「少女」
目の前の存在が理解できない。
自分の目から流れるものが、何かわからない。
そして自分が何をしたいのかも…
ナナの仕事は簡単だ。
帝国に刃向かう者や害をなす者を排除する。
ただそれだけである。
軍団長なんて地位にはあるが、部下に命令を出したりする事は無い。
色々と動き易く、"秘密"に目を向けられにくいからこその地位である。
自分に優しくしてくれた…人間としてみてくれていた老婆は、いつの間にか居なくなっていた。
帝国で治安を維持する役目を担っている騎士が村にやってきて、ナナは連れていかれた。
騎士が言うには、老婆は"亜人"に殺されたらしい。
そして、その亜人は帝国と戦争をしているとかなんとか言っていた。
「お婆さんの敵討ちをしたいだろう?」
私は騎士に…帝国に言われるがままに、亜人とやらを殺し尽くした。
自分を支配していたものの名前は分からない。
とにかく老婆を殺した亜人とやらが憎いと感じた。
老婆に二度と会えないと分かると、悲しくなったからかも知れない。
それからナナは帝国軍に入れられて、その圧倒的な力を利用されていた。
他国との戦争において、英雄的な活躍をしたナナだったが…同僚の視線は冷たかった。
(…化け物が)
(人間じゃない癖に軍団長だと?…)
影で心無い物言いをされているのを、人間よりも遥かに優れた聴力を持つナナは気付いていた。
しかし、ナナはそれでもよかった。
あの老婆を殺した奴らを殺す。
そうすることで、例え何を言われようと、自分の存在意義を自分で証明できているような気がしていたのだ。
しかしそれは今日までの間、あの老婆のように自分を認めてくれる…人として、仲間として見てくれる人間と出会うことが無かったからかも知れない。
民や兵士たちは人外に向ける侮蔑の目を…
軍団長たちは畏怖の目を…
シャロウは思惑を込めた欲深い目を…
元帥は感情の入っていない無機質な目を…
今日まで帝国で自分に向けられていた目に、あの老婆のものと同じものは何一つ無かった。
だが、目の前には…
「ん?なに??」
自分という存在がここにいるのが当たり前のような…、まるで人間が隣人に向けるかのような目で自分を見てくる男がいる。
あまつさえ、この忌々しい腕さえもキラキラした目でこの男は見てきた。
重ねてはいけないと…この男が亜人を引き連れて帝国に攻めてきているとわかっていながらも、老婆の姿が…老婆の目がこの男に重なる。
「…んで」
「え?!なに??」
「………なんで私をそんな目で見る?」
「は?!?!なに??目って??」
「………私を化け物だと思わないのか?」
普段のナナからは想像できないくらい大きな声で、ナナは利央に問う。
目からは涙が流れていた。
「あのねぇ…バカにしてんの??なんで俺が君みたいな"女の子"を化け物だと思わないといけない訳??俺魔王だよ?…女の子を怖がる魔王なんてダサすぎでしょ」
「………ふふっ」
白髪の少女は驚いた表情を見せた後、生まれて初めて心から笑ったのだった。




