闇の心に支配されたもの
何もない空間にひとつだけある黒い物体。物体というよりゆらゆらと動く陰のようなもの。
「この私に何か用か?」
その黒い影が俺に話しかけてくる。
「ああ。」
「なぜこうなったか聞きたいってところかな?」
「ああ。」
「それを知ってどうする?」
「仲間にいるんだよ。君と同じ種族がね・・・。」
「私と同じ事にならないか心配というやつか?」
「そういうことだ。」
「ならば心配いらんだろう?」
「なぜ?」
「私がこうなった理由は・・・愛する人を失ったからだ。」
「それと心配いらない理由がつながらないんだけど・・・。」
「目の前で夫を殺されて・・・犯されて・・・そして守ろうとした子供まで目の前で殺された。無念のまま・・・解放された。力ない自分を恨んだ。世界を恨んだ・・・。そして気がつくと・・・こうなっていた。心に生まれた闇はいつかこうなる。それをあの女が持つ日はこない。それは・・・お前がいるから・・・。」
涙を流しながら声からして女であろう漆黒の物体がそう云う。
「愛するものが戻るなら・・・その闇の力を使わないで済むか?」
「フッ・・・たら・・・れば・・・それほど虚しい物はない。あの時あの場所にいなければ・・・あいつらがこなければ・・・私に今の力があれば・・・。」
上を見上げて黙る。
「じゃぁ戻してやる。だから・・・恨むな。」
「戻す?死者をか?時間をか?お前は愚かなことを言う・・・。」
『デュラン・・・』
俺の横に歩いてくる男と2人の子どもたち。
「あぁ・・・夢か?」
「デュオーン・・・すまん・・・。皆を守ってやれなくて・・・。」
男は涙を流して膝を着く。
「いま・・・君がその力を正しい方に使うというなら・・・ここにいる家族と私の国で幸せに暮らせばいい。それが無理だというなら・・・一緒にあの世にいけ。どちらにしても今の君よりは遥かに幸せだと思うよ。」
「幾億の命を奪った私に・・・幸せになれるチャンスが来ると?」
「いや、命を奪ったことを帳消しには出来ない。だから奪ったもののことは戻し様がない。だからこれから奪われる可能性のある幾億の命を守る側になってほしい。」
「私にできるのか?」
「ああ、俺はできると信じている。」
「わかった・・・私はあなたの愛する守るべき者を守る盾となり、襲い来るものを滅ぼす剣となろう。私の名はディオーン・・・。主よ・・・名前をお聞かせください。」
「俺の名前は恵、吉永恵。よろしくね。」
「恵様・・・私はあなたの下僕・・・。」
俺達を隔離していた空間が解除され、皆のもとに戻る。
「おかえりなさい。恵さん。お話は終わりましたか?」
「ああ。」
「この人がさっきの?」
俺達の前に裸の美しい女が立つ。そして俺のよこに男と子どもたちがいる。
俺は頷く。そして
「デュラン!!この子たちとこの男を俺の屋敷に連れて行ってくれ!!」
「それと・・・レイ・・・。クロエに言って今からそっちに行く4人に部屋を与えるようにいってくれ。」
「わかった。」
「私はどうしますか?」
「君には・・・俺の帝国を守ってもらう。屋敷にはちゃんと部屋も用意する。家族みんなといっしょに過ごせばいい。ただ敵が来た時は始末してくれ。間違っても、守れなかったなんてことが無いようにね。」
「はっ。」
黒い霧となって上空に飛んでいく。
「信用して大丈夫なの?」
レイが心配している。
「ああ。あの家族がいる限り変な事にはならないよ。それに、守るために必死になると思うしね。」
「恵はひどいな・・・。人質じゃないか?」
マッキーがゆっくり起き上がりながらひどいことを言う。
「まぁそうとも取れるね。」
俺は自国の守備のためでもあり、この世界のためと思ってやったんだけどね。
「さて、山の神々に会いにいきますか?」