「最初の1人」
ゴブ一郎と対峙する実力者の面々は、各々思い思いの言葉を述べる。
「ゴブ一郎さんには悪いが…」
「俺たちの出世のためには本気でいかせてもらうぞ」
「日頃の恨み…じゃなかった。このオーム様の成長をゴブ一郎様にお見せしてやるぜぇ」
「突っ走るなよオーム」
「ブオォォォォオオオオン!キョウジャデアルゴブイチロウサマノムネヲカリサセテモラオウ」
「…」
一方でゴブ一郎はと言うと…
「いいから…来い!お前達!!」
表情一つ変えずにそう言うと、腕を上げて指を手間に動かす挑発の姿勢を見せる。
「キィィイイ!!このオームがあの憎っくき鬼将軍に鉄槌を!!!」
オームが飛び出し、ゴブ一郎に向けて棍棒を振り回す。
「馬鹿!飛び出すなオーム!!」
「…!!」
ゴブ一郎目掛けて振り回された棍棒を、ゴブ一郎は片手で受け止めると…
闇属性魔法によって強化され、黒いオーラに包まれたもう片方の手を振りかざす。
「ほう?やるなリザロ」
しかし、遅れて飛び出したリザロの槍がかろうじてそれを受け止めていた。
「いえ、ゴブ一郎様には敵いません」
リザロは口ではそう言うものの、この状況を楽しんでいるかのように表情は薄っすらと笑みを浮かべているようにも見えた。
「すまねぇリザロ!助かったぜ」
「気をつけろオーム!…間違いなく今までで"最強"の相手だぞ」
ゴブ一郎もまたその様子を見て薄っすらと笑みを浮かべる。
「全力でかかって来い!」
ゴブ一郎の言葉を皮切りに、ホークマンと竜人。ミノタウルスまでもが一斉にゴブ一郎目掛けて突撃する。
「ブオォォォォオオオオ!!」
「俺は空から叩く!!」
「防御なら私に任せろ!竜人の鱗は伊達じゃない!」
その後は乱戦が続いた。
ゴブ一郎の一撃必殺の闇属性魔法による魔力攻撃は竜人のドラ男によって防がれ、圧倒的な身体能力による殴打もミノタウルスの屈強な身体によって均衡し、ホークマンの空からの隙を見た一撃によってゴブ一郎の注意力は散漫になっていた。
そしてオームとリザロの抜群のコンビネーションはゴブ一郎に決定的な一撃を与えさせなかったのだ。
「す、すげぇ…」
「こんなに強いのか…1対5なのに…」
その激闘振りは観客を唸らせ、そして…
「いやあ…すげえなこりゃ」
「ゴブ一郎さんもやばそうだったけど…流石ね。…でもなんであんな事言ったの?」
シャーリーの言うあんな事とはやはり
「挑発じみたあれの事?…だってあれ事実だもん。俺はこのせか…ここに来てから始めて出会ったのがゴブ一郎なんだからさ。あいつの事ならなんだってわかるよ」
「でも…いくらなんでも物語に歌われるようなミノタウルスや竜人もいるのよ?分からないじゃない?」
「まあ、見てれば分かるよ」
均衡していた激闘は数時間ほど続き、やっと両者に明らかな"差"が生まれたのだった。
「はぁ、はぁ、流石に疲れて来たな…」
「アア…カラダガイウコトヲキカナクナッテキタ」
「でも…ゴブ一郎様を見てみろよ」
ゴブ一郎は数時間以上一人で猛者達の相手をしていたにもかかわらず。
まったく息を乱すこと無く佇んでいた。
「もう終わりか?」
顔にはもっと戦いを欲しているような瞳を宿していた。
「ば、化け物ですかあの人は…」
「ヤバイなこりゃあ」
対戦者達の顔には流石に疲労の色が隠せなくなっていた。
「す、凄いわね…。この事を言っていたの?ゴブ一郎さんのスタミナのこと?」
「シャーリー。もはやスタミナとかそんなレベルの話じゃないよ。あいつは毎日何時間も
鍛錬をしてたんだ。俺と出会った日からずっとね…」
「そ、そうね。そういえば私と会ってからもゴブ一郎さんが鍛錬してない日なんてなかったと思うわ」
「だろ?…だからこの勝利は必然だったんだよ。実力では均衡してても…いや、してるからこそゴブ一郎に軍配が上がったんだ」
「でも…まだ忘れてないかしら?」
「ん?何を?!?!」
「私とジーバさんの秘密兵器よ!!!」
「あっ!!」
戦局は既にゴブ一郎に傾いた。それは誰の目から見ても明らかであった。
後は挑戦者達がジリ貧になって各個撃破されていくのだろう、誰もがそう思っていた中で
「カタカタカタカタ」
今まで誰にとっても忘れられていた、一体の骸がここに来て急に動き出す。
「ん?そういえばこいつ…」
「完全に忘れてましたね」
「オキモノカトオモッテイタ」
そしてスケルトンウォーリアーは突如として身体に黒いオーラを纏い、ゴブ一郎目掛けて突撃したのだった。
「!!!!」
それは会場の誰もが驚くスピードであり、ゴブ一郎は不意を突かれて後ろに大きく吹き飛ばされたのだった。
「「おおぉおお!!!!」」
観衆からは今日一番の歓声が響く。
それは当然であろう。5人の猛者が数時間戦い、一度も膝すら着くことが無かったゴブ一郎が初めて吹き飛ばされたのだから…。
「え?!どうなってんの?!?!」
利央の困惑した様子を尻目に、シャーリーは
「ふふん!凄いでしょ!!」
魔女の様に妖艶な笑顔で笑うのだった。




