化物勢揃い
今俺達は食事を取っている。
黙々と食べる女性陣と、食事を前に無言で座って手を付けない魔族の大男2人。
「ゾット兄・・・俺達は天狗になっていたんだな・・・。」
ポツリと呟くゼオン。
「ああ。魔界に行って強くなったから・・・。上には上がいるということを忘れてしまったんだな・・・。」
ゾットが下を向いてブツブツ言っている。
そこにレイがやってきてゾットの前に座る。
「叔父様たちは何でここに来たの?」
「ミシュラがやられたと聞いてな。ヤった奴の顔を見たかったんだよ。今思えばそいつはもっと強いわけだろう?恐ろしいことをしようとしたものだ・・・。」
最初に会った時はもっと大きな男だったと思ったんだけどね・・・。小さくなっている。
「ゾル兄の娘よ・・・。あそこに居る男はお前の夫か?人族でありながらあの化け物じみた力は何だ?」
レイに俺のことを聞いている。
「メグミは最近強くなってきたんだよね〜。ジュディ老師に修行してもらってからの伸びが半端ないってやつ?」
「ん?ジュディ??鼻垂れジュディか??」
ゼオンが猫背のまま、レイをまっすぐ見つめてジュディ老師の名を出す。
「鼻垂れ??ジュディ老師を愚弄してるのか?」
俺が少し怒った顔でゼオンに詰め寄ると
「いやいや、あんたを怒らせたことは謝る。ジュディは俺達の妹だ。」
その言葉を聞いてレイがものすごく驚く。
「え??じゃぁ、ジュディ老師ってお父様の妹なの??」
俺も驚いている。
「ん??知らなかったのか?」
そう言いながらミシュラをチラッと見るゾット。
「あれ??伝えていませんでしたっけ??」
ミシュラが首を傾げている。レイすら知らないってことは誰にも言っていないのでは?
「レイリーは知っているはずですよ。」
ミシュラの言葉にすぐさまレイリーに連絡を取るレイ。
「ザザァァァ・・・。ん?姉さん??なんか用??デッカイ力がそっち向いていったけど・・・大丈夫??」
相変わらずゆるく話すレイリー。
「ねぇ、レイリー・・・あなた、ジュディ老師がお父様の妹って知ってた??」
「え?何の話??それ誰情報??」
スピーカーから聞こえる声。
この感じだとレイリーも知らないみたいだ。ミシュラを見ると困った顔をしている。
レイが今どういう状況かレイリーに詳しく伝えている。
「へ〜、オヤジに兄弟なんかいたんだ。で、強いの??ジュディ老師はヤバイけどその兄貴達はどうなの??」
「ジュディって強いのか?」
ゼオンが俺に聞いてくる。
「魔界最強と豪語してるけど・・・。」
「何??魔界最強??あそこはまだ未開のダンジョ・・・」
慌てて口を押さえるゼオン。
「この馬鹿・・・。」
ゾットが頭を押さえながら天を仰ぐ。
「魔界ってダンジョンなの??」
レイがレイリーにそのまま伝える。
知らない初耳と言っているけどバレたらいけないのか?
「ねぇ、レイリー。ジュディ老師をここに連れてこれる?」
「えぇ〜。面倒だな〜。」
「私からもお願いするわ〜。」
俺の横から大きな声でレイに向けて言うミシュラ。
「お母様の願いなら聞くしかないか・・・。」
ミシュラが絡むとすぐ折れるレイリー。
数分して食堂に大きな扉が出てきてそこからレイリーとジュディ老師が出てくる。
「今忙しいのに何で呼ぶんだ??」
ジュディ老師がレイに文句を言っている。レイの向かいにいる2人を見て驚く。
「兄さん??何やってんの??死んだと思ってたわ!!」
ジュディ老師は俺達に目もくれず兄の前に行ってジロジロ見ている。
「兄さんたちを捜索するのに何度魔界を徘徊したか・・・」
ジュディ老師はそう言いながらゾットの前においている手付かずの昼食を摘んで食べている。
「迷子になってな・・・。6層まで行ってきた。」
「え?6層??そんなところで?」
「そんなところまで??だろ!!」
「なにいってんの?私は50層まで行ってきたわよ?マスターにもあってきたわよ?」
ポケットをゴソゴソして何か出してきた。
「「「・・・」」」
俺もレイも、やっちゃんも黙ってしまう。それ・・・缶バッチだよね・・・。
トワコさんもそれを出してきたけど・・・それってダンジョン公認のアイテムなんだ。
「おまえ・・・魔界最強は自称じゃないのか?」
「はい??自称なんて恥ずかしいことするわけ無いじゃない!!」
食べ物をつまみながら兄である2人に怒っている。
ゴソゴソ自分のノートを出して2人に見せる。
「ほら・・・。書いてあるでしょ?称号にそういうのがあるのよ。」
俺は見せてもらえないがそんな称号があるらしい。だから本当に最強なんだろう。
「こんな長い間魔界に潜って6層って・・・。どんなダメなことやってたのよ??兄さんたちは要領が悪い悪いと思っていたけどここまでとは・・・。」
「修行つけてあげれば?」
俺の一言に
「メグミ老師もああ言っていることだし・・・。鍛えてもらいなさい。」
「え?メグミって老師なの??」
レイが俺にキョトンとした顔で聞いてくるけどそんなつもりは全くない。
「そう名乗っているの見たことないでしょ?俺は老師なんて立派なものではありまえん。」
「あなたね・・・。私が免許皆伝したんだから名乗りなさいよ!!私が悲しいじゃない??」
ジュディ老師が悲しそうな顔をする。
「出来の悪い兄を見てくれないかな??師匠が頼んでいるんだから・・・。頼む!!!!」
「それ・・・引き受けると称号付いたりする?」
「するだろうな!!何かしらの称号が着くだろうな!!ワクワクするな〜。」
全くしない。
「兄さんたちはレベルにこだわっているからいつまで経っても・・・。」
ジュディ老師がボソッとつぶやいた一言にミシュラが反応する。
「恵さん!!シャロン!!お願い!!」
この言葉の意味を理解するのに数秒かかる。
音のない世界が広がっていく。シャロンが時を止めたようだ。
「ここが噂の時のない世界か・・・。」
ジュディ老師がキョロキョロしながら感慨深そうな顔をしている。
「ジュディ、まさかあなたも??」
「ん?何の話だ??レベルか??」
「そうですよ!!あなたもレベルが消えている?」
「ミシュラもか??というか・・・ここに居るもの皆か??メグミだけじゃないのか??」
ちょっと嬉しそうな顔をするジュディ老師。
「もしかして俺がレベル消えた話をしたから免許皆伝するあの試練を?」
俺が聞いているのに頭をポリポリ掻きながら下を向いて黙ってしまう。
「ああ。そうだ。自分以外にレベルが消えたものの話を聞いて舞い上がってね。もう・・・嬉しすぎて・・・なんて言えばいいんだろう。」
涙を浮かべて俺達を見る。
「仲間がいたんだな。こんなに・・・。」
「なぜゾルミスに相談しなかったの?」
ミシュラがジュディに聞く。何でお父様?
「ミシュラ!!まさか!!ゾルミスも??」
シャロンが驚いている。
「ええ。彼もそうよ。以前話したのはゾルミスです。あの人には話してもいいと言われていないので名前を出しませんでした。あの人の称号は『数多の神々を喰らいし魔王』です。ああ見えて最強の魔王ですよ。レイはレイリーのほうが強いと言っていますけどね。」
驚きだ・・・。レイリーよりも強いとは・・・。
「あの人はあんな感じをずっと装っています。いつからでしょう。昔はあんなキャラではありませんでした。」
ミシュラが昔を思い出して微笑んでいる。
「え?ゾル兄は昔からあんなだぞ?」
「え?」
ジュディ老師の言葉にミシュラが驚いている。
「たぶんだけど〜。ミシュラの前で格好つけてたんじゃないかな?ものすごい頑張ってたんだと思うわよ〜。」