旅人と出会う
「さて、姉さんのことはそれで終わりとして・・・そろそろ・・・」
レイリーがいきなり席を立ち、気を失って倒れているエディという魔族の女のもとに歩いて近づく。
そしてそっと抱きかかえて
「店主、この店には休憩できるようなベットはあるかい?」
エディを抱きかかえたままカウンターに向かう。
「は、はい・・・2階に飲み過ぎで倒れたものを寝かせるために一応用意しています。」
「案内お願いできるかな?あぁ、それと、マッキーさん、彼女をベットに連れて行きますが構いませんよね?」
「おう、私の可愛い奴隷だが食いたければ食っていいぞ。レイリーに抱かれたらそいつも満足するだろう??」
「いえいえ、そういうのではないですよ。ここに寝かせたままでは風邪をひいてしまいますからね。奴隷になったとは言え俺の国の民ですから、大事にしないとね。」
「レイリーはやさしいな。」
マッキーが笑みをこぼしながら感心している。
ゆっくりと歩いて2階に行こうとするレイリーをすぐに止めてユクがなにかボソボソとレイリーに言っている。その言葉に首を横に振ってそのまま階段を登り始めるレイリー。その後を悲しそうな顔をしてついて上がるユク。
きっと抱きかかえているものを渡せとでも言ったんだろう。
「マッキー、奴隷たちをどうするの??俺の屋敷に・・・」
キィィィィィ
俺とマッキーが話をしていると後ろにあるギルドの扉が開く。
ゆっくりと開く扉。チリンチリンと鈴の音もしないくらいゆっくりと・・・。
そこには人族の女と、その女に肩を担がれた長いローブを着た者がゆっくりと入ってくる。
そして俺の近くの席にローブの者を座らせて前の席に座る女。
「大丈夫か?ここなら元に戻す能力か方法が見つかるかもしれない。」
「あぁ、大丈夫ではないが、まだ死にはしないだろ。こんな姿だが結構元気だからな・・・。」
女とそのローブの者が話をしている。ローブの者の声からして男と思われる。
「なぁ恵・・・あれ・・・旅人だろ?どう見てもA国人だぞ??何でこんなところに??」
人族や旅人がなかなか来ることが出来ないのが魔族領だ。ここに来るには相当な強さと、度胸がいる。
それほど人族が来るのが珍しいことなのだ。
女が席を立ち、受付で受付嬢に話をし始める。今は、レイリーがこのギルドにいるので全員が起立して、姿勢を正した状態で緊張している。その状況を理解せず、受付嬢に話すが受付嬢はそれどころではない。
「マッキー、盗み聞きできる??耳がいいから聞こえるでしょ?」
「ニヒヒ。悪趣味なやつだな。でも、そういうの好きだぞ・・・。」
受付嬢に話しかけて、なんとか情報を聞こうとする女。レイリーがいないので少し戸惑いながらも対応し始める。
「今、そこに居る連れが変な奇病にかかって姿が変わり始めているとか・・・。それを治したいんだが、できそうな奴がこの街にいないか探しているそうだ。・・・恵なら出来るだろ??助けてやるか?」
マッキーが俺に顔を近づけて小声で話す。
「俺が?何で??それほど重要な感じがしないんだけど・・・。それでも直してやるべき?」
「え?いや・・・そこまでは思わないけど・・・。」
マッキーが少し困った顔をする。
「あぁ、ごめん。マッキーを困らせるつもりはなかったんだけど、俺も一々人助けしてたら時間がね。」
そんな話をしているとレイリーとユクが階段を降りてくる。
それを見て全員が膝を床について頭を下げる。もしかして条件反射??
ギルドの中の魔族が膝を着く姿を見て受付に居る女とローブの男がキョロキョロしている。
そしてローブの男と俺が目を合わす。
「お、お前は・・・」
俺の顔を見て驚くローブの男。ローブの男の顔は人族のものではなかった。だが、この男は俺のことを知っているようだ。
「ん??俺のこと知ってるの?なんで??俺はあんたを・・・ん??」
俺は男に近づく。この感じ・・・どこかで・・・。
「兄さん、その男はものすごく驚いていますよ?兄さんを知っています。俺も会ったことあるみたいですよ。俺の顔を見て、ものすごく驚いていますし・・・。」
レイリーが男の心を読む。
「あの時の人ですね?それにしてもその体・・・どうしたんですか??」
レイリーが無防備に近づく。それを見て受付にいる女がすぐに駆け寄って男を守るように体で男の体を隠す。
「あなたは・・・この国の王ですよね??なぜギルドにいるんですか??大物であるあなたが来るようなところではないはず。」
女が震えながらレイリーに話しかける。
「無礼者!!人族の弱小戦士がレイリー様に口を利くでない!!」
受付の男がものすごい剣幕で女の首に剣をあてがう。さすが魔族領、受付の男でも素早くて戦闘力も高い。
その行為を見てレイリーが手を上げて制止する。それよりも先にユクが受付の男から剣を取り上げて床に受付の男を捻じり伏せている。あぁ、それを制止したんだね。
「なぜ、レイリー様の前で剣を抜く?死にたいのか?」
ユクからものすごい殺気が漏れる。
「ユク・・・俺が止めろと言っているんだけど?まだ続ける気??」
レイリーの言葉にすぐに受付の男から離れるユク。
いつもと違い少し冷たく感じる。
「申し訳ございません。」
「話を折って悪かったね。別に君たちをどうこうするつもりはないからさ、話をしてくれないかな?もしかしたら力になれるかもしれないし。」
レイリーがゆっくりと歩いて女に近づく。
「・・・はい。私の連れが・・・」
女が話し始める。自分たちが旅人であること。連れの男は向こうの世界でひどい実験をされたこと。
この世界を回って力をつけていること。その戦闘で傷ついてどんどん人間離れした体になり始めたことなど。そして・・・
「サミュエルを・・・」
「サミュエル??あの??」
「・・・ああ、俺はサミュエル・・・。お前に殺されて復活させられ、人体実験を受けた。」
「あんたが生き返ったことは知らなかったな。あの怪我でよく生き返ったもんだ。」
俺が感心していると
「お前には礼を言わんとな・・・。家族を殺さずにいてくれてありがとう。」
「あぁ、それか。関係ないからな。あんたの家族は。で、元に戻りたいのか?」
俺の言葉に
「ああ。戻らないと、向こうにもいけない。今、この姿だから旅人として行き来も出来ない。どうにかする方法を知っているのか?DNAが混ざってしまって、思いつく方法をいろいろ試したがどうにもならない。だからここに来た。もしかしたら変わったスキルがあるかもと望みをかけて・・・。」
サミュエルは下を向いて涙を流し始める。
「お前は俺が嫌いだろう?」
「ああ、嫌いだな。だが、今の状況を産んだのは俺でもあるからな。気の毒だとは思う。だから・・・。」
俺はサミュエルを指さして心の中で願う。
そうするとサミュエルの体が輝き始める。
「がぁぁぁ!!ぐぁぁぁ!!」
顔を押さえてもだえ苦しむサミュエル。
そして・・・
「サミュエル!!大丈夫か??貴様!!何をした!!」
俺を睨みつける女。
「ちゃんと説明くらいしてあげればいいのに。」
レイリーが呆れている。
「まぁ俺のスキルならこの程度のことは解決するからな。それに一々説明も面倒なんだよね。」
「体が痒い・・・何だ・・・何が起こったんだ??」
「良かったな。恵に感謝しろよ?敵に塩を送るなんてなかなかないぞ??にゃはははっは。」
マッキーがサミュエルの肩をバンバン叩きながら笑っている。