罪の行方
場所が替わって、ある罪人のお話です。
カツン、カツン、カツン・・・
俺たちは今、魔族領にある地下幽閉施設に来ている。
ここは結構な力の持ち主でも破ることが出来ない丈夫な作りの牢がいくつもある。
そこに閉じ込められているものを訪ねてきたわけだけど・・・。
「よ〜、ザンダース!生きてるか?私が来てやったぞ?」
マッキーが牢屋に閉じ込められている男に話しかける。
「・・・」
「なぁ話をしてくれよ。黙ってても出られるわけじゃあるまいし。」
「・・・」
はぁ・・・だんまりを決め込んでかなり経つ。
貴族の跡取りになるために、多くの犠牲を出した男、ザンダース。
俺的にはどうでもいいんだけどね。マッキーが気にして仕方ないみたい。
マッキーはこの男を何とかして助けたいみたいだ。
だが、このままではかなりの確率で死罪だろう。
『デュラン・・・。こいつに話をさせる。隠し事や、嘘、だんまりは禁止にしてくれ。』
「おい、ザンダース。マッキーが質問している。お前は素直に答えるしか出来なくした。さっさとマッキーの言葉に答えてやってくれ。」
俺が後ろから口を挟むとマッキーが怒り始める。
「ちょ!!恵!!そんな強制はダメだって!!自分の意志で話して欲しいんだよ!!こいつは根はいいやつなんだ。私はこいつといて嫌な感じを受けなかった。だから絶対いいやつなんだよ!!なぁ!!普通に話をさせてくれよ!!」
「マッキー・・・いいやつは・・・あんなことしない。血のつながる者を安易に殺したりしない。船を爆破して関係ない人を巻き込んだりしない。こいつはどうせ死罪だ。ならもう、放っといてやったほうがいい。」
俺の冷たい言葉にマッキーがポロポロと涙を流す。
「爆破はこいつのせいじゃないだろ?なぁ、恵・・・こいつを助けてやってくれよ。なぁ・・・。」
「爆破の原因の大元はこいつだ。それに助ける助けないは俺が決めることではない。こいつが居た帝国の法が裁くだけだ。簡単に言えば俺達は部外者だよ。口を挟むべきではない。」
泣くマッキーに酷なことを言っているのはわかっている。それでも俺はこいつを許すとか助けるとか言う気分にはなれない。
「じゃぁ、ザンダースよ・・・お前を助けることは出来ないけど・・・本当のことを言ってくれ。私を騙していたのか?」
「・・・いや。私はキミを騙していたつもりはない。なぜなら・・・」
こっちに歩いてくるザンダース。
その姿は・・・
「お前・・・それ・・・」
マッキーがザンダースの顔を見て驚く。
「ああ、私は私の体の中に2つの魂がある。転生者である私の魂と、本来1人で生まれてくるはずだったものの魂。」
見た目が全く違う、右の顔と左の顔。今は・・・左の恐ろしい顔のほうが話をしている。
「こいつには悪いことをしたと思っている。私がうまく立ち回れば死ぬことはなかっただろう。私は本来の生活を右のザンダースに。裏でヴァンパイアを操っていたのが左の私。昼と夜で全く違う生活を送っていたんだよ。」
「じゃぁ、私と旅をしていたのは・・・右のザンダースか?」
「ええ。あなたと旅をしていたのは私です。私の中でもう一人居たというのはこの牢に入れられてから知りました。」
色んな話をしているマッキーとザンダース二人。笑ったり怒ったりしているけど・・・マッキーはずっと涙を流している。あの短い間にどれほどザンダースを気に入っていたかがよくわかる。
「なぁ!!恵!!ザンダースを何とか助けてくれよ!!なぁ!!なぁ!!別人なんだぞ?同じ体を共有しているだけで・・・別なんだぞ?」
俺は横に首を振る。
「マッキー・・・ありがとう。でも・・・心の底で跡取りとして全く相手にされず、期待もされずにいたことをずっと妬んではいたんだよ。兄や姉は優秀だったからね。でも、殺してまでは・・・そう思ってはいたけど・・・。今この状況になると・・・もう一人の私は・・・私の気持ちを汲み取っていたのかも知れない。だから・・・裁かれることに対してこれと言って何も思ってはいないんだよ。」
「そんなことはない・・・。右のザンダースは・・・心の底では嫉妬していたが、それ以上に兄や姉を尊敬していた。その葛藤に負けること無くまっすぐ歩いていた。それが私は許せなかった。この男には才能がある。力もある。だがそれを腐らせてしまう。そう思うと・・・右に任せるのではなく、自分で登り詰めたくなったんだ。この世界の頂点に。」
「マッキー・・・ありがとう。私は今、幸せなんだよ。これから先はない。けれど、自分の足で歩いた時期があった。そう思うだけで・・・。君との旅はとても輝いていた。だから・・・君は私のことを気にせず・・・先をまっすぐ歩き続けてほしい。」
右のザンダースが涙を流してマッキーに感謝をしている。
「できれば・・・この男を助けたかったが・・・。私が分離したところで罪は消えない。だから・・・。即死魔法による刑の執行を頼みたい。そうすれば私に魔法が当たる。そうすれば・・・ザンダースにこの体を返すことができると思う。ダメか?」
「ああ、ダメだ。お前たち2人は・・・同罪だから。」
「そうか・・・ザンダースよ。助けられずすまない。」
「ああ、気にしないでください。あなたも私なのですからね。」
右の顔も左の顔も笑っている。
「恵!!なんで??」
マッキーが俺の胸ぐらをつかんで涙を流しながら歯を食いしばっている。
「助けてどうする?この男は兄弟を手にかけている。刑の執行後、逃れたとしてどうやって生きていく?」
マッキーが俺を見て泣きまくっている。そんな目で俺を見ないでくれ・・・。
「なぁザンダース・・・。生きたいだろ?なぁ?」
「マッキー・・・生きたくはないんだ・・・。」
「え?」
「生きたくない。この世界で生き続けられるほど・・・。私は強くない。兄や、姉を殺したんだよ。私は罪のない人をたくさん巻き込んだんだよ。その罪の重さを背負ったまま生き続けられるほど・・・私の心は強くない。」
「何言ってるんだ?私もいっぱい殺しまくってるぞ?それでも全然生きているぞ?なぁ??生きたいと思ってくれよ!!思ってくれれば私が恵を説得するから!」
「マッキー・・・もういいよ。ありがとう。君がいてくれて私は・・・心の底から救われた。それと・・・これを・・・。」
左のザンダースが回復魔法を左手に宿しながら自らの胸を突く。
「何を??」
マッキーが驚いている。
「これは私のスキルだ・・・。今は封印されていて使えない。だがそこに居る恵皇帝なら解くことができるはずだ。このスキルは自分の示した範囲の中の敵の力を大幅に削ぐことができる。私が使おうとしたのがこれだ。コレを発動させればどんな強敵も・・・レベル差がいくらあっても、自分のレベルより下げてしまうことができる。だから・・・きっと君のこれからに役立つはずだ・・・。コレを君に持っていてほしい。」
左のザンダースが自分の体から抜き取った真っ赤な宝石のようなものを右にザンダースがマッキーに渡す。
「ザンダース・・・。そんなこと言わずに・・・。」
泣きながら受け取るマッキー。
「恵皇帝・・・。時間を割いて下さり有り難うございます。私達は罪を償って、いつかあなた達とともに歩める日が来ることを願っています。どうか・・・自分の運命に負けないでください。あなたや、マッキーと出会えて本当に良かった・・・。」
ザンダースはマッキーに微笑んで牢屋の奥に歩いて行く。
「マッキー・・・帰るよ。」
「・・・ああ。」
名残惜しそうに牢の鉄格子を放すマッキー。
地下からの階段を登り切った俺は外に出る。地下牢の門を守る警備のものが俺に頭を下げる。
「デュラン・・・ザンダースの2つの魂が次の人生で幸せになれるようにしてくれ。」
「ああ。その願い叶えよう。」
「恵・・・ありがとな・・・。」
マッキーが俺の腕を抱きしめて寄りかかる。
「さて、帰りますか?」
「おう!コレの使い方がわからないからミシュラに聞きに行こうぜぃ!」
俺とマッキーはミシュラの居る俺の屋敷に移動する。
「なぁ恵よ!ザンダースはいいやつだっただろ?」
「そうだな・・・。もう一人のザンダースも改心させるほどな・・・。」
「アイツと一緒に居ると笑えるぞ。」
「なぜ笑うんだ??」
「弱っちすぎて面白いんだよ!!」
「なんだそれ??」
「にゃはははははは」
マッキーはいつもの笑い声で無理してまで元気を振りまく。
本当にいい子だな。