「燻る火種」
ここはバフース郊外にある"収容所"。
魔王軍によって、僅か数日で造られた大規模な監獄とでも言うべき建物である。
収容所では決められた時間に食事をする以外は基本的に自由に過ごすことが出来る。
敷地は広大だし、娯楽施設などもあり快適に過ごせるのだが…
施設の外に出るには"試験"を突破しなければならない。
そしてその試験の内容とは…
「やはり…魔法で調べられるのか…」
「ああ、試験はもちろん亜人達がやっているから普通の帝国人は嫌悪感などを示してしまうんだろう」
収容所の片隅、住居と住居の間にある看守からの死角にあたる狭いスペースにおいて、2人の人物が声を細めて話し合っている姿があった。
「それで…どうする?ライナス」
農民出身のごく普通な帝国臣民であるライナスは、幼い頃からの親友であるタバタから"計画"を続行するか聞かれているようだ。
「今は…どれくらい集まっているんだ?」
帝国臣民には珍しい黒目黒髪のライナスは、頭にバンダナを巻いたユニークなファッションをした、かなりゴツい見た目のタバタにそう聞き返す。
「ざっと…200人ってとこか?元帝国軍の奴やバフース守備隊の奴らがメインだな」
「足りないな…最低でも2千は欲しい」
「ライナス!いくらなんでも2千は…」
「タバタ!!あそこを見ろ!あの看守は恐らく"猛虎"と呼ばれる獣人だ。それに番犬のつもりか二つ首の猛獣"ヘルハウンド"を引き連れている」
「それがどうしたんだ?」
ライナスは表情一つ変えずに続ける
「昔俺の住んでた村…お前と会う前に住んでた村だ。そこは2人組の猛虎に面白半分に滅ぼされたんだ!駐留していた冒険者が50人はいたにもかかわらず!!」
「何?!そんなことが…」
「ああ、恐らく200人ではあの猛虎1人にすら勝てん…」
「それじゃあ…もっと人を集めるか」
「ああ、頼む」
「分かってる。ライナス…お前の"力"は帝国を救うんだぞ!」
そう言うとタバタは収容所の人混みへと消えていった。
「俺の…"力"か…」
ライナスは通りに道にいる人間を蹴飛ばしながら歩く猛虎の姿を見ながら、遥かに強大な敵に挑むことを、改めて決意するのだった。




