ギルドの酒場
「恵!!なぁ、変身して行かないか??そのままだと面白くないだろ?」
「何で変身するの??また腕相撲を挑まれるだけだろ?」
「それだよ!!それ!!腕相撲になったら、やっている途中で変身をとく。どんな反応か楽しみじゃないか?」
悪趣味ではあるがどんな顔をするか見てみたい。
「じゃぁ、変身するね。トウッ!!」
俺とマッキーは変身してごくごく一般的なモブっぽい戦士の姿になる。
もちろん、レベルの偽装もしっかりやって。
「レベルは・・・800にしておくね。」
「芸が細かいな・・・。」
感心しているけど、変にレベルがないとすぐにバレるよ。
カランカラン
扉を押して開く。
ミシュラに壊された扉が新しくなってカッコイイ扉に変わっている。
以前見た風景となんにも変わらず、真ん中では魔族の女戦士がテーブルで腕相撲をしている。
それに周りの観客が賭けを行っているというのも変わりない。
俺達が中には居ると全員がこっちを向く。
「おや、人族が珍しいな。で、何の用だい??」
腕相撲をしている女の横に立っていた女の戦士が俺達に声を掛けてくる。
「街に着いたらまず、情報収集だろ?情報といえばギルド。何のようだもクソもないだろ?」
マッキーがイラッときた口調でその女に答える。
「おやおや、人族は強さの違いも見抜けないのかい?そんなんじゃ、この大陸じゃすぐに死ぬよ。」
周りがドッと笑い出す。ここまでは台詞は違うけど前とそれほど変わっていないな。
「へぇ、そんなに強そうに見えないのにレベルが800もあるじゃないかい。やるもんだね。ここまで来るだけのことはあるってことか??」
周りの戦士のレベルを調べる。以前はやらなかった行為だが、やっぱり強さを知りたいよね?
「ほう、探りを入れてきたね。でもあんたのレベルじゃ、見れないだろ??」
その言い方だと、レベルは800超えているということだな。まぁそれでも見るんだけどね。
レベル・・・平均1000超えてるくらいか・・・。やっぱり強いよね。
「ここのギルドで情報がほしいならこれで強さを示してからだよ。」
もう1つテーブルを引っ張り出してきて立っていた女が俺に手をこまねく。
マッキーの思惑通りに進んでいるね。
俺が椅子に座って左腕を出すと
「あんた、左利きかい??ハンディには丁度いいわね。」
「あぁ、ゴメン、右のほうがいい?俺はどっちでもいいよ。君の勝てると思う方でやって。」
「はは〜〜〜、挑発かい??そんなもんは通用しないよ。で、あんたたちは何を賭ける?」
ここのものは必ず前の状況に持っていくのか?ちょっと笑いそうになってしまう。
「賭けか・・・お金を賭けるのか?いくら賭ければいい?」
「ははははは、ここは戦士の中の戦士しかいないんだよ!!賭けるものは命とプライドに決まっているだろう??」
「じゃぁそれで。」
「フン!後で泣きながら後悔しろよ〜〜!!」
周りを見るとギルドに居る全員が俺達をニヤニヤしながら見物している。
「じゃぁ私がレフリーをしてやるよ。」
ニヤついた女戦士が俺と女戦士の腕相撲をする形に組んだ手に手を当てる。
あぁ、この女・・・この前の時に俺に負けたやつじゃない?確か名前はエディだったっけ??
「賭けを開始しな!!」
周りの戦士や酒場の客が一斉に金をかけ始める。
俺に賭けるものはいない。そりゃそうか・・・以前もそうだったもんね。
「ククク・・・賭けは始まったから降りることは出来ないぞ。さぁ、この国の奴隷としてずっと奉仕するがいい。ははははははは」
邪悪な顔をしている腕相撲の相手の女。
「じゃぁ、恵に100P」
マッキーが袋に入った100Pを床に投げる。
「「「「「「なに??」」」」」」
「「「「「「100P??」」」」」」
「え??恵??」
俺の名前に気づいた奴がいたみたい。大した記憶力だ。
「こいつら懲りていないよな。まさか同じことをまだやってるなんて・・・。フェブがここにいたら皆死刑だな。にゃはははは」
変身を解くマッキー。それにつられて俺も変身を解く。
「ゲッ!!」
レフリーを買って出た女が腰を抜かして座り込む。
「おい!!エディ!!何なんだ??さっさと始めろ!!」
「ヒィィィぃぃ!!」
口に手を食わえて顔面蒼白のエディ。魔族の女性は黒っぽい紺色の肌なのだがそれでも血の気が失せて顔色が悪いのがわかる。
「じゃぁ私がレフリーをして声を掛けてやるよ。レディ〜・・・ゴゥ!!」
俺の腕にガツンと力が込められるが微動だにしない。
「グググググ・・・」
血管が浮きまくった顔で歯を食いしばる女戦士。頑張ってる頑張ってる。
「で、身の丈に合わない賭け事は死罪だったよね?エディい??」
涙目で頷くエディ。
「こうやって騙して人族を奴隷にしたことはあるの?」
横に首を振るエディ。
「じゃぁ、人族が負けた場合はどうなるの??」
何も答えないエディ。後で聞き直すか。
俺の腕を倒そうと頑張るが全く動かない。それどころか俺が気にも止めずに話をしているのを見て悔しそうな顔をしている。
「そろそろ腕を折ってやれよ。こいつがかわいそうだろ??負けるのわかってるのに頑張らせ続ける意味がないだろ?さぁ折れ!!さぁさぁさぁ!!」
ものすごい活き活きと眼を輝かせてマッキーが残酷なことを言う。
そんなに観たいの?人の腕が折れて苦しむ姿を・・・。
「そうですね。兄さんが少し、意地悪しすぎです。」
俺の横に立っているレイリー。扉を出さずに移動も可能なんだ。
「いえ、ここだけですよ、魔族領だけです。扉なしでも移動できるのは。」
「レイリーも、心の声が聞こえるの?」
「ええ、母譲りですね。姉さんは出来ませんょ。所詮、力馬鹿ですから。いや、大馬鹿かな?」
力大馬鹿って・・・エライ言い様だな。
レイリーの姿を見て全員がひれ伏す。腰を抜かしているエディは泡を口から吹いて卒倒している。
俺はそっと女の手の甲をテーブルにつけて、マッキーが俺の勝ちを宣言する。
「さて、兄さん、フェブのお見舞いに来てくれたと聞いていたんですが、ここに何か用があるんですか?」
テーブルにあった飲み物を口にするレイリー。
「レイリーよ、ここには私の用事があるんだな。こいつらは以前に私に賭けで負けてな。それを取り立てに来たわけだ。」
胸を張ってレイリーに説明し始めるマッキー。それを横で聞いている魔族領の戦士たちが震えまくっている。
「マッキーさんもやることが極悪ですね。兄さんを・・・あぁ、そう言えば・・・兄さんって兄さんなんですか?お父さんなんですか?」
レイリーが真顔でいきなり俺に聞いてくる。
それを聞いてマッキーが吹き出す。
「にゃはははは、それ・・・恵もなんかの時に言ってたぞ??」
「いや〜、最近なんですよね。気になり始めたの。お母様と一緒になったんだからお父さんかな?姉さんと一緒にいるから兄さんなのかな?早いのは兄さんだし、そう呼んでいたからずっとそうしているんですけどね。どっちがいいですか??」
ギルドの椅子に腰掛けて普通に話をし始めるレイリー。
「レイリー様・・・そのような椅子に腰掛けるのはどうかと・・・。」
ユクが困った顔で苦言を呈している。
「そんなこと言っても、いきなり来たのは俺なんだし、贅沢言うのもおかしいんじゃない?」
カウンターに行ってお酒を頼み始める。カウンターの向こうで震え上がっているバーテンダーを見て落ち込みながら置いてある酒瓶を持って俺の座っているテーブルの椅子に腰をかけ直す。
「なんか、怖がらせてしまっているみたいですね〜。それほど圧政を強いているわけでもないのに。」
「フェブがここに来た時に強さが全てで国民は城に居るものに頭を上げることを許さない、なんてことも言ってたけどね。」
「ええ?そうなんですか??それは怖がられますね。一応これでも俺がここの国の王ですから。フェブでダメなら俺はもっとダメってことですもんね。」
マッキーが酒を頼んでいるのを俺が止める。未成年は飲んじゃダメ。
舌打ちをして俺の横に戻ってきて
「おい!!店員!!レモネード!!!10杯ほどそこの奴隷に持ってこさせろ!!」
ものすごい横暴に注文する。