「自立」
飛び去ったリザロを呆然と眺めながら、オームは彼が言った言葉について考えていた。
"ふざけている"場合じゃない…
ふざけている?あれはどういう意味だ?
魔王様に救われ、魔王様に憧れて魔王軍で働き始めた。そこで出会った唯一無二の存在であり、種族を超えて親友と言えるリザロ。
いつも自分の側に居て、共に戦い。お互いに支え合っていた…
そう思っていたのに。
「ふざけているだと?…この俺が?」
オームは自らの拳を力強く握り締める。
思い返せばリザロはいつも一歩身を引いた場所から俺を見ていた。本人は見守っていたつもりなのかもしれないが…要は俺を下に見ていたのだ。
自分の方が優れているのだから、こいつの面倒を見ないと…そんなくらいに思っていたのだろうか。
…クソが。親友だと思っていたのは俺だけだったのか?あいつは俺のことを対等に見ていなかった。
「クソッ!!!!!!」
オームの怒りは思わず声に出てしまう。
「お、オーム様??」
種族的に強者とは言えないオークのオームであるが、魔王軍幹部になれるほど種族内、魔王軍内では突出した力を持つ者の怒りの感情は周囲にいる彼の部下に対して、十分に不安を与えるだけの物であった。
「いや…なんでもない。…それで次の村はここか?」
オーム達は王国北部の村々を占拠して回っていたが、抵抗と言える抵抗も全く無く、もはや村々を回るだけの作業と化していた。
それだけにリザロが自分を連れて行かなかった事に対して、怒りが再燃してくる。
「はい、ここのようです。それにしても…あの石造りの巨大な建物は何でしょうか?」
配下の言葉にあった通り、小さな村の真ん中には周囲の雰囲気とは一線を画した異様な雰囲気の建物があった。
「なんだろうな?…兎に角ここの村の責任者を連れて来い。それから村人を一箇所に集めるのだ」
「かしこまりました」
オームの言葉に従い部下達が村中に散っていく。ミノタウルス君の命令では抵抗する王国民は殺しても良いことになっているので、その事はあらかじめ部下達に言ってある。
まあ見せしめという意味もあるのだろう。実際これまでの村では抵抗した数名が殺されると、残りの人間達は途端に静かになっていた。
流石魔王様だ。何気無い命令の一つ一つに意味や価値がある。
本来は自分たちでこういったことに気づかなければならないのだが…
そういった事を学ぶのもまた魔王様の狙いなのだろうか?
オームが思考にふけっていると…
「教会は駄目じゃ!!お前ら亜人が入ってはならん!」
「なんだと?人間が…自分たちだけが優れているつもりか?」
配下の兵士が老年の人間と言い争っていた。
「どうしたのだ?!」
「オーム様!この建物を調べようと思ったらこの人間が…」
「ならんのじゃ!信仰に反する事をすると天罰が下る…お主らもタダじゃ済まなくなるぞ??」
うーむ…正直困った。こういった場合今までは…
「どうすれば良いと思う?リザ…」
と言葉を言いかけて慌てて飲み込む。
クソッ、今までリザロに頼りっぱなしだった。こんな簡単な事すらリザロに聞こうとするのだから…
「構わん!!その怪しげな建物を調べよっ!」
「はっ!」
「知らんぞ…儂は何が起きても知らないからな」
老年の人間がガタガタと震えていた。
何を大袈裟な。こんな建物一つに…
「おい!なんだこの模様は?」
「さあ?…おい!あの祭壇を見ろ!宝石やら金やらが積まれてるぞ!」
「本当だ!出世への近道だぜっ!」
村の教会に入っていった兵士達の目に入ったのは、魔法陣が描かれた床の上に置かれた祭壇であった。その祭壇には煌びやかな金銀財宝が置かれており、兵士達は我先にと走り出したのだが…
異様な紋様で描かれた魔法陣に、先頭の兵士が足を踏み入れた途端に…
「なんだ?!?!この光は!!!」
教会の中からの異常な光が辺りを包んだのだった。




