まさかこんなことになるなんて・・・。田村弥生
やっちゃんの目線です。
私の認識は甘かった。身内だからとか、顔見知りだからとか・・・そんな感覚がない人がこの世にいるなんて。レイの挑発に乗ったというより、今の自分の力を知りたかっただけなの。この世界でかなりの強さを手に入れた。真の勇者として絶対的な地位も持っている。でも周りが化物級で自分の強さがわからなくなっていた。きっと、シュローデヒルム帝国から出なければ、レイと知り合わなければ、もっと弱い自分でも何も思わず生活してたのにな。
私は皆にやっちゃんと呼ばれています。それは恵くんがそう呼んでくれるから。恵くんをどうしても自分のものにしたくて、この世界に巻き込んだのは私のスキル。どんなに0に近い確率も6分の1まで確率を上げるスキル。それを使って恵くんをこの世界に呼び出したの。そしてレイと知り合った。今までレイと戦って一度も彼女に一泡すら吹かせたことがない。だから今回こそは・・・。恵くんが用意する空間は彼が死んでいいと思わない限り死なない、訓練のためにあるような空間。だから友人であるレイでも仲のいい姉のような存在であるハウンにも思いっきりぶつかれる。万が一にも死ぬことがないから。
とても楽しい時間だった。今の強さは恵くんがこの世界に来た時とは比べ物にならないくらい、私は強くなっている。そう確信できる。それほどあの二人に食らいつくことが出来た。後少しで届くかも・・・。もっと彼女たちの強さに近づきたい・・・。そんななんとも言えない感情が理想を捕まえそうになった瞬間、恵くんがこの空間に入ってきた。あぁ、この楽しい時間が終わりを迎えたんだな・・・と。
恵くんの後ろから・・・彼女の姿が見える。そう、私の目標二人が全力で戦って息一つ乱さない、究極の戦闘狂・・・ミシュラが・・・。なんで??
「お楽しみね〜。遊びましょ〜。」
戦闘狂・・・いや、この世界、最強の戦士がものすごい笑顔で私達に飛びかかってくる。
「ちょ!!恵くん!!お母様はないわ!!」
私はもしかしたら失礼なことを言っているのかもしれない。でもこれは今の私が口から出せる、嘘偽り無い本心の声。
誰に攻撃しようとしてたのかはわからないが私の発した言葉のせいで照準は私に向いたようだ。
「そんなこと言わない〜」
その声と共に私の左わき腹に彼女のボディブローが入る。咄嗟に回避したつもりでいたけれど私の鎧が砕けて肋の砕ける音がする。
私は吹っ飛んできっとこの空間の地平線の彼方に飛んでいくのだろうと思った。
ガイィィィィン!!
私の後ろでとてつもない衝突音と共に全身からヌルッとした嫌な感触がする。
何もないのに衝突して、衝突した面から砕けた鎧が体に刺さり大量の血が吹き出ていた。
「ゴバッ」
あぁ恵くんがなにか言ってたな・・・。
「どこまでも移動できないようにめちゃくちゃ広い部屋っていうのはナシで。」
あぁ、そうだ。虫の移動を制限するためにこの空間には壁があるんだ・・・。
私は大きなダメージを受けて床に横たわっている。普通なら死ぬダメージ。それなのに10秒ほどですべての傷が治り、損傷した武具が修復され、意識をしっかり戻してくれる。
「ははは、普段ならありがたいけど・・・これは地獄ね。」
私が独り言を言っているとレイがミシュラに襲われている。
「前は怖くて仕方なかったけど、今なら一発いれてやるっていう気持ちになるわ。」
私は走ってレイの元へ。
ハウンも向こうから走ってきてレイに加勢するみたい。さすが私のお姉ちゃんね。とても頼りに・・・泣きながらですか・・・。怖いなら逃げればいいのに。