「当事国」
現在周辺諸国に多大な影響を与えている当事国であるオベロン王国。
その内情は周囲に伝わっている通り、実に混乱したものであった。
「オスカー王!モルガン公領を包囲してた軍ですが…帝国の義勇軍と見られる部隊の参戦で戦況は拮抗しています」
伝令の兵士の言葉に、オスカー王の小さな心臓は大きな音を立てて動き出す。
「何?!我が軍とは圧倒的な戦力差があったのではないか?!何故拮抗している?!ルシュコール公!!これはどういう事だ!!」
丁寧に仕立てられた漆黒のタキシードに身を包み、傍に白髪の少女を侍らせた壮年の男性…ルシュコール公は国王の言葉を受けても、冷静な態度を崩さない。
「オスカー王。モルガン公は元々帝国と繋がっていたのですから、帝国軍の援助があって当然ですよ。しかし、帝国から王国までのルートに魔王が勢力を伸ばした為、それほど大軍での援助は出来ないはず…魔王様様ですね」
魔王の話題になるとオスカー王は露骨に不機嫌な様子を示す。
「あの無礼者か…。まあ、王国の役に立っているのもまた事実か。それでルシュコール公!今後はどうするのだ??」
ルシュコール公は国王の様子を見て一瞬ニヤリと不敵な笑みを浮かべるが、直ぐに何時もの穏やかな表情に戻る。
「帝国軍の援助があっても、彼我の戦力差は圧倒的。国王軍は先の戦争で全く被害を受けてませんからね…モルガン公はじきに倒れるでしょう」
「おお、それは心強い言葉だ」
「はっきり言って反王家の貴族達は敵ではありません。国内の動乱が収まるのは時間の問題でしょう。それよりも厄介なのは…」
「厄介なのは何なのだ??反王家以外にもそのような者たちがいるのか?!」
「ええ、情報が全く掴めない教国。それに…魔王軍ですかね」
「何?!それは何故だ??」
小心者のオスカー王は、自分を取り巻く現状が動乱に包まれている事もあり、不安要素に対して気が気でない様子である。
「教国の方は王国内のセオス教徒の保護の為などと軍事介入の恐れがありますし…魔王軍に至っては特に理由も無く参戦してくる恐れもありますしね」
ルシュコール公の言葉にオスカー王の顔を真っ青になっていく。
「る、ルシュコール公!!何とかしてくれぇ!!」
最早哀れとも取れる国王の様子に、ルシュコールは先程見せたような不敵な笑みを浮かべ…
「大丈夫ですよオスカー王。"私の言う通り"に事を進めれば、王国は安泰ですよ」




