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ゾット帝国騎士団カイトがゆく!~人を守る剣の受け継がれる思い~  作者: 裕P
異世界アルガスタ~異世界ユニフォンへ
18/28

少女との出会い

昼下がりの町。

 オラは母の祖母が営んでいる甘味処(かんみどころ)に立ち寄り、妹の栞と一緒に甘味を食っておった。

 甘味処の店外の洋風ベンチに座って、オラは串団子をほうばり、オラの隣の栞は両手で饅頭(まんじゅう)をほうばる。


 甘味というたら、串団子じゃろ。三色団子もええし、みたらし団子もええな。

 考えただけで、涎が出るわい。


 栞は、甘味というたら、饅頭らしい。蓬饅頭も好きで、おはぎも好きじゃ。

 饅頭も美味いが、やっぱ団子じゃろ。


 甘味処に寄ったら、大体、オラは串団子を頼んで、栞は饅頭じゃ。

 熱いお茶を飲んで一服したら、もう幸せじゃ。


 その時、店の暖簾(のれん)から、紅い前掛けをした母ちゃんが両手でお盆を持って現れた。

 お盆の上には、急須と湯呑、小皿には見たこともない菓子が盛られていた。


「はい。カステラよ、食べてみて。うちの常連のシーボルトさんが異国のお土産に持って来てくれたのよ。カステラは、異国の洋菓子みたいよ。卵で生地がふわふわしてて美味しいのよ。紅茶に合うわね」

 母ちゃんがオラたちにウィンクして、お盆をベンチの上に置く。

 母ちゃんが、湯呑に茶を注ぐ。湯呑から、湯気が立った。


 オラと栞が、興味津々に小皿に盛られたカステラをまじまじと見る。

 カステラは、上にこんがり焼き色がついており、焼き色の下に、柔らかそうな黄色をしていた。


 オラは小皿を持って、不思議そうに首を傾げ、カステラの焼き色を触ってみた。

 生地がべたついて、指の腹にカステラの生地が付いた。

 指の腹に付いた、カステラの生地を舐めてみる。

 甘くて、生地のふわふわ感が口に広がった。


 カステラの黄色ところを人差指で突いてみると、柔らかくて、ふにふにしている。

 カステラを手に取って、一口ほうばる。


「ね? 美味しいでしょ?」

 母ちゃんが両手を合わせて、目を輝かせて訊いてくる。


「初めて食うたが、カステラ、美味いのう」

 オラは一気にカステラを食うて、指の腹についたカステラの生地を舐める。


 栞を見ると、カステラを美味しそうに食べている。

 どうやら、指の腹についたカステラの生地を舐めるのに苦戦している。

 栞も、カステラが気に入ったらしい。


「あっ、お茶より、紅茶がいいわね。持ってくるわね。ちょっと待ってて」

 母ちゃんが、思い出したように掌の上で拳を叩くと、暖簾の奥に小走りに消えて行った。


「栞、カステラ美味いじゃろ?」

 オラは栞の顔を覗く。


「うんっ!」

 栞は満足げに頷く。


「放してよ! あんたらと遊ぶ気ないんだから!」


 その時、少女の怒鳴り声が聞こえた。

 オラは少女を見る。少女はピンクの花柄の着物を着ていた。


「お嬢ちゃん、可愛いな。どうだい? この町の遊郭で働いてみないか?」

「お嬢ちゃんなら、人気の遊女になるよ。お金も稼げるよ」


 オラの目の前で、ガラの悪いならず者二人組に絡まれている少女。

 どうやら、ならず者の二人組は、町で遊女の卵を探していたらしい。


 遊女の卵を探すために、遊郭に雇われたならず者ちゅうことか。

 そげな乱暴なやり方で、遊女の卵なんか、見つかるわけないじゃろ。

 刀なんぞ腰に下げおって、遊郭も、雇う人間を間違えたんじゃろな。


 ならず者の腰に、大小が下げられている。

 刀か。物騒じゃのう。関わらんほうがええわい。


 オラは無視して、もう一切れのカステラを口にほうばろうとした。

 口を開けたまま、視線は少女の方に向いた。


「知らない男に抱かれるより、好きな男に抱かれるほうが、よっぽどマシよ!」

 少女が男の股間を、思いっきり蹴った。


 あの女、男の急所をやりおった。

 ありゃ、痛いで。


「いててて! こいつ、玉蹴りやがった!」

 男が股間を押さえて、兎のように跳ねている。

 やがて地面に崩れて、縮こまり身体を回らせながら唸る。


「このアマぁ! やりやがったな!」

 男が、鞘から刀を抜く。


 刃先を喉元に向けられた少女。

 さすがに少女は腰が抜けたのか、尻餅をついた。


 もう見てられん。

 オラはベンチから立ち上がって、小皿にカステラを置き、少女の元へ駆けた。

 指の腹についた、カステラの生地を舐めながら。


「大丈夫か?」

 オラは少女に手を差し伸べる。


「あんたの手、べたついてない? きゃっ」

 オラの手を受け取って、立ち上がろうとする少女。

 しかし、足首を押さえ、唸る少女。

 どうやら、尻餅をつく時に捻挫したらしく、立ち上がれないでいる。


「手がべたついとるんは、カステラちゅう洋菓子じゃ。卵がふわっとしてて、これがまた美味いんじゃ」

 オラは少女から手を離して、腕を組んで首を縦に振る。


「カステラ? って、あんた。感心してる場合じゃないでしょ!」

 少女が首を傾げて、拳を振り上げて、オラに怒鳴る。


「おい、ガキ。いいとこで邪魔するな! お前も斬られたいか!」

 オラと少女のやり取りを見ていたならず者の男は苛立って、刀を肩で叩き、オラに刃先を向ける。


「こげな話してる場合じゃなかったわい」

 オラは少女の前で両手を真っ直ぐ横に広げて、ならず者の男を睨み据える。


「へっ。丸腰のお前に、何ができるってんだぁ?」

 ならず者の男は鼻で笑う。


 丸腰のオラに勝ち目はないじゃろ。

 じゃったら、少しでも時間を稼いで、こいつらから逃げんと。

 オラは屈んで片膝を地面につき、手を後ろに回して、ならず者の男に見えないように地面の砂を握った。


「跪いて、斬ってくださいってかっ!」

 ならず者の男が刀を振り下ろす。


「食らえや!」

 オラは握った砂を、ならず者の男の顔にかける。


「うわっ! やりやがったな! 眼に砂が入りやがった!」

 ならず者の男は、眼や口についた砂を手で払ったり、唾を吐いたりした。


 よし。うまくいったわい。

 これで、しばらくは時間が稼げるじゃろ。


「今のうちに逃げるで!」

 オラは少女に振り返って、少女を起こそうと少女の手を繋いで、少女を立ち上がらせようとする。


「ちょ、ちょっと。足を捻挫してるのよ!」

 少女は立ち上がるも、片足を上げてこけそうになる。


「忘れとったわい。ほれ、おぶるけえ」

 オラは顔を少女に振り向け、オラの背中を少女に向けた。


「あ、ありがと。尻餅ついた時に、足挫いたみたい」

 少女はオラの背に遠慮がちにちょこんと乗っかる。


「意外と重いな。お前、肉の食い過ぎとちゃうんか」

 オラは立ち上がり、少女をおぶって走り出す。


「う、うっさいわね。早く走りなさいよ! もぉ!」

 少女はオラの頭を両手で叩いた。


 背後から、ならず者の怒号が聞こえる。


「逃がさんぞ!」


 しつこいのう。

 声からして、追手は一人か。

 相方は、相変わらず急所をやられて、しばらくはあのままじゃろ。

 この辺は、あまりこんけえ。

 ここは撒くために、小道に行くか。


 オラは右に曲がって、小道を進んだ。

 石塀の向こうに、竹林が広がる。

 入り組んだ小道だった。

 何度も曲がり角を曲がり、分かれ道を適当に進む。


 夢中に小道を走るうちに、そこは不運にも袋小路だった。

 後ろは石瓶。石塀の向こうに庭が広がっている。


「やっと追いついたぜ。へへっ」

 ならず者が刀を舐めながら、じりじりとオラたちを追い詰める。


 オラは後退る。一歩。また一歩。

 オラは地面を見る。

 袋小路は石敷きで、握れそうな砂はなかった。

 手詰まりじゃ。


 オラの頬に冷や汗が伝う。


「まあ、ここまでよく逃げたよ。そこは褒めてやる。だが、知らない道を行っちゃいけねぇなぁ」

 ならず者が刀を肩に置いて、詰めが甘いとばかりに、人差指を小さく振る。


 オラの前まで、ついにならず者が歩み寄る。

 後ろは、石塀で行き止まり。


「女は頂くぜ! 実は俺はよぉ、嘘ついてこの女を異国に売り飛ばそうとしてたんだ。騙して悪かったなっ!」

 ならず者が不気味に高笑いしながら、刀を振り下ろした。


 もうダメじゃ。

 オラは両目を瞑った。


 少女はオラの背中で「きゃっ」と声を漏らす。

 オラの着物の皺を握り締めた。


「な、なんだ! 前が見えねぇ!」

 ならず者の怒鳴り声が聞こえる。


 オラは瞼をゆっくり開けた。

 ならず者の頭に、マントのような物が被さっている。


「感心しないな。ならず者が、子供を斬る趣味があるとはな」

 ならず者の背後で、別の男の渋い声が聞こえた。


 オラはカニ歩きして、恐る恐る身を乗り出して、ならず者の背後の男を覗き込む。


 ならず者の背後の男は、長い髪を後ろで束ねて、長い前髪が目許に垂れている。

 口に煙草を銜え、黒い制服を着ていた。


 ならず者の背後の男は、オラを一瞥して、ならず者の背中を睨み据える。

 ならず者の背中に、煙草の煙を吹きかける。


「!? 貴様、何者だ!?」

 ならず者がマントを乱暴に取って投げ捨て、男に振り返る。


「憲兵団、一番隊隊長の伊藤だ。子供を追い回しているお前を見かけてな」

 伊藤が煙草を吹かして、煙草の煙をゆっくり吐いた。


「伊藤だと? 聞かねぇ名だな」

 ならず者の男が、刃先を伊藤に向ける。


「お前など斬る価値もない。大人しく寝ててもらおうか」

 伊藤が煙草を吹かしながら、素早くホルスターからオートマチック銃を抜いて、ならず者に銃を撃つ。

 一発の銃声。オートマチック銃の銃口から、煙が龍のように昇る。


「ぐぁぁぁぁぁ!」

 男の身体に青白い電気が走り、痺れながら崩れた男は、うつ伏せに倒れた。

 男は泡を吹いて、痺れているのか、身体がぴくぴく動いている。


 オラはうつ伏せに倒れたならず者を見下ろした。

 なんじゃ。

 あの武器、おっそろしいのう。


「連行しろ」

 伊藤が、うつ伏せに倒れたならず者の男を見下ろして煙草を吹かし、小道の奥を顎でしゃくる。


「はっ」

 伊藤の後から、制服を着た憲兵団がならず者の男の肩に手を回す。

 憲兵団がならず者の男を立ち上がらせ、ならず者の男を引きずって連行していく。


「お前の行動と勇気、称賛に値する。彼女を守ってやれ」

 伊藤は煙草を吹かすと、ホルスターにオートマチック銃を収めて、マントを拾い上げた。

 マントを肩に引っかけ、踵を返した。


 オラは呆気に取られて、生唾を飲み込んだ。

 安心して、その場に足が崩れる。


「か、カッコいい。伊藤さんかぁ。あたし、好きになっちゃったかも」

 少女の暢気な声が聞こえる。

 その後、深いため息を零した。


「なんじゃい。人がせっかく助けたちゅうのに。その態度はなんじゃ」

 オラは苛立って、少女を背中から下ろす。


「この役立たず! あんなならず者くらい、伊藤さんみたいにやっつけなさいよ!」

 少女は立ち上がって、片手を腰に当てて、人差指をオラの肩に小突く。

 その後、捻挫した足が痛みだしたのか、捻挫した足を上げてよろける。


「なにゆうとんじゃ! みたじゃろ、あの刀を! オラは丸腰じゃったんじゃぞ!」

 オラも負けじと立ち上がり、少女に振り返って拳を振り上げ、少女に怒鳴る。


「もういいわよ! あたし、歩いて帰るから。あんたは、とっとと消えなさい」

 少女は痛そうに片足を引きずって、オラの肩を両手で叩いて、手をひらひらさせる。


「はぁ!? また襲われても知らんけえの! ほいじゃの!」

 オラは踵をかえして、大股で小道を歩いて行った。


 なんじゃい、あの女。

 可愛い顔して、えげつないわい。

 あんな女、二度と会いたくないわ。


 オラの背後で、少女の倒れる音が聞こえた。

 ああもう、面倒な女じゃ。


 オラは頭を掻いて、小道を引き戻った。


「無理すんなや。手かすけえ」

 オラは、倒れた少女に手を差し伸べる。


「う、うん。さっきは言い過ぎた。ごめん……」

 うつ伏せに倒れた少女は、オラの手を取って俯く。


「もうええけえ。ほれ、背中乗りんさい。おぶるけえ」

 オラは少女の手を離して片膝を地面につき、少女に背中を向ける。


「う、うん」

 少女が遠慮がちに、オラの背中にちょこんと乗る。


「オラたち、助かってよかったのう」

 オラは立ち上がって、小道を歩き始める。


「そうだね。助けてくれてありがとう」

 少女がオラの背中に顔を埋めた。


 少女のいい香りが鼻をくすぐる。

 少女の胸の感触が、オラの背中に当たる。

 オラは思わず、興奮して鼻血が出そうになり、鼻を手で摘まむ。


「どうかした?」

 少女が心配そうに、オラに訊いてくる。


「い、いや。なんでもないけえ」

 オラは顔を少女に振り向いて答える。


「あっ。もしかして、あたしの胸があんたの背中に当たってる!?」

 少女が上半身を、オラの背中から離す。


「し、仕方ないじゃろ。おぶってんじゃから。胸くらい当たるわい」

 オラは顔を少女に振り向けたまま答える。


「この変態っ! やっぱ、下ろせ~!」

 少女がオラの肩を両手で叩く。

 足もばたばたさせて。


「おい、暴れるなや。お前、肩叩き上手じゃのう」

 オラは少女をおぶりなおす。冗談を交えながら。


 オラと少女は、小道を抜けて、町に消えて行った。

 背中の少女の文句が、町に響く。


 それからしばらくして。


「おーい。新しい門下生連れてきたで!」

 道場の表門から、宗次郎の声が聞こえる。


 オラは道場の庭で、竹刀の素振りをしていた。

 竹刀から顔を上げて、道場の表門を見る。


 栞も、庭で蝶々を追いかける足を止めて、不思議そうに小首を傾げ、道場の表門を見ている。


「宗次郎。その女、誰じゃ?」

 オラは額の汗を手の甲で拭う。

 宗次郎の背中に隠れている少女を見て首を傾げた。


 少女の顔は宗次郎の背中で隠れている。


 少女は長い髪を後ろで、紅い紐で束ねていた。

 淡いピンクの単衣にたすき掛け、黒い袴に白い足袋で草履。


「紹介する。オレのいとこ、茜じゃ。今日から、茜は門下生じゃ」

 宗次郎が少女の背中を手で押し出して、少女の肩に手を置く。


「茜です。よろしくお願いします」

 少女が丁寧に頭を下げて、顔をゆっくり上げる。


「ああ! お前はあの時の!」

 オラは驚いて少女を指さした。


「あ、あんたは!」

 少女も負けじと、オラを指さす。


 宗次郎は栞と顔を見合わせ、宗次郎は首を傾げた。

 宗次郎は訳がわからず、目をぱちくりしていた。


 栞は、顔の前を飛び回る蝶々を、楽しそうに追いかけた。

 やれやれ。この女にしごかれるで。

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