俺と魔人と俺の願い
俺は今、メグミ帝国の俺の屋敷にいる。俺の周りには沢山の人が居るが俺の存在に気づくものはいない。
一部のものを除いて。
「クロエ!!」
「ハイ!!」
俺の身の回りのことを良くしてくれるクロエが俺のために走り回ってくれている。
それでも周りは俺の世話をしているクロエのことが目に入っていない。
ただ、クロエも、俺もこの屋敷の中に存在している。だが俺の許可しないものにはその存在を確認できない。
ちなみにクロエ以外にもクルクも俺の存在に気づいているし、見えている。それは俺が許可を出しているから。
クルクは俺の残した置き手紙をレイに渡して、食事をしている。周りの者は俺の存在が消えて慌てふためいているが俺にはもう関係ない。
「恵様・・・。コレでいいのですか??」
「構わないよ。当分俺は皆の前から姿を消す。そうしないと疲れるんだよ。ねぇ、クロエ・・・俺って間違ったこと言ってた??率直な意見を聞かせて欲しいんだよ。皇帝だからとか召使だからとか抜きにして、一友人として。」
俺の言葉にかなり困惑している。
「友人としてですか・・・変な感じですね。へへへへへ・・・。」
なぜか少し照れている。俺の前でもじもじしながら話し始める。
「私は女です。レイ様や、弥生様、ハウン様、他の女性の方が言うように妊娠という苦しい期間をほぼ無くしてしまえるとしたら・・・。それはいいかな?と思います。ですが、
恵様が言うようにその間にお腹の中の赤ちゃんとの関係がしっかりとあるというのであればそれは短くするべきではないと思います。ですので、恵様の言うことは間違っていないと思います。」
クロエは俺の言うことが間違っていないと言ってくれる。ちょっと嬉しい。
「ですが・・・シャロン様とお子様の感じを見るとそれほど時短が悪いとは感じません。生まれてからでも関係をしっかりと関係を築けるのであれば時短に拘る皆さんの気持ちは痛いほどわかります。私も子供がほしいと思ったこともありますし・・・。」
「クロエって彼氏いるの??それとも旦那さん??」
「あ!!いや、そういうのはまだ居ません。将来そうなった時の話です。居ないとマズいですか?」
「え??いやいや、いるんだったらいつもこの屋敷の中で走り回っているのがダメだと思ってね。そういう関係の人ができたら言ってね。ちゃんとシフト組むから。」
クロエはありがとうございますと小さい声で言って赤くなっている。なんで??
「さて、出かけるとします。クロエは俺が見えなくなると、今会っている記憶が一時的に消えるから驚かないでね。そういう仕様だから。」
「あ、はい。それはわかっています。混乱しないように気をつけます。行ってらっしゃいませ!!」
深々と頭を下げて俺を見送ってくれるクロエ。本当に出来た子だな・・・。
俺は屋敷を出る。もうかなりの長い間一人で生活することがなかった俺にとってなかなかの経験だな。
「さて、全員の目がないうちに俺は障害を一つ一つ消していくか・・・。もうやり直しは嫌だからね・・・。」
『デュラン!!うまくやってる??』
『うまくやるも何もなかろう。主殿の設定のおかげで我は疑われずにこの場に残っていられる。これは面白いな・・・。』
『そっちのことはお願いするね。こっちはミドラたちにお願いするから。間違っても暴走させないでね。特に・・・』
『えっと・・・無理・・・。』
『それってデュランの願いでどうにか出来ないの?』
『毎回許可を取りたいんだが・・・皆の前の我は主殿の存在に気付けない・・・。だから多分暴走したら我の手には負えんぞ。』
『前から思ってたんだけど・・・。デュランって自分の能力を自分で使えないの?』
『使えるわけなかろう・・・。そんなことできたらこの世から邪魔な神々を全部消しておるぞ。』
『でもミドラはミューに願いを叶えてもらってたぞ。』
『え?』
『勝手に時間を止めてたぞ。』
『え??』
『なんか教えちゃまずかったみたいだな・・・。』
『ミドラ・・・本当か??』
『おっとう・・・もしかしてダメだったのか??』
『ダメだぞ・・・。それをやると・・・貯めたエネルギーがな・・・』
『どうなるの??』
俺がずずいと前に出てしまう・・・。誰もいないのに・・・。
俺はその当たりがすごく気になる。勝手に願いを使うとどうなるの?
『はぁ・・・無くなってるな・・・。負債まで抱えていたみたいだ。それがちょっと前になんとか無くなってバランスを保っているようだな。』
『もしかしてレイのおかげ?』
『レイ殿のあの下らない願いのおかげで何とかなったみたいだな・・・。缶コーヒーさまさまだ・・・。』
『おっとう・・・ゴメン。』
『かまわん。お前に何もなかったんだから・・・。よかった・・・。』
かなり深刻だったようだ。
『聞いておいていい?負債があったままだとどうなるの?』
『消滅する。負債がほんの少しでもある場合、長くそのままだと存在していたことすらわからなくなるように消滅する。そうなると主殿も、親である我すらもミドラの存在していたことを掴めないままになる。要するに完全なる消滅だ。・・・よかった・・・ほんとうによかった・・・。』
顔は見えないが泣いているようだ。ミドラもグスグス言っている。
『ミドラ!!』
『はい!!』
『何があっても負債を抱えないようにしてくれ。俺の純粋な願いだ。ミドラたちがいなくなるのも俺は嫌なんだから。』
『ありがとう・・・。その願い・・・かなえてやろう・・・。』
泣きながら言うミドラ。何もなくて本当に良かった。
『じゃぁ、デュランたちが気づかずに消えた魔人も存在している可能性があるんだな・・・。』
『多分な・・・。掴み様がないが・・・。』
恐ろしい話をしながら俺は街をぶらぶら歩いている。
「さて、どこから行こうかな?」