「教国」
"帝国南部の都市バフース、王国を騒がせた魔王の手により陥落!!"
この一報は周辺国家に瞬く間に広がるとともに、大きな影響を与えたのだった。
デスデモーナ大森林を境にして西と東に存在する大国である帝国と王国。
そして両国と国境線は接しているものの、デスデモーナ大森林の北にそびえる大山脈を境界としているため、ほとんど交流のない人間の大国…セオス教国にもこの一報はすぐに知られる事となった。
創造神セオスを唯一神と崇めるセオス教を国教とし、多種族から種族的に弱者である人間を守ることを国の方針とし、亜人や魔獣を排斥している教国にとって、今回の一報は国を揺るがすものとなったのだった。
セオス教国の首都には、訪れる者全ての目を引く巨大な像がある。
唯一神にして絶対神であるセオスの像である。
その像の背後…崖を切り開く形で作られた教会では、国を動かす力を持つセオス教の大神官たちが集っていた。
「帝国は今後どうするのだろうか?…」
「奴らとは"人間を守る"という点に関しては志を同じくしているが…」
「元帥とやらは何を考えているのじゃろうか…亜人連合の殲滅までは良かったものの、人間の国まで滅ぼすとはな」
老齢に差し掛かるであろう見た目の大神官たちは、各々帝国について意見を出しているが
「帝国は今は置いておけ!…問題は"魔王"の出現じゃろうが!」
セオス教の実質的なトップに位置する、"創世官"は事の本質について議論を求めているようだ。
「そうであったな…伝え聞く話が本当なら、かの魔王の再来とでも言うべきか?」
「王国の首都ではかの魔王の象徴とも言える力を用いていたそうではないか」
「亜人や魔獣を引き連れている点から見ても、間違いないじゃろうな」
「さて、問題は帝国の…人間の都市を陥落させた事じゃ。このまま奴を放置するとどうなるか…」
「帝国に援助を申し出るか?」
「馬鹿を言え!!あんな国の援助など、侵略の片棒を担ぐ気か?!」
「いや、援助の名目で"魔導"とやらの仕組みをだな…」
議論は横道にそれつつあるが…
「静粛に!!!」
創世官の一声に、大神官たちは静かになる。
そして創世官は続けて
「何の為に"あやつ"をこれまで囲ってきたと思っておる??闇には"光"を用いるしかあるまい?」
「おお!!そうであった!」
「それは良いのじゃが…問題はタイミングよな」
「帝国が疲弊した時か?それとも援助する形でか?」
大神官たちの視線は創世官に集まる。
目を閉じて何かを考えている様子の創世官は、一拍おいて語るのだった。
「神セオスの教典通りに動く他あるまい?」
議論はその一言でまとまったようであった。




