身内の成敗
「デュオール・・・なぜだ・・・。なぜ・・・。」
どれくらい楽しい時間を過ごしただろう。
この世界は素晴らしい。
この世界を作った神に感謝しか無い。
だが、ある日、この一団に大きな転換期がやってくる。
「俺達は抜けることにする。あんた達はもっと賢く稼ぐべきだ。それを言ってもやらないんだから俺達は抜けて新しいやり方でやっていく。」
一部のものならそれも致し方ないと思っただろう。
しかし、抜ける人のほうが多かった。
デュオールは困った顔をするが止めようとはしない。
「抜ける奴は仕方ない。私達だけで頑張っていこう。それと・・・残ってくれた皆・・・ありがとう。」
涙を流して俺達に御礼を言うデュオールとジーニス。
「そうだな。皆で頑張ればいいんじゃないかな?」
俺はデュオールとジーニスの肩を力強く抱きしめて笑うしか出来ない。
「ははははは、お前がアイデアを出し続けてくれるなら負けやしないさ。」
俺は自分の脳から溢れ出るアイデアを、溢れ出る道具を駆使してこの二人を助ける。
そして人数が減りはしたが、人気は陰ること無く、色々な国に呼ばれ続ける。
俺達は間違っていない。俺達の芸を見て皆が喜んでくれる。
金持ちも、普通の街の人々も、そして、お金のないものも。
笑顔でいれば幸せになれるはずだから。
離れていった者達の人気は一時的にはあったが、今では全く噂も聞かなくなってしまう。
「あいつら・・・どうしているんだろうな・・・。」
「そうね、食べていけないんなら戻ってくればいいのに。」
「そうも行かんだろう。あれだけの啖呵を切ったんだ・・・。プライドもあるだろう。」
デュオールとジーニスが離れた者たちを心配しているが俺はそうではない。
逆恨みをしていなければいいんだが・・・それしか頭に浮かばないのだ。
俺は食料と道具を作るために材料を求めて大きな街にやってくる。
そこにはありとあらゆる物、人、人種が集まって賑わう。
そこで聞きたくもない話を耳にする。
「身軽な者達が強盗を繰り返している。大きな塀で囲まれた貴族の屋敷や、大きな商人の屋敷を襲っているらしい。」
そんな話を聞いてしまう。
身軽なもの・・・まさかな・・・。
俺は不安になるが調べようもないし、探しようもない。
いや、違う。昔の仲間が悪事を働いているという事実を見たくないだけだ。
俺の知識や、伝手を持ってすれば、人くらいすぐに見つけられる。
「現実から目をそらすのはやめるべきか・・・。」
俺は友の元へ向かう。
そう、同じ神々の元へ。
「やぁ・・・今、時間・・・開いているかな?」
俺は昔から仲の良かった神々を尋ねる。
「おや、久しぶりだね。人の元で観察していると聞いたけど、それが終わったのかい?まぁそこに座って話を聞かせてくれよ。」
穏やかに話をする男。この男の名はルナリス。基本的に我侭で自分のことしか頭にない神々の中で唯一とまでは言わないが、まともな神々だ。
「ルナリスは人を探すのが上手かったよね。お願いしたいんだけどいいかな?」
「あぁ、それは私の能力ではないんだよ。仲良くしている神々の力でね。で、誰を探すんだい?」
俺は人族の名前を出す。特徴や人相書。
「さて、呼び出しに答えてくれるかな?」
ルナリスが目を瞑っている。
そして・・・
「ルナリス・・・何か用ですか?」
俺の目の前にいきなり現れる女。この女は・・・。
「時空の神々・・・仲が良いっていうのはこの女か?」
「知識の神々・・・なぜ貴様がここに?」
嫌悪感を全面に出して俺の目に立つ。俺はこの女が大嫌いだ。
「いやいや、君たちが仲が悪いとは聞いていたけど、理由を聞きたいね。フレインはいい奴だし、シャロンは人当たりがいいと思うんだけどね?あぁ、神々当たりか??」
馬鹿を言え、この女は性格が悪いぞ。
高慢で高圧、人の話を聞かない。最古の神々の典型的なタイプだ。
「私になにか言いたそうね?文句があるなら言いなさいよ。すぐにその首を落として差し上げますから。ふはははははは」
冷たい目でこっちを見ながら甲高い声で笑っている。
「ハウンや、ミシュラじゃないだけマシか・・・。あいつらだったらすぐに退散していたんだがね。この女ならまだ・・・、いや、あまり変わらないか・・・。」
俺の小さな声に反応して睨みつけてくる。
「フン、で、ルナリス、何??何で呼んだの??」
ルナリスに笑顔で話しかけるシャロン。
ルナリスが俺の話をそのまま伝える。
「知識の神々ごときの願いなら聞かないけど、ルナリスの頼みだから聞いてあげるわ。その探している者のところに飛ばせばいいのね?」
俺の返事も聞かずに俺はどこかに飛ばされる。
ここは・・・
「うぁ!!びっくりした!!お前は!!・・・なんだ??仲間になりに来たのか??」
目の前に屯する男たち。
その中には見覚えのある顔がチラホラある。
「お前たち・・・一団を抜けてから、悪さをしていると耳にした。本当なのか??」
俺はストレートに聞く。
もし、答えが俺の見たくない現実ならば・・・あの2人のためにわからぬように始末しようと思っている。
「なんだ?窃盗団のことか?ははははは。これだけ動けるんだ。稼げる仕事をするのが一番だろう??」
周りの男たちも笑い出す。
これは・・・知りたくない現実のようだ。
俺は無言でその場にいた昔の仲間達を手に掛ける。
あまりいいものではない。俺にとって家族と思っていた者達。
いうなれば、弟たちを自分の手で殺しているのだから。
いくら素早く動けても所詮は人族。神々に、しかも最高クラスの最古の神々に適うはずもない。
洞窟に響き渡る悲鳴。
最後に殺そうと思っていた最初に抜けると言い出したここにいる元一団のリーダーとなっているものが目の前にあった筒に火を付けて俺に投げる。
その筒が破裂して周りに置いてある武器や、アルコール度数の高い酒、薬品に引火して燃え上がる。
「クソ!仲間をやりやがって!!苦しんで焼け死んでしまえ!!」
数名の者を取り逃がす。
やはり、やりたくないことをやるときは集中力が足りないな・・・。
俺は洞窟から出る。そこには、誰もいない。
「ここはどこなんだ??」
俺はこの場所を知らない。しかも、移動する手段も持ってきていない。
「星の位置からして・・・この辺りかな?こっちに行けばテントに着くだろう。ルナリスのところのほうが近いけど・・・。あそこにはあの女がいるしな・・・。」
時空の神々には会いたくない。お礼を言うべきではあるが、そんなことをしても嫌悪ある顔で見られて気分を害するだけだ。
「仕方ない。久しぶりに飛びますか・・・。」
俺は一人つぶやいてふわりと体を宙に浮かせ、移動を開始する。
人族には見せることが出来ない飛行での移動。
夜なので見つかることもないだろうと気にせず高度と速度を上げて飛んでいる。
「おっと!!買ったものを持って帰らないとな!!街の宿に置きっぱなしだ。取りに行ってそれから帰らないと、勘がいいからやらかしたことがバレかねない。」
俺は軌道を変えて買い物をしていた街に向かう。
もし、この行為がなければ・・・こんな事にはならなかったのかも・・・。
俺は生まれて初めてまっすぐ帰らなかったことを後悔する。