「開戦前夜」
「…ふぁーあ」
「おい!バカ!!なに欠伸を…団長にバレたらやばいぞっ」
「なあに、平気だろう。そもそも帝国に攻めて来ようなんて奴らは居ないっての!見張りするだけ無駄だぜ全く」
帝国領最南の都市バフースを守る帝国兵はそのあまりの静けさに思わず欠伸を漏らす。
帝国の強さの源である"魔導"による最新式の装備に身を包んだ一般的な帝国兵士である彼らの仕事は、バフースに近づく怪しい一団をいち早く発見することである。
バフースは帝国が現在緊張状態にあるオベロン王国から一番近い都市であるため、警戒は厳にしなければならないのだが…
兵士達の会話は続く
「そう言うな、王国の奴らも侮れんぞ。噂では第2軍と第3軍。それに第4軍までもが壊滅的な打撃を受けたらしい」
「何?!それ本当か??それじゃあ王国遠征軍が丸々やられたことになるぞ?!?!」
「シッ!!声がでかいぞ!こんな話、帝国情報局にでも聞かれてみろ!…俺たちの首が飛ぶぞ?」
「そっ、そうだな…」
見張り塔で会話を重ねる帝国兵2人の背後に、知らず知らずのうちに影が近づいていく。
影は歪に形を変えながら2人のすぐ後ろまで迫った。
しかし2人はその影に気付くはずも無く、会話を続ける
「それにしても…帝国情報局か。つくづく恐ろしい奴らだよな」
「ああ、亜人を庇ったり変な思想を持っていたりするとやばいらしい…」
「有名な話だよな、帝都の亜人保護団体が結成から3日で姿を消したって」
「…実際どうなのかね?亜人って」
「どうって…何がだ?」
「いや…正直生まれてから一度も会ったこと無いからさ。良いのか悪いのかも分からないよな」
「そうだけど…」
「話によると見た目以外は人間と変わらないらしいじゃないか。エルフなんかは人間よりも美しいって聞くぞ」
「おい…そのくらいに…」
「そうですよ。そのくらいにしといた方が賢明でーすよ」
いつの間にか2人の背後に誰かいるようだ。
「誰だ?!」
2人はとっさに魔導仕様の槍を構える。
「なっ…なんだお前は!」
振り返ると、下半身が闇に埋もれて上半身だけが地面から出ている気味の悪い男がいた。
「私ですか?私は帝国情報局のシャロウと申します」
「帝国情報局だと?!」
見張りの兵士の顔はみるみるうちに焦りの色を見せる。
「ええ。私ども帝国情報局は帝国の"不利益"になり得る物を"排除"するのが仕事ですので…」
「だ、だから何だ?」
「…発言には注意された方がよろしいでーすよ?」
「…」
シャロウはぬるりとした動きで影から抜け出すと、その異様にでかい身長と異様に細い身体が露わになった。
「そっ、それで…何の用ですか?帝国情報局の方がバフースに」
シャロウはわざとらしく辺りを見渡す素振りを見せながら
「それがですねぇ、どうやらこの街に"敵"の軍勢が現れるみたいなんでーすよ」
「敵?…王国軍ですか?!」
「…おっと、ちょうど来たみたいでーすねぇ」
帝国兵2人は水平線を見渡すが…
「いないみたいですが…」
「もう囲まれていまーすねぇ」
改めて辺りを見渡してみると…
「…!!スっ、スケルトンの大軍だ!!!」
バフースの周囲の地面から、見渡す限りの範囲をスケルトンが這い出てきていたのだった。




