降魔実験
「クロエ、レイを呼んできてくれる?」
ハ〜イと返事をして走ってどこかに行ってしまうクロエ。
面白いね。スキルで所在を感知して走って行くなんて。
数分でレイを連れて戻ってくるクロエ。
「なぁ、今、降魔の壷ってレイが持ってるよね?」
俺のアイテム袋の中になかった。だからレイだと思う。
「え?有るよ。何かに使うの?」
「ええ、有るなら今すぐ出して。クロエに敵を与えてみます。」
「お母様、まさかクロエを鍛えるんですか?戦闘要員じゃないですよ?」
「ええ、わかっています。そうではありません。」
レイが頭をかしげながらアイテム袋を探って、降魔の壺をミシュラに渡す。
そのまま俺達はクロエを連れて訓練部屋へ。
「さて、クロエさん、今から強力な敵が出現します。それをさっき使ったスキルで押さえこんでください。間違っても近づかないでくださいね。いきなり攻撃されたら防げませんから。」
頷くクロエ。顔を見ても怖そうな顔をしていない。大丈夫か?
「レベルいくつにする?」
レイが俺達に聞くけどクロエより高ければいくらでもいいんだけど。
「クロエはレベルが1です。ですから・・・」
「1万くらいでいいかな?」
俺達の返事も待たずにレイが操作する。いっつもだね!!君は!!
しかし魔物が出てこない。よかった・・・。流石にレベル1のクロエがいるのにレベル1万の魔物はないだろ?ちょっと俺が怒ってレイに物申そうとすると
パキッ
壷にヒビが入る。そして砕けて無くなってしまう。
「・・・」
レイの顔色が悪い。割ってしまったことに対して、どうすればいいのかわからないようだ。
「割れてしまいましたね〜。本当にレイはアホです。最近思うのですが、レイはなぜあそこまでアホになったんですか?」
ミシュラが悲しそうな顔で俺に聞くけど、俺は関係ないぞ。
「フィナがアホなのは昔からでしょ?」
入り口からジュディ老師が入ってきながら真実を暴露する。
「えぇ??私は誰かの影響かと思っていましたわ〜。」
ちらりと俺の方を見る。そんな顔で俺を見ないでくれ。
「その辺りは俺のせいということでいいとして、壷が割れてしまったからデュランで召喚する?」
「そうですね。そうしましょう。恵さん、お願いしてください。」
「俺はレベルの高い魔物を見てみたいんだけど。ミシュラもジュディ老師もいるし大丈夫だよね?」
俺がワクワクした顔でミシュラに聞いていると、落ち込んでいたはずのレイまでワクワクした顔をし始める。
「まぁ、夫婦揃ってアホな顔をして・・・。で、どれくらいのものを呼ぶつもり?」
「5万くらい?」
俺の一言にレイがますます目を輝かしまくっている。
「5万となると魔界の最深部の大物が出てくるでしょうね。大丈夫?」
「ジュディ老師の顔見知り?」
「ええ。」
「じゃぁ、イケるってことでいいよね?」
「はぁ、好きにしなさい。」
ジュディ老師が呆れた顔で許可をくれる。
『デュラン!!降魔の壺っぽく、レベル5万くらいの魔物をここに呼び出してくれ!!』
俺の願いが聞き入れられて壷から魔物が出てくるのと同じように魔物が5体出てくる。
ズン
ズン
ズン
ズン
ズン
大きな音とともに現れる5体の魔物。
「あぁ?なんだここ?」
「はぁ、まさか召喚されるとは・・・。」
「誰がこんなバカをしたんだ?」
「はぁ?なんでお前がここにいる?」
「あら、こんなところにアホ面が揃っているわね。」
お互いを見て魔物たちが不機嫌になる。
「で、呼び出したバカはどう落とし前をつけるつもりだ?」
俺達の方を睨みつける5体の魔物。
「クロエ、やってみて。」
「はい!!」
スキルを発動させる。だが・・・
「あそこの塵のどれかがスキルを使ってレベルを下げにかかってるぞ?殺すか?」
スキルにものともせずに歩いて近づいてくる女の魔物。見た目は美しいけど言葉使いが嫌だな。
「相変わらず、頭が足らんやつだな。」
ジュディ老師が前に出てクロエを守る。
「ほぉ、これはまさか、こんなところで出会うとは。」
女の魔物がジュディ老師に気づくも、どんどん間合いを詰める。
「はいはい、弱者のくせに強がるなって。」
ジュディ老師と女の魔物の間にマッキーが割って入る。
その瞬間に殴り掛かってくるすべての魔物たち。さすが5万ものレベルになると早いな。
そう思いはするがマッキーがあっという間に漆黒の霧で5体の魔物を串刺しにして床に叩きつける。
「ぐぁぁ!!」
「何ぃぃ!?」
「ぎゃぁ!!」
「ゲガ!!」
「グッ・・・」
「流石ジュディ老師・・・避けたね。」
マッキーはジュディ老師にまで攻撃していたみたい。回避してジュディ老師の横にマッキーの漆黒の霧で出来た尾が床に刺さっている。
「弱者に私まで入れるとはな・・・」
ジュディ老師の顔に血管が浮きまくっている。そりゃ怒るよね、一応マッキーの師でもあるんだし。
「ほれ、クロエ、ちゃんと範囲を指定してレベルを下げて見せてくれ。私がもらったスキルなんだ。有効活用してやらんとアイツに申し訳ないんだからな!」
「はい!!いきなりでうまく行きませんでしたが頑張ってみます。」
床で刺さった尾を必死に抜こうとあがく5体の魔物。5万のレベルを圧倒してしまうとは・・・。多尾獣族・・・おそろべし。
「恵、どうだ?そこで寝そべってるカッコつけ共のレベルは下がってるか?」
俺はサーチャで5体の魔物の強さを観る。
「ああ、下がってる。5万の魔物が・・・今は・・・1だ。」
「凄いな。じゃぁ、実験も終わったし、このまま殺していいか?見た瞬間に嫌な気持ちになったんだな。こいつら・・・嫌いだ。」
マッキーが初めてあった魔物に対して何故かすごい嫌悪感を持っている。
ものすごい不快なものを観る顔で魔物を見下ろしている。
「マッキーが珍しいね。マッキーって誰に対してもフレンドリーなのに。」
「レイちん、こいつら・・・多分、下衆だ。だから気持ち悪いんだよ。殺していいか?なぁ?恵よ??」
「レベル1で食うのと、戻して食うのだと、どっちが力になる?」
俺の問に
「そりゃ、レベルは高いに越したことはない。と言ってもこいつら雑魚だよ?」
マッキーの冷たい目を見て魔物たちが顔を青ざめさせて歯を食いしばっている。
サーチャで見るとレベルは元に戻っている。それでも全く抵抗できずにいる5体の魔物。
「ば、馬鹿な・・・。私達はいずれ魔界を統一する魔物だぞ?それを地表の弱小生物が殺そうとしている・・・。そんな・・これは夢か?」
泣きそうな顔をしている美しい見た目の魔物。
「恵さん、ちょっとこの子は助けたいなとか思ったでしょう?」
ミシュラが呆れた顔で皆に聞こえるように云う。心を読んでそれはひどいと思うんだけど。
「はは〜〜ん、恵はエロいからな〜。性処理用の奴隷にでもするか?」
マッキーがニヤニヤして俺を見ている。ふと顔を上げて皆の顔を見ると全員がニヤニヤしている。
なんで?
「全員減点50点で。最近俺へのおもいやりにかけているんだよね。皆・・・。なんで?」
誰も俺の問に答えない。そして・・・
「お前のせいで私が減点されただろ!!」
マッキーがたくさんの漆黒の霧で作った尾を出して美しい魔物を何度も突き刺してミンチにする。
まさに八つ当たりだ。彼女には全く悪い部分はない。
それを見て残った4体の魔物が震え始める。
「馬鹿な。アミスタがこんなに簡単に殺されてしまうなんて・・・。」
美しい魔物の名前はアミスタというらしいが、死んでしまったからもうどうでもいいか・・・。