「罠」
「ラモンにヒリエ!今回お前らに出番はねぇぞ?」
「そうですよ?私たちの兵まで"無駄"に失いたくはありませんし」
「…」
「テメェら…」
「ラモン!抑えなさい」
バフースから少し離れた丘の上において、帝国軍の軍団長5人が穏やかでは無い雰囲気の中で会話を交わす。
「サルマン!それにしてもあいつら…リオ・アダチとかいったっけ?ミノタウルスに人狼…それにあれはヴァンパイアじゃねぇか??あんな派手な奴らを今までどこに隠してやがった?」
「ふむ…確かに、小国なら単騎で滅ぼす事も容易な戦力があれほどとは…デスデモーナ大森林から出現したらしいですが、よくこれまで目立った動きもなかったですね」
ジャッカルとサルマンの視線の先には、陥落したバフースに続々と入場していく亜人やアンデット…それも各々が童話や伝承に謳われるような強力なものの姿があった。
「…でも包囲に成功してる…彼らは袋のネズミ…」
「そうだぜナナ!!奴らバフースを落としたと思って良い気になってやがるぞ」
「そうですね、自分たちが包囲されているとも知らずにね」
帝国軍は彼らの言葉通り、バフースを囮にしてリオ・アダチの軍勢を一箇所に留め、包囲することが本来の目的であった。
「だがよ…死んでいったバフースの奴らのことを思うと…」
「ラモン!!お前はいつからそんな腑抜けになったんだ?!あいつらも帝国の為に死んだなら本望だろ?」
「ジャッカルの言う通りです。帝国の為に死ぬことは帝国臣民の大義ですからね。その為に私の第6軍が"魔力干渉"をして情報を隠蔽していたのですから」
「貴方達だったのね…あの不快な魔力の波動は…"新兵器"か何かなの?」
サルマンは眼鏡をクイっと押し上げ、得意げな顔をしながら言う
「ヒリエ、余計な詮索はやめていただきたい。それとも私が元帥から新たに"兵器"を譲り受けた事に嫉妬でもしているのですか?」
「っ!…もういいわ」
「…そんな事より、いつ奴らを攻める?」
白髪の幼げな少女は、自らの魔力をほんの少し解放しながら問う
「!!…ナナ、"奴"が帰ってくるまでは待機だって言ったろ?」
ナナが僅かに解放した魔力は、実力者が集うこの場においても、十分すぎるほどの波動を放っていた。
それ程までに彼女の力は突出しているのだ。
「…そう」
ナナは再び虚空を見つめるかのような虚げな表情になり、地面に座り込む。
「それで…シャロウはまだか??」
ジャッカルはサルマンにそう尋ねるが、それを制止するかのようにサルマンは手をかざし
「いや…ちょうど来たみたいだ」
見ると、巨大な影の塊が猛スピードで5人に迫って来た。
やがて5人の中心まで影がやってくると、影から人間の身体が這い出て来た。
「遅えぞシャロウ」
「申し訳ありませんねぇ、魔力干渉のせいで貴方達の位置を特定するのがすこーしだけ難しかったのですよーお」
「貴方…この探知阻害を受けながら私たちの場所を…」
「おっとヒリエさーん、久しぶりですねぇ。相変わらずお綺麗なことで」
「…それで、もう攻める?」
ナナは再び臨戦態勢を取るかのように、魔力を解放しながらシャロウに近づいていくが
「おっとナナちゃん。それはまだやめておいた方がいいですよーお」
シャロウはナナの威圧を意に介さないようすであった。
「…どうして?」
「それは…既に私らの場所が敵にばれちゃっているからでーすねぇ」
シャロウがそう言うのと時を同じくして、
5人の周囲の地面から、次々にスケルトンが這い出て来たのだった。




