真の勇者
「前に出たらダメだ!頼むから下がってくれ!!」
俺は声を上げるしか出来ない。マッキーを押さえるだけで手一杯だからだ。
「ぐぁ!!」
お父様が声を上げる・・・。俺は慌ててその声のする方へ目をやる。まさか・・・嘘だろう??
シャロンが切り離したマッキーの手足が今頃小さな獣の形になって周りのものを襲い始める。今まで目を切っていただけに不意を突かれた形だ。残りの小さい獣はミシュラにも跳びかかっている。
ミシュラは回避しながらお父様の横に
「少し痛いわよ〜。」
ミシュラがお父様の腕に噛み付いている漆黒の小さい獣を腕ごと切り離す。お父様は小さな獣にも魔法を使うが全く効かない。それどころか吸収して大きくなっている。
「私が寝ているうちに何が??」
ジュディ老師がシャロンに声をかけるが
「あなたは役に立てないわ。さっさとみんなを連れてこの場から離れて!!弥生さんとメイリーンさんが参戦しようとしているのよ!!あなたも止めなさい!!」
「はぁ!!」
メイリーンは距離を一気に詰めて飛び上がり、漆黒の小さい獣を真っ二つに斬り捨てる。斬ると・・・分裂しそうだけど?
俺の心配を裏切り、もがき苦しんで動かなくなる漆黒の小さな獣。そしてそのまま霧散する。
「ふん!やっぱり・・・。こいつ・・・暗黒生命体ですよ。私達なら殺せますよ。」
メイリーンが霧散する獣を蹴り潰す。
「ええ。私達はこいつの弱点属性なのね。何のスキルかわからなかったのよ。これなのね?」
漆黒の小さい獣はまだ3体居る。やっちゃんやメイリーンを見て勝てないと感じたのだろう。
ターゲットをジュディ老師に定める。
「あらあらあら、弱者の匂いを嗅ぎ分けるようね?」
ミシュラがこんな状況にも関わらずジュディ老師に悪態をついている。そんなに仲悪かったっけ?
「はぁ?弱者だと??苦手なだけだ!!お前は私に勝てないだろう!!力馬鹿の分際で!」
黒い獣を挟んで言い合う2人。このやばい状況でも口喧嘩できるあなた達がすごいよ。俺もそんな余裕がほしい・・・。
「イタ!!」
「さっさと餌はどこかに行きなさいよ!!邪魔よ!」
ジュディ老師の背中に蹴りを入れて場所移動させるやっちゃん。一応あなたの師匠でもあるんだけど・・・。
忘れてるのかな?無礼すぎるよ。
「メイリーン、小さいのをさっさと始末して・・・」
小さい獣はすぐに俺が押さえている大きな獣に近づき自ら飲み込まれる。倒せないと気づいて元に戻ったのか?3匹の獣を取り込んだだけで体がかなり大きくなる。
「メイリーン!!あのデカイのをやるわよ?いい??」
「ハイ!!」
やっちゃんとメイリーンが俺の抑えている獣に斬りかかる。
あっという間に始末されるマッキー。俺達の苦労は?
「ふぅ。なんなの?こいつ・・・。」
ジュディ老師が俺の後ろからマッキーを覗きこむ。俺を盾に使わないで。
俺達の前でマッキーが眠っている。何か幸せそうな顔をしているように感じるのは気のせいか?
「まさか・・・。この子が一番やばいとはね・・・。」
ミシュラすら恐れている。一度なくなった腕をさすっている。相当堪えたようだ。
「でも、やっちゃんたちにかかるとあっけなかったね。」
レイが簡単にいってくれる。俺達も頑張ったんだよ?
それでも本当にあっけなかった。何度も攻撃してはいたがやっちゃん達はあたっても怯むどころかまるで当たっていないかのような顔で反撃し続けていた。
「ジャンケンみたいなものじゃない?」
やっちゃんがそんなことを言い出す。
「でも・・・。マッキーはマジでヤバイよ。まさか全てを食らおうとするなんて。」
「この子のスキルは何なの?職は?」
お父様がマッキーのノートを持ってミシュラに渡す。
「黙って見るのもね・・・。やっぱり目を覚ましてからにしましょうか?」
「そうだね・・・。今回のことで結構レベルが上がったはずだし・・・。ステータス見れるレベル無しはどれくらい上がったか見ないといけないしね・・・。」
俺はマッキーを抱えて俺の部屋に連れて行く。
「ん??恵か?」
数分してマッキーが目を覚ます。
「ああ。大丈夫??寝てたけど・・・。」
「夢を見ていた・・・。全員ぶっ飛ばして恵が褒めてくれる夢だ。ミシュラも、ゾルミスも、シャロンも、ジュディ老師も・・・皆私がやっつけてヨシヨシしてくれているんだ・・・。そうか・・・やっぱり夢か・・・。」
涙を流して悔しがっている。俺が乗っているときに言っていた言葉は聞こえていたんだろうか?
「ばっかじゃないの?全員殺しかけて悔し泣きとか・・・。悔しいのは私の方なのに!!」
レイが不貞腐れてベッドの横の椅子に座っている。
「マッキー。あなたは私とメイリーンに退治されたのよ。それまであの化物たちを相手に圧倒していたわ。」
「え?やっちゃんとメイリーンに退治された?それなのにミシュラたちを圧倒??分け解らないんだけど?」
俺はマッキーに詳しく状況を説明する。
それを聞いてマッキーは
「恵・・・。元に戻してくれ。レベルなしだと仲間を食い殺しかねない・・・。それだけは嫌だ・・・。」
涙を流して俺に頼んでくる。
「・・・わかった。」
『デュラン・・・』
マッキーの体が光る。そして・・・。
「なぁ、恵よ・・・。おかしいぞ。さっきより力が溢れてくるんだけど・・・。どう考えてもおかしい・・・。」
「マッキー・・・ノート見てみては??」
「おう・・・そうする。」
ミシュラからノートを受け取り、慌ててノートを開く。マッキーの側にこの部屋にいた女性全員がノートの見える位置に移動する。
俺はもちろんそんなことしない。男は女性のノートを覗き見ると変態扱いされるからね。
「・・・なぁ、恵よ・・・。ちゃんと戻してくれたのか?」
「え?」
「レベルが消えてるぞ?しかも・・・ステータス全てな・・・。」
「え??」
「称号は?あの称号は??モルモット的な・・・。」
「ないけど・・・違うものが増えている。」
「まぁまぁ、どんな称号が?」
『暗黒の暴食者』
『最強の最古の神々を食いし獣』
『最強の神々を食い殺しし獣』
『究極の魔王を退けし獣』
『絶望の使者』
・・・
「ちょっとした・・・悪口ね・・・。」
やっちゃんが何か言っているけど・・・俺には何のことかわからない。
「で、どれのせいでレベルがなくなっているの?」
「わからないわね・・・。これと言ったものはないけど・・・。どれもそれっぽいといえばそれっぽいわ〜。」
ミシュラも困っている。
「で、どうなるの?これ・・・。」
「はれてレベルなしの仲間入りです。どうですか?気分は??」
「え?これと言って何も・・・。」
「はい!!というわけで皆さん!!自分のノートを見て〜。」
ミシュラが諦めたのかいきなり全員にノートを見るように言う。
「なぁ、私は帰っていいのかな?」
お父様は困り果てている。そうだよね。もう用事ないもんね。