す気が失せるほど汚いわね?さっさと行け。」
私は羽虫を払うような仕草で2人を払う。
私のその動きだけで吹っ飛んで壁にあたってトマトのように潰れる下衆ふたり。
「はぁ、この世界には子供しかいなくなったわね?大人になると下衆になる人種なんて・・・困ったものね。」
「あなたたち・・・出てきなさい。」
私は尾を自切して、それを人型に形成する。
そしてその人型になった尾に命令する。
「この世界に残っている子どもたちと数少なくなった大人の管理をお願いするわ。下衆の世界になってしまった場合は滅ぼして、私の元に戻って来なさい。わかりましたね?」
「ハッ」
私は尾を使い、また空間を壊す。
そして下衆の匂いのする新しい世界へ移動する。
「まだまだいっぱい居るわね。どこに行けば終焉を迎えることができるのかしら?ねぇ、教えてよ・・・フレイ・・・。」
私は涙を流す。フレイ・・・。知識の神々と言っていた。彼なら・・・私の到達すべきところを知っているかも知れない。
・・・
どれくらいの時間が経ったのだろう。どれくらいの世界を滅ぼしただろう。
もうわからない。
そして管理している世界がいくつあるかもわからない。
なぜなら残してきた尾はすぐに戻ってくるのだ。100年も経たぬうちに。
「主様・・・我々の力不足です。また・・・ダメでした。」
私は気にしない。人族とは愚かな生物なのだろう。チャンスをやっても直ぐに潰す。そしてまたチャンスを欲しがる。
「それで主様・・・今は何を??」
私の体に戻ろうとする直前に尾が私に質問してくる。
「ふふふ・・・今ね・・・凄く参っているのよ。ほら・・・」
私は尾に向かって右手を差し出す。私の右手は今はない。切り落とされて戻ってこないのだ。
「手が・・・元に戻らないのですか??誰にやられたのですか??」
「ふふふふふ・・・困っているでしょう?」
私は失った右手首をさすって笑う。
あんな強いものがいるなんて・・・。