新たな観察対象を見つける。
「デュオール!!デュオール!!今元に戻してやるからな!!これがあれば大丈夫・・・さぁ目を開けてくれ!!」
・・・
どれほどの月日が流れたのだろう。
俺という存在が生まれて、すべてを知ろう努力し続けた。
この世界は美しい。そして人々という存在が尊い。
そう思いながらどれくらいの時間をかけて観察し続けたのだろう。
目の前には国と呼ばれる人族の集まって出来たものがある。
人族は脆弱だ。
集まり、互いに助けあっていないとすぐに滅びる。
だからこそ自分を押し殺して合わせていかなくてはいけないこともある。
だが、そんな国に属さない一団が今日も自分の芸を見せに大きな国にやってくる。
「デュオール!!早くこっちを手伝ってくれ!!」
「シャキ!情けないを言うんじゃないよ!!それくらいのものは自分で何とかしな!!」
筋肉質な男に向かって怒鳴る女。
その女はこの一団の花形。美しい見た目と生のあふれる屈強な肉体。
風になびく長い黒髪は漆黒にも関わらず朝日に照らされて光り輝く。
「キューリス!!シャキに手を貸してやって!!無駄筋肉が泣いているから。ははははははは」
泣いてねーよ!!と言いながらも目を潤ませている男を笑いながら馬鹿にするデュオール。
「おはようさん!!あんたはこの国の人かい??私達は奇術をみせて金を稼いでいるディオスコーレアという一団だよ!あんたも見に来てくれよな!!ははははは」
男が持てなかった器材を悠々と担いで歩く女。
美しい顔からは想像も出来ないほどの怪力だ。
国の外壁の外に大きなテントが立てられ、その中で沢山の人がその一団の芸を見て魅了される。
この国にはない娯楽。まだこの世界自体にない娯楽という概念。
それをどうしてこの一団が始めたのかはわからない。だが、それは大当たりのようで、国の長までもが嬉しそうに見入っている。
そして、その魅了されたものの中にはその一団に加わりたいと言い出すものもいる。
「根無し草っていうのは大変なんだよ?危険もあるしね。それに故郷に帰ってこれる保証もない。そういう覚悟がないなら止めておいたほうがいいぞ??はははははは」
女が酒を持って志願してきたものを脅している。
それを聞いて一団に加わろうと思っていたものは、ほぼすべて諦めてテントから出て行く。
俺を除いて。
「あんた・・・一番最初にこの国であった人だよね?覚悟できてる?愛している人はいないのかい?大事な家族はいないのかい?もしいないなら歓迎するよ!!ここにいるのがあんたの家族だ!!ははははははは!!」
俺の肩を抱き寄せる女。俺は初めて人単体に興味を持つ。人族というくくりではなく。個人というものに。
それから数年が経ち、一団の男とその女が結婚して子供を作る。
そして奇術を見せて人を魅了する大きくなった一団はいろんな国に呼ばれて芸を披露する。
女とその伴侶、子どもたちは裏方の仕事になり、この一団を支える。
俺の仕事はもっぱら器材を運ぶ仕事と、奇術を行う道具作り。そして奇術のアイデアを出すこと。
「なぁフレイ・・・お前はこの一団に入って結構な古株だよな。そしてこの一団には欠かせない存在でもある。どこかに行ったりしないでくれよ・・・。」
酒に酔った女が俺に笑ってそう云う。酔えば必ずそう言って俺に酒をガンガン注ぐのだ。
「ああ。デュオール・・・。あんたが出て行けと言うまで居るよ。なんせここに居るものは皆俺の家族だからな。」
酒に酔いつぶれてその辺で腹を出して寝る女。
俺は毛布を女にかけてテントから出て夜空を見上げる。
大きな月が俺を照らす。
「おい、夜盗だ。追っ払うぞ。デュオールを起こせ。」
女の伴侶がそういうがこの程度の数・・・俺とあんたで十分だろう?
あっという間に夜盗共を蹴散らせ、外の番を買って出る。
「人族というのは観察すればするほど面白い・・・。それに・・・」
俺の中でわけのわからない感情が湧いてくる。
すべてが思うままと思っていたがまだまだのようだ。
「人族というよりこの世が面白いんだな・・・ははははは」
俺は今、とても楽しい。自分の知らないことを実感すればするほど楽しい。
この状況が永遠に続けば・・・無理なことはわかっていても・・・そう望んでしまう自分が居る。
「他のものが知ったら・・・どう思うんだろうな?」
独り言をポツリと漏らす。
そう言えば・・・俺はかなり仕事をサボっている。チビどもがやってくれているとは思うが怠慢な奴らだからな・・・。