大災害
「まさか・・・ミシュラが俺達に気づくなんて・・・。」
俺はいきなりずっこけるミシュラを見てものすごく驚く。
俺達は全く違う次元に居るわけではない。だから認識できなくても攻撃することは、やろうと思えばできる。
無茶苦茶な攻撃をすれば当たる可能性は十分あるからだ。
「マッキー!!一時休戦だ。これはヤバイ。ミシュラが何しでかすかわからない。」
全力モードのマッキーはマジでかっこいい。暗黒騎士というのはこんなにかっこいいのか・・・。でも俺の狂戦士よりやばいんだよ。俺は近距離の肉弾戦のみに特化している。だが、マッキーの暗黒騎士は近距離も遠距離も広範囲も全てこなしてくる。そして何より騎士という名が付くくせにどう見ても獣にしか見えない。
「ガルルル」
という声を発しながら俺に襲い掛かってくる。暗黒に飲まれてこっちに戻ってきそうにないんだな。ちょっと追い込みすぎたかも。
人格を取り戻さないマッキーを横目にミシュラを見るとなんかデカくなっている。
パラパラ青白い光が床に散らばり始める。
「な・・・あんなにデカくなれるのか??今までまだまだ本気じゃなかったのか?」
「な!!なんだ??」
あまりの威圧にマッキーがこっちに戻ってきた。いきなりのことでちょとパニックになっている。
しかし・・・あんなもんがこの世界にいたなんて・・・。しかも身近に居たなんて・・・。
俺が周回しているこの世界で出会った化け物の中でダントツだ。
アイツでもここまですごくはなかった。じゃぁ何でミシュラは負けたんだ??どういうことだ??
ミシュラがなにか構えている。そうすると腕に光が収束し始める。
「恵・・・あれ・・・ためてるんじゃないか???魂の底から『ここから逃げろ』と警告してくるぞ??」
「あぁ。俺もヤバイと思っている。この空間でも塵になった場合はさすがに生き返れないかもしれないからな・・・。」
「マジで?ダメなことなんかあるんだ・・・。恵・・・、どうにかして逃げないと・・・。」
俺は慌ててマッキーを抱えて全力で移動する。だが、ミシュラの構える方向が俺達の方を向く。
「これは・・・絶対気づいている。おかしい。なぜだ??」
「あそこに力を感じるわ・・・絶対あそこになにか居る・・・。」
ものすごい小さい声でミシュラがそんなことをつぶやいている。
『ミドラ!!今すぐマッキーを・・・』
俺が願いを言い切る前にミシュラが腕を振る。
「クソ!!」
これでダメなら・・・
ズズン・・・
俺はマッキーを真上に思いっきり投げた後、自分の右半身が消し飛ぶ感覚だけを感じる。ほんの少しだが回避しようと思いっきり左に飛び退いたのに・・・。俺が床に潰れて居るとものすごい突風が俺の頭の上を通って行く。その直後、俺の再生が終わりきる前に訓練のために作った空間が震え始める。
ズズズズズズズズッズズズズッズズ
ものすごい音と共に生まれてこれまで経験したことのないような地面の揺れを俺は寝転んだまま感じる。
「なんだ??地震か??」
揺れというより床が波打っているように感じる。ものすごい強固なはずの床が大きな波のようにダワンダワンと波打っているのだ。
立っていることも出来ない。そう思っているとものすごい遠くにマッキーが降りていく姿を見つける。
「ミドラ!!マッキーを俺のそばに移動させてくれ!!」
「わかった!!何なんだこれ??」
「いいから早く!!」
俺の腕の中に現れるマッキー。マッキーの体の大半が砕けでズタズタになっている。
俺はマッキーの上にかぶさり波打つ床に寝かせて復活を待つ。
「ん??恵?」
「マッキー!!戻ったか?今すぐ違うところにいく。この空間がもたないかもしれない。」
俺達はメグミ帝国の近くの草原に瞬間移動で逃げ延びる。
なんと言うことだ・・・。被害は空間だけでとどまらずこの大陸一体を砕いている。
地面が揺れているのだ。そのせいで街のすべてが瓦礫と化している。あちこちから煙も出ている。街を守る強固な壁も倒れて大惨事になっている。
『デュラン!!何でこんなことになっている??』
『ミシュラ殿が暴走した。いきなりだ。どうしようもない!!レイ殿には願いで復興させるように言ってある。だが・・・。まだこっちではミシュラが・・・』
『ミドラ!!ミュー!!ミシュラを封印しろ!!これはヤバイ!!今すぐ元に戻せ!!』
『その願い・・・叶えてやろう!!』
『それと同時にデュラン!!すぐに街と死傷者を元に戻せ!!何事も無かったかのように記憶も変えてしまってくれ!!レイがしたことにしておいてくれ!!』
時間が巻き戻るかのように元に戻るすべてのもの。
「何でミシュラはあそこまで不安定になるんだ??俺が居るときは知的な女性だっただろう??人をからかいはするが、自分の理性を失うなんて・・・。」
俺は途方に暮れる。
『恵!ミシュラを元に戻したぞ。周りで皆かなりのダメージを負ったみたいだ。床に転がって回復を待っているがあの空間の損傷ではなかなか治らないと思うぞ。どうする?』
ミドラが空間の中の様子を俺に伝えてくれる。
『デュラン・・・。何で街や街の人は元に戻っているのに、レイ達はそのまんまなんだ?』
『あの空間は時間の巻き戻しが出来ない。だからだと思う。あの空間はあの空間独自に元に戻すようになっている。だから干渉が特殊な願いをしないと通らないんだ。時間が立てば空間の損傷も治るし、それで皆の怪我や装備の損傷も治るし、元に戻る。』
『主殿はミシュラ殿があんな化物だと知っていたのか?』
『いや・・・今まで出会ったものの中でダントツだ。もし・・・あれがラスボスなら俺はやり直しなんてしない。どう考えてもどうにもならない。ハッピーエンドの後であれがまた暴れだしたら・・・糞!!やり直さないといけないじゃないか!!』
あのミシュラが・・・理性を失ったら・・・この世界はあっという間に滅びるだろう。なぜああなった??
俺には理解できない・・・。俺のせいなのか?
「だから言っただろう?規格外だってな・・・。」
俺の後ろで酒瓶を持ってふらふらしている男が言う。
「ミシュラはあれがマックスなの?ケイ。」
「ん?恵、このおっさん・・・知り合いか?」
「いや〜、綺麗なおねえちゃんだな!!一緒に飲もうや!!な?な?」
ケイがマッキーのおしりを撫でるとマッキーは容赦なく暗黒の霧で締めあげている。
「おぉ!このおっさんすごいな!!これだけ締め付けても死なないなんて!!」
マッキーは眼を輝かせて何度も何度もケイを暗黒の霧で殺してしまおうと頑張っている。
「ぎゃぁぁぁぁ!!助けてくれ〜〜!!」
「ははは・・・死にはしないけど痛いんだな・・・。いい気味だ・・・。」
「にゃはははは、本当に頑健だな。凄いぞ!凄いぞ!!」
「あぁぁぁ!!感心してないで下ろしてくれ〜〜!!恵も何とか言ってくれ〜〜!!ギャァァァ!!」
涙を流しながら逆さに吊るされてぎりぎり音を立てているケイ。そのまま悔い改めておきなさい。
俺の質問に答えるつもりはないのだろう。だから俺はそのまま放置する。
簡単には死なない神を相手に笑いながらいたぶるマッキー。彼の正体を知ったらどんな態度になるだろう?