「乙女の成長」
「………見えた!!そこね!!!!」
「あ痛っ!!!!」
目を閉じたままのリアが振り回した棒は、見事にハンナの脳天を直撃した。
「おー!見事じゃリア!!」
「やったよお婆ちゃん!!」
リアは占い婆と喜び合う。
「あ痛たた…もおー、隊長〜!痛いじゃないですか〜」
膨れっ面で抗議するハンナを無視し、リアは直前の感覚を占い婆に伝える。
「お婆ちゃん…一瞬ハンナが殴りかかって来る様子が頭に浮かんだの!そしたら…」
「本当に殴って来た…じゃな?」
「うん!!」
占い婆は優しい笑顔を浮かべると
「それが"占術"じゃよ。昔は盛んな魔術じゃったが…習得する条件の厳しさから今ではほとんど失われた魔術じゃよ」
「失われた魔術…」
「そうじゃ。人や動物、自然が動く時は必ず魔力が伴う。まあ、伴うというか魔力の流れが物理法則よりも先行するのじゃよ。それをいち早く感じ取って、未来を予測する…要は魔力の流れを読む魔術じゃな」
「へぇ〜、だから隊長は私の日頃の恨みアタックをあんなに簡単に避けたのか!」
リアはハンナを一瞥した後に、再び占い婆の方へ向き直ると
「お婆ちゃん!もっと!…もっと私に魔法を、魔術を教えて!!私もっと強くなりたい!」
「どうしたんじゃリア?いつになくやる気じゃのう」
「そーですよ隊長。らしくないですよ〜?」
2人が訝しげな視線を送ると、リアは己の両手を力強く握って、言葉にも力を込めて語った。
「やっと力を手にできそうなの…あの悪魔を止める力を。なんとなくだけど、あの男を止めるのが私の使命な気がするのよ」
「儂はリアがやる気を出してくれて嬉しいが…。リアよ、あの男に挑むのはお前さんには荷が重いかもしれんぞ?」
「?!…どうしてなのお婆ちゃん??」
「あの男の邪悪な魔力の波動…儂の占術を持ってしても全く読めんかった。儂でも無理なのじゃ、少なくとも"今の"お前さんには荷が重い」
「…」
「じゃがの、僅か1ヶ月で"先読み"をマスターしたお前さんじゃ。儂よりも才能があるのかもしれん」
「そんな!お婆ちゃんに敵うわけないよ!」
「どうしてじゃ?」
「だって私は…ただの…」
「ただの?」
リアはなにかを言いかけて、それを飲み込む。
「はぁ。まあ良い、今は修行じゃ修行!」
「お婆ちゃん!私ハチミツ食べたいっ!」
「もう1セットやってからじゃハンナ」
「えー?!また殴られるの私???」
リアは2人の様子を眺めながら、自分が飲み込んだ言葉について考えていた。
私は…ただの…女の子?
いや、ただの女の子なんかじゃない。
私はナオス騎士団の隊長。リア・タナルカ・アーネルなのよ。
アーネル家の娘リアじゃないの!!
お婆ちゃんも言ってたじゃない!
私がお婆ちゃんを追い抜かないと、あの男には…
リアがふと占い婆の方を見ると、占い婆は何かを悟ったようにリアに笑いかけた。
私の考えも占術で見抜かれてるのかしら?
…いや、お婆ちゃんなら魔法を使わなくて見抜いてるに違いないわね。
「隊長〜、早く〜!!とっとと終わらせてハチミツ食べたいです〜」
「今行くわ!」
リアは2人の背中を追って駆け出したのだった。




