願いとランク
顔面にデッカイ絆創膏を張っているデュランの顔を見て腹を抱えて笑うレイ。
「なんで??なんで??なんで向こうの世界の絆創膏なの??あはははは」
床をダンダン叩きながら笑い続けるレイの背中を擦っているやっちゃん。
君たちはまずその白衣を脱いでください。
「仕方なかろう、魔法で治そうとすると何度も顔を殴られるのだから・・・。」
「なぁデュラン。以前ミドラが言ってたけど、願いって叶えられるものと叶えられないものがあるんだよね?」
「何??ばらしたのか??ミドラのやつ・・・。」
「いや、普通に言ってくれたぞ。バレちゃマズいのか?今からでも黙っとくけど・・・。」
「もう聞かれたのでいいわ!!そうだ!!我では叶えられん願いはある。姉や妹、シャムにディア、他の魔人たちだってそうだった。どの魔人もランクがあってそれを超える願いは叶えられない。」
デュランの言葉に頷いているデュランの姉妹と、シャムとディア。
「例えばデュランならどんな願いまでは叶えられるの?」
やっちゃんが普通に企業秘密っぽい所に突っ込んでいく。
「う〜〜〜む、弥生殿に話していいのかどうかわからぬが、まぁよかろう。我の場合、結構なランクまでの願いが聞ける。例えばそうだな・・・不老不死は我でないと叶えられん。我単体で叶えられる最上級がそれだ。コレは他のものでは叶えられん。だからジュエルという神々が不老不死を願ってもディアに断られる。」
「じゃぁ、ディアってなんて言って願いを聞くの??デュランは結構上から目線で言ってたけど・・・。」
「私は『聞ける願いは聞いてやろう』です。」
デュランはどんな願いも叶えてやろうだったもんな・・・。それを思うとかなりショボく聞こえる・・・。
「ショッボイな・・・」
笑いの地獄から逃れることが出来たレイがいきなり毒を吐く。それを聞いて胸を押さえてあからさまに落ち込んでしまうディア。それをシャムがよしよししている。俺も同じことを思ったが口には出さなかった。なんでこの子たちはすぐに思ったことを口にするのだろう?
「シャムは?」
「願いなさい。叶えられるものは叶えましょう。」
「ディアさんもこっちにすれば?聞こえはいいと思うんだけど・・・。」
俺の意見に小さい声で『はい』とだけ言う。そんなに落ち込まなくてもいいのに・・・。
「そう言ってやるな。我の場合は魔人界の規格外、ミューがいるからな。そのおかげで時は止めるわ、オリジナル空間は作るわ、もう何でもやりたい放題だ。」
「それよりも、ンデュラー、あなた・・・なんでこの人の願いをずっと叶えているの?3つだけでしょ?そのルールは守らないと・・・。」
姉妹の一人が言うけど・・・。俺は自己紹介されてないんだよね。多分、一番上の姉だとは思っているんだな。誰が誰だか名前が一致していない。そのまま話を進めていいのか?
「仕方なかろう、そういう願いをされてしまったんだから。まぁそのおかげでかなりエネルギーが貯まったがな・・・。ミドラの件がなければ皆に分けても良かったんだが・・・。」
「ンデュラー・・・あなた・・・まさか・・・願いを勝手に使わせたの?」
魔人の目が冷たい・・・。そんな目でデュランを見ても仕方ないでしょ?だって、知らないうちにやったんだもん。
「我も反省はしておるぞ。だが、目を離した隙だったからな。ちゃんと言っておかなかったことは皆に謝る。」
デュランが自分の姉妹に頭を下げる。
「そこは私からも謝るわ。私とこの人が神々と決着を着けるために家を離れている間の事だったの。」
シャムも頭を下げる。それを見ていたのかミドラが出てきた。
「ごめんなさい。ダメだとは知らなかったので・・・。ほんの少し時間を止めて・・・。」
「まぁいいじゃないですか!!無事だったわけですし・・・。いざとなれば願えばいいんですし!!」
俺の言葉に全員が鬼の形相でこっちを見る。
「そんなことしていたら世界が壊れます!!」
シャムが激怒する。
「こいつはアホなのか?魔人が自分のスキルを使い出したら収集がつかなくなるだろ!!」
姉妹の、多分2番めの口の悪い姉が怒っている。
「魔人は人の願いを聞いて細々と生きているんです!!まぁいいで済む問題じゃないんです!!人族は黙っていてください!!」
ディアまで怒っている。
俺はどうやら触れてはいけないことに安易に触れてしまったようだ。
「あなた達ね・・・恵くんのおかげで今があるんじゃない?何その言い草?全員訓練部屋に行きなさい。切り刻んであげるから・・・。」
俺への怒りでギスギスしていた雰囲気は気のせいだったようだ。この雰囲気は・・・やっちゃんの怒りだったんだね・・・。
「デュラン・・・。訓練部屋にこいつら全員収容して!!私の願いが聞けないならレイに頼むけど・・・。」
やっちゃんがブチ切れて俺のスキルを勝手に使おうとする。
「いや、待て・・・ははははは・・・まさか全員の中に我も入っていないよな?入っているのなら断る・・・。」
デュランが汗をだらだら滝のように流している。
「はぁ?監督不行届でことを起こしておいて、恵くんが変なことに晒されているのよ?あなたもに決まってるじゃない?1万回ほど死ねば考えも変わるでしょ?ねぇ?」
やっちゃんが血管の浮いた顔で笑顔になって後ろを振り向く。そこには・・・
「デュラン・・・あそこなら殺されてもすぐに復活するわから・・・大丈夫よ。」
いつの間にかレイまで怒っている。
「恵様を罵倒する権利が魔人ごときにあるとは思えませんわ。さっさと消滅させてやるから訓練部屋に行きなさい。」
ハウンも・・・。
「恵さん、魔人はやはり愚かな生物です。願いを叶えて世界の流れを変えてしまう生物なんぞ・・・私が隔離してしまいますので・・・。」
シャロンが今まで見せた事無いような形相で魔人たちを睨んでいる。
「デュラン殿・・・ここで殺してもいいけど?どうする?」
ミシュラがいきなり声をかけてくる・・・。さっきまで居なかったのに・・・。
「いつの間に??」
「先ほどシャロンに連絡をいただきました。シャロンが空間を繋いでくれていたので話の内容はそこそこ・・・。」
「主殿・・・皆を抑えてくれ・・・。これはさすがに・・・。」
「いいじゃない?あそこじゃ死なないわけだし・・・。いい訓・・・」
「ならないから!!この人数を相手にしてなるわけがないからな!!ただの地獄だ!!たのむ!!止めてくれ!!説得してくれ!!お願いだ〜〜〜!!」
願いを叶える魔人が膝を突いて俺に願いを言い続ける・・・。
「願いを叶えるのはあんたの仕事でしょ。行くわよ・・・。」
膝をついていたデュランのズボンの裾を掴んで引きずっていくやっちゃん・・・。
それに続いて歩いて行くレイ、ハウン、ミシュラ。
「シャロン、他の方は空間移動させといて。」
ミシュラが笑顔でシャロンに指示している。
「喜んで〜。」
この場に残るのは俺と・・・エビフライを貪り食っているマッキーだけ。
あとは、チビ達がエビをナイフとフォークで食べている。
何故か作法を教えている俺の影武者の魔物たち。
「デュランも災難だな・・・。」
マッキーが一言だけ言う。
君はこの件に関してかなり無関心だよね?