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白色のドラゴン

 その時、ワイヤーは川の流れに耐えられなくなり、呆気なくワイヤーの先端が幹から抜ける。


 引っ張られるようにオレは川に流される。

「うわあああああ!」

 叫んで口を開けた時に川の水を飲んでしまい、オレは盛大に咳き込む。

 オレの叫びも虚しく、オレは川の流れに身を任せるしかなかった。

 くそっ。フックショットはダメだったか。オレは引き金を引いて、ワイヤーを巻き取る。

 ぜってえ、お前を助けるからな。

 オレはミサに振り向いて、ミサの脇腹を通してホバーボードを掴む手に力を入れる。


 オレは川の流れに揺られて酔って吐きそうになる。

 川の水がつめてえ。傷が沁みやがる。

 今日は災難だぜ。まさか、この先は滝じゃねえだろうな。

 オレは嫌な予感がして、川の先を見つめる。

 川の先は深い森が広がっている。


 その時、両川岸にさっきの狼の様な魔物がオレを追いかけてくる。魔物は二匹。

 メタリックの骨格の身体で眼が紅く、背中に装備した大きなマシンガン。

 もう一匹の背中には大きなキャノン砲を装備している。

 オレの傍でマシンガンの弾丸が川に落ち、すぐ傍でキャノン砲が川に落ちて爆発で川に穴が開く。

 くそっ。諦めの悪い奴らだ。

 オレは息を吸って、ミサを押さえたまま川に潜って顔を隠す。

 水中でマシンガンの弾丸がオレの頬を掠めたのか、類に痛みが走りオレは顔をしかめる。

 川の流れが速くて息が続かず、オレは川から顔を出して大きく口を開ける。

 キャノン砲がホバーボードのすぐ上を掠める。

 ホバーボードにマシンガンの弾丸が命中したのか火花が散っている。


 気のせいか少しずつ川の流れが早くなっている。

 オレの流される速さに追いつけなくなった魔物は諦めて立ち止って首を振っているのが見えた。

 魔物は踵を返して、樹の影に消える魔物の後ろ姿が小さくなる。

 どんどん川に流され、川が曲がったりで気分が優れなくなる。やっぱり、滝があるのか?

 オレは吐きそうになり、口許を手で押さえる。

 オレの嫌な予感が当たり、辺りに轟音が響く。目の前に大きな滝が口を開けて迫っていた。

 おいおい、あんな滝に落ちたら、今度こそ助からないぞ。

 成す術もなく、オレとミサは滝に吸い込まれて滝に落ちた。


 宙に放り投げ出されたオレは逆さまになってミサに手を伸ばす。

「ミサあああああ!」

 くそっ! ミサが死んじまう。どうにかなんねえのかよ! オレは悔しくて歯を食いしばる。

 そうだ。さっきみたいに助けてくれよ! オレは小さくなってゆくミサに手を伸ばしたまま、胸のクリスタルを握り締める。

 オレは、ミサを助けたいんだ! なんとかしやがれ!


 その時、胸のクリスタルが眩く青白く光る。オレは青白い光が眩しくて、顔の前を手で遮る。

 顔の前を手で遮る指の間からホバーボードが縦になってマフラーから火を噴き、真っ直ぐにミサ の元に飛んでゆくのが見える。さっきの魔物の攻撃でホバーボードが損傷して火花を散らしながら。

 ミサに追いついたホバーボードはミサの身体の下に潜り込み、ホバーボードの上にミサの身体がうつ伏せに乗っかり、ゆっくりとホバーボードは下がってゆく。

 オレはミサに親指を突き出す。頼むぜ、ネロ。 ミサを守ってくれ。

 なんとかなるだろ。オレは安心してため息を零し、水飛沫を手で遮りながら辺りを見回す。

 どっかにフックショットを引っかけられれば助かるかもしれねえ。

 オレはフックショットを握り締める。

 滝の裏の岩壁にフックショットを引っかけるのもいいが、滝の流れが早い。

 他にフックショットを引っかけられるような岩や木がない。

 やっぱ、近くに引っかけられるようなもんはねえか。そんな甘くねえよな。

 オレは瞼を閉じて首を横に振る。

 オレは緊張で生唾を飲み込んで喉を鳴らし、滝の端の突き出た岩壁に向かってフックショットを構えて、フックショットの引き金を引く。

 ワイヤー足りるか? けっこう岩壁まで距離あるな。オレは額に手を当てて、岩壁までの距離を確かめる。

 銃口から勢いよくワイヤーが飛び出し、岩壁に突き刺さったフックショットにオレは引っ張られる。

「岩壁に叩きつけられる! そこまで考えてなかったあああああ!」

 オレは舌打ちして、フックショットを両手で構えて引き金を引く。

 岩壁に突き刺さったワイヤーが抜けてワイヤーが巻き取られ、オレの身体が逆さまに滝壺に吸い寄せられてゆく。

 オレは大きく息を吸って吐いた。

 最後にこいつを頼ることになりそうだ。不思議と死ぬ気がしねえ。

「なんとかしやがれ! ただの飾りじゃねえだろうが!」

 オレは瞼を閉じ、胸のクリスタルを片手で握り締めた。


 その時、滝の向こうから大きな翼が羽ばたく音が聞こえる。

 なんだ? オレは思わず験を開けて、音の方を見た。

 クリスタルの青白い光がオレを包み込む。

 オレの視界に白色の大きなドラゴンが羽ばたきながら、口から炎を吐き、物凄い速さでオレに近づいてくるのが映る。

 白色ドラゴンの瞳は吸いこまれそうな透き通る 大きなサファイアブルーだった。まるで大きなサファイアブルーの宝石の様な瞳だ。

 白色のドラゴンが火を噴いた熱気がオレを襲い 、オレは顔の前を手で遮る。

 物凄い熱気でむわっとする。冷たかったオレの身体が温められる。

 な、なんだよ、あいつ。魔物か? オレを捕まえる気なのか? それとも腹が減ってオレを食う気か?


「ワハハハハッ! 感じる、感じるぞ! 久しいオーヴの力だ! ワタシは長い眠りから覚めたぞ!」

 人語を操るよく通る声が近づいてきたと思ったら、白色ドラゴンがオレを一瞥して、白色ドラゴンの大きな影がオレの下を通り過ぎる。

 次の瞬間、ばさっと翼を広げるような大きな音がして、オレの背中がごつごつと硬い物に触れた

 見上げると、白色の大きなドラゴンが仰向けになって両手でオレを抱いていた。

 白色ドラゴンの指の鋭い爪が視界に入り、オレはぞくりと寒気がしてぷるっと震える。


「うわっ! お、下ろせ! 魔物が!」

 オレは白色ドラゴンの腕の中で手足をバタバタさせて暴れた。

 まだクリスタルが青白く輝いているので、オレはクリスタルをそっと握り締めた。

 不思議と安心して落ち着き、大丈夫だと教えてくれている様な気がした。


 白色のドラゴンが身体をよじって、呆れたように大きな首を横に振る。

「やれやれ。無暗にオーヴを使い過ぎだ、マスターよ。お前は疲労の限界がきているはずだ、少し

眠るがいい」

 気持ち良さそうに両翼を羽ばたかせて、大きな滝から離れ、白色ドラゴンは川沿いをゆっくりと 飛んでゆく。


 その時、オレの眼下に川岸に寄せられてうつ伏せに倒れているミサが目に入る。

 ミサの傍にはホバーボードが裏返って火花が散っている。

 川岸の樹の影から現れた一人の黒装束が肩に掛けたマシンガンを構えてミサにゆっくりと近づいてゆく。


 オレの鼓動が高まり、急な眠気から一気に覚める。

「お、おい! 下ろしてくれ! ミサを助けないと!」

 オレは白色のドラゴンの硬い皮膚を肘で小突いた。

 肘が痺れてびりびりして、オレは痛みで肘を押さえて呻いた。


「倒れているあの子かい? ちょっと様子を見ようじゃないか」

 白色のドラゴンがミサの上空を旋回し始めた。


 黒装束の男がミサを肩に担ぎ、ホバーボードを脇に挟んで、黒装束は旋回している白色のドラゴンを仰ぐ。 黒装束は顔が黒いフードで覆われ、口許も黒い布で覆っているため、性別がわからず、表情も見えない。

 やがて黒装束はミサを肩に担ぎ直して歩き出し 、奥の樹の影に消えた。


 白色のドラゴンが旋回をやめて羽ばたき、森の奥を見つめている。

「ふむ。近くに野営地があるみたいだね、テントが幾つか張ってある。そこの連中みたいだ、あの子を攫った奴は。どうするんだい?」

 白色のドラゴンが欠伸をして火を噴いた後、オレに訊いてきた。


 オレは白色のドラゴンの視線を眼で追った。

 白色のドラゴンの視線の先に野営地があり、テントが幾つか張ってあった。

 野営地から白煙が昇って、風に乗っていい匂いがオレの鼻腔をくすぐる。

 匂いに反応するように、オレの腹の虫が鳴った

 そういえば、腹が減ったな。ミサが持ってきた菓子、全部食ったしな。

 ミサの奴、本当はネロとのデートで食うつもりだったんだろうけど。

 オレはお腹を擦るが、腹の虫は食いものをよこせと鳴き続ける。

 オレは額に手を当てて、よく野営地を見ようとする。

 あいつら、ラウル古代遺跡を調査しにきた探検隊か?

 それにしても、こんなところに開けた場所があるなんて。

 そうだ。あいつらに訊いてみよう、ラウル古代遺跡のこと。何か知ってるはずだ。

 その前に、オレはミサを助ける。


 オレは野営地を睨み据え、拳を握り締めた。

「ミサを助けに行く! 野営地に行ってくれ!」

 オレは白色のドラゴンの腕の中でじたばたと暴れた。


 白色のドラゴンはオレを摘まんで、顔の前までオレを持ってくる。

「ワタシは反対だね。マスターの疲労が酷い。今野営地に行ったって死ぬだけさ。ワタシとお前で攻めるつもりかい? 冗談じゃないよ。敵の数が多い。よく考えな」

 白色ドラゴンは眉根を寄せて口を結び、白色ドラゴンの鼻息がオレに飛んでくる。


 白色ドラゴンの声が子守唄の様に、波の様に揺らいで聞こえる。

 な、なんだ。急に眠気が襲ってきやがった。

「ミサがミサを助けなくちゃ....」

 オレは目がうとうとして船を漕ぎ始める。


 白色ドラゴンは馬鹿にするように鼻で笑う。

「オーヴを使ったにしちゃ、よく身体が持ったほうだ。大したもんだよ」


 オレはそこで気絶した。

 目の前が真っ暗になる。


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