「帝国円卓会議」
「これはこれは、ラモンにヒリエじゃねぇか」
「おぉ、無事だったのですね。良かったですねぇ」
「…」
コーデシア帝国の帝都にある巨大な塔の一室において、帝国軍第2、3軍団の軍団長であるラモンとヒリエは既に部屋の中に居た者達から言葉を掛けられる。
一人はラモンと比べて、かなり小柄でありながらも全身に鋼のような筋肉を備えた、ビジュアル系バンドのボーカルのようなパンチの効いた髪型をした男。
彼こそが帝国軍第5軍軍団長を務めるジャッカルである。
そしてもう1人、この世界では高価な魔道具として有名な眼鏡(帝国においては厳密に言うと"魔導具"であるが)を掛けた、知的な雰囲気を漂わせる男。
彼の名はサルマン。帝国軍第6軍軍団長である。
最後にもう1人。ラモンとヒリエに対して全く興味を示さない"白髪"の少女。
彼女の名前はナナ。この歳にして帝国軍第7軍軍団長である。
ここに集いし5名は現在周辺諸国を大いに騒がせているコーデシア帝国の力の源である帝国軍、その中枢とも言える軍団長を務めし5名だ。
「言いたいことでもあるのか?ジャッカル」
「ああ、もちろんあるともラモンよー。…何をノコノコと帰って来やがった??」
「何だと?!」
ジャッカルは続ける
「お前もだぞヒリエ!部下を失って何をノコノコと帝国に帰って来てやがるって言ってんだよ!」
「くっ…」
「しかしっ、大森林内に正体不明の武装勢力が…」
「言い訳ですか?見苦しいですね」
サルマンはラモンとヒリエに対して冷たい目線を送る。
「帝国に敗北をもたらしたその罪…決して許されるものではありませんよ?」
「…罰が必要」
ナナの口から感情が感じられない無機質な声が聞こえる。
ラモンとヒリエは怯えるようにして、恐る恐るナナの方を窺う。
「だとよ!…元帥様に決めてもらうまでもねぇ!ナナが罰を与えるらしいな」
「死ななければいいですけどね」
ジャッカルとサルマンは楽しげな様子である。
ナナは椅子から立ち上がると、ラモンとヒリエに向かって歩き始める。
「おい!ナナ、何をするつもりだ?」
「ちょっと…止まりなさいナナ!」
ラモンとヒリエは必死になってナナを止めようとするが、ナナは刻一刻と歩み寄ってくる。
無機質な表情を浮かべて。
「そこまでにしておいた方がいいんじゃないかい?ナナちゃんもね」
突然、背後にあった会議室のドアが開かれ、1人の青年が入って来た。
「ほう?貴方ですか…」
「久しぶりだな、イリアス!死んだかと思ってたぜっ」
ジャッカルとサルマンが話しかけた青年は、イリアス。
この場に来ていることから分かるように、彼も帝国軍第1軍の軍団長である。
サラサラなロングヘアーをなびかせ、何処か虚ろげな様子が拭えない美青年は、ナナの元へと向かう。
「あんまり乱暴するなよ?ナナちゃん…」
優しくナナの頭を撫でると、ナナは一瞬だけ頬をぷくっと膨らませ、そのまま振り返ってみる元いた場所へと戻る。
「すまねぇイリアス」
「助かったわ」
ラモンとヒリエはイリアスに感謝を伝える。
「2人とも!無事でよかった!!コーカスがやられたと聞いて心配していたんだ!!まあ、コーカスもまだ"一応生きている"みたいだがね」
「「??」」
イリアスは続ける
「2人は大森林の情報を持ち帰るという、帝国に有益な行動をしてくれたんだ。罰はやり過ぎだろう3人とも?」
「…」
「まあナナの気まぐれでしたしね」
「そうだなぁ!!」
イリアスは納得したような表情を浮かべる。
「ところで、あの双子は??」
「あいつらは仕事中らしいぞ」
「第8、9軍も大変ですね。あの双子が軍団長なんて」
「…」
各々が語り出すなか
「それで今日はなんなんだ?」
「そうね、普段は来ないイリアスまで呼んで…」
ラモンとヒリエは帝国軍の軍団長による円卓会議の内容を未だ知らされていないのだ。
「ああ、そうだ。お前らにはまだ言ってなかったな」
「そうですね」
「ラモンにヒリエ。今日は帝国にあだなす"リオ・アケチ"とかいう愚か者についての会議さ」
イリアスの言葉に、ラモンとヒリエは互いに顔を見合わせたのだった。




