月光
俺の腕の処分もできた。
さて、俺達は・・・何しにきたんだっけ?
「マリスタンの手紙どうする?」
レイがヒラヒラと手紙をさせながら困っている。そう言えばそんなものを拾ったっけ?
「マリスタン様の手紙?」
ばぁさんが食いついてきた。
「マリスタンより地位が高んじゃないの?最長老だし。」
俺の言葉にクビを勢い良く横に振る。
「何を言っている??この帝国の初代皇帝にして森の最強の戦士、マリスタン様に無礼であろう??」
「あのすっとぼけ糞オヤジと間抜けバカ息子は偉かったんだね。」
やっちゃんが凄い悪辣辛辣な言い方をする。
「ななななな・・・」
ばぁさんが言葉を失って止まってしまった。
その止まっているバァサンに無理やり手紙を掴ませるレイ。手紙・・・もうぐしゃぐしゃじゃないか。
こちらの世界に返ってきたばあさんが手紙を開いて・・・
「お前をここの皇帝に推しているぞ?どういうことじゃ?」
俺の説明にいちいちフリーズするバァサン。面倒なやつだな。
「なぜこれを一番最初にワシに見せんのじゃ?これがあれば話もスムーズだったじゃろ?」
いやいや、プライドの無駄に高いやつに上からずっと話される身にもなってくれ。しかもバァサンが無茶苦茶な理論出さなければ俺達もあそこまで馬鹿にしなかったはず・・・きっと・・・。
「もうその話はいいから、月光を何とかしてくれ。お前なら出来るじゃろ?」
「いや、俺に実害ないから知らない。封印解いた奴が馬鹿なんだろ?責任もって嫁にいけばいい。」
俺の冷たい態度を気にもせず、後ろから3人のエルフがやってくる。
「この子が誤って解いてしまったんです・・・。」
男女二人に連れられてきた人で言えば13歳位の女の子が泣きながら立っている。
「重要な封印となぜ学習させなかったんだ?そういうの込みで街じゃないの?子供は地域で育てるとか言うじゃない?そういうのこの国にはないのか?」
俺の言葉に下を向く男女。
「ってか、君ら幾つなの??歳がわかりにくいんだよね。俺より遥かに年上でしょ?」
「126です。」「110です。」「62です。」
驚異的!!13歳位の娘さんは62でした。俺の母親より年上でバァちゃんより少し下・・・。
「その歳で未成年面はやめよね・・・。」
俺は缶コーヒーを飲みながら言う。
「言っとくけどな!!俺のバァちゃんと変わらない歳の女が子供ですって顔するなよ!!今まで時間がたっぷりあっただろ?なぜ勉学に励んだり常識を学ぼうとしなかったの?それで馬鹿やって助けろだって??知らないよ!!」
俺の怒りの声にどんどん暗くなる3人。知らんわ!!
「そう言わず助けてやってほしいんじゃ。」
「いやだ。嫁にいけ。性奴隷じゃないだけマシだろ。」
「そうそう、奴隷ではないぞ。可愛がるからの。」
後ろに誰か降ってきた。はぁ、変な奴が俺の後ろにいる。
「フォーメーションを組め!!月光を討伐する!!」
後ろで慌ただしくエルフたちがガチャガチャとフォーメーションを組み始める。
何で現れるかな??俺が後ろを振り向こうとすると
「人よ、動かぬほうがいいぞ。俺を見て驚けば首をハネねばならない。」
月光というやつだろう。そいつが脅してくるが躊躇せず後ろを向く。
あ!驚いた!!
その瞬間に剣を振ってくるが遅すぎるんだよ。
俺が避けると月光と思われる奴が驚く。
「なに??避けた??」
「いや、俺が驚いたのはお前の見た目じゃない。あれ?見た目か??どうなんだろ?ほら、尻尾だよ尻尾。」
俺が極太の尻尾を指差して言うと
「俺の尻尾に指差すな!!」
俺に指を指し返して怒っているが、俺の向こう側にいるメイリーンを見て驚く。
「おまえ・・・ゲッコ族か?トカゲモドキか??マジでか??あぁ・・・」
目の前の男がなんとも言えない顔をする。
「何だお前、メイリーンの知り合いか?」
「おまえはメイリーンというのか?こっちへ来い!!一緒に住もう・・・。」
「いやだ、お前なんか知らないし、興味もない。私は恵様のそばにいるのだ!!」
メイリーンがそっぽ向いて拒否する。
「恵様??誰だそいつは?そいつを殺せば俺のところに来るのか?」
「余計行くか!!って言うよりお前ごときが恵様に勝てるわけがない!」
「何を言っている。もうすぐ満月・・・そうなれば俺は無敵になる。その時なら神々ですら俺には勝てん。」
俺には自分で満月以外では何もできないと言っているように聞こえるんだが・・・。
「俺が恵で〜す!!」
その瞬間に何度も切りかかってくるが当たる気配なし。
「聞きたいんだけど・・・満月でもその戦闘力?強くなるの??満月で付属する力って死なない程度??」
俺の質問に
「死なないのにどれだけのアドバンテージがあるかわからないのか?馬鹿なのか??」
何度も切りつけてくるが戦闘力の向上は無しか・・・。ダメだなこいつ。
「メイリーンでも完勝できるだろ??相手してあげて、弱い奴は要らないと言ってあげなさい。こういう男はしっかりわからせたほうがいい。」
俺にキレてまた襲いかかってくる。怒りのせいで単調でもの凄く雑。
面倒なので思いっきりお腹殴ってやった。
「ぐぉばぁぁぁ」
汚い声と汚いものが一緒に出てくる。もう汚すぎて触りたくない。
「貴様・・・、強いのか??」
「この大陸のやつはなんで最初にまず相手の強さを知ろうとしないの??まずそこからでしょ??強いやつに飛びかかって返り討ちに合うのが楽しいの??馬鹿か変態のどっちかなの??」
俺の呆れた顔にリユが顔を赤くして俯く。そうです!!君にも言っています。
「俺より強い奴がいたなんて・・・。ここまで月が満ちているのにこの差は・・・。」
「もしさ・・・不死っていうのが残酷な呪いだったらとか思わないの?」
俺の言葉に驚く月光。
「コレ見てよ。」
俺が自分の腕を刎ねる。落ちた腕を診て驚く月光。
それよりもすぐに生えて来た腕にもっとびっくりする。
「おまえ・・・。もしかして不死なのか??」
「不死ではないと思いたい。が、バラバラになっても死なない。お前と違って時間的な制限もない。で、お前は俺を何とかできるのか?この差で。」
震えながら下を向く月光。
「もしだよ・・・月の満ち欠けで戦闘力も変わるくらいの面白さがあれば皆もっとやる気出していたと思うんだよ。やっぱりこんな感じじゃない??俺・・・強いほうかもしれないけどもっと上がいるよ。俺をずっと殺し続けることができる人が普通に身近にいるよ。もしお前がそれをやられたらどうする??死なないことを後悔しない??」
俺の淡々とした言葉にドンドン元気を失う月光。
その月光に近づくレイ。
「メグミが話ししているのに下を向くな。失礼だろ!」
顔面に容赦のない蹴りを入れる。そのケリで顔が見る影もないほど崩れる。
「がぎゃぁぁ!!」
顔を押さえてのたうち回る月光。月が満ち始めているのでこんな致死的な怪我でも死ねない。
痛みがあるだけ地獄を見る。
「月が満ちさえすれば負けない・・・」
「負けないが勝てもしないぞ。お前はまだわからないのか?」
「月の光が届かない世界に閉じ込めれば?」
ハウンが腕を組んで俺に言う。ハウンは話しのわからないバカが凄い嫌いなのだ。
「メイリーン、彼にお別れ言ってあげなさい。何なら少し稽古を付けてあげてもいい。」
メイリーンが喜んでボコボコにし始める。月光は悲鳴を上げているが結構な速度で回復していくから気を失うことも、死ぬこともできずメイリーンのスタミナ切れまで苦しみ続けるだろう。
スタミナ切れ??そんなものは真の勇者には存在しない。MP切れはあっても相当なことをしない限り疲労なんて感じない。魔界での特訓くらいキツくないと消耗しないんだな。
「たす・・・」
「やめ・・・」
「ちょ・・・」
「すみ・・・」
なにか言いたいようだが言い切る前に鉄拳が飛んでくる。
「メイリーン、今夜の満月になったら剣の使用も許可するから切り刻んで差し上げなさい。その後封印するから。あと、試したい大技があればドンドン試し撃ちしなさい。こんな時じゃないと使えないでしょ?好きなだけは・・・。」
俺が手を振って指示するとニコッと笑うだけのメイリーン。
わかってくれたみたいだな。しかし速攻で剣を抜いている・・・わかっていないみたいだ。死なないんだし、まぁいいか。
俺達は缶コーヒーだけではなくお菓子などを出して寛ぐ。
「あの・・・月光はどうなるんですか??」
「どうなるも何もあの子の実験台になり続けるんだろ??俺達が寝た後もずっと遊び続けられるんだから気の毒にしか思えないよ。」
「封印は??」
「してもしなくても一緒でしょ?世界は広い。自分は弱いと知れば考え方も改まるでしょ?」
「悲鳴と音がうるさいのですが・・・」
それは知らないよ。