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クズが異世界を通ります  作者: 山崎トシムネ
第4章「開戦」
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「占い婆」

「そうじゃ!占い婆とでも呼んでくれればよい…ほれ!」



占い婆が無詠唱で魔法を使うと、リアはいとも簡単に鉄格子から解放されて…




「痛っ!!」



床へと落下した。




「痛たた…ありがとうございます」


「このおばあちゃん、いきなりそこから現れたんですよ?隊長」


ハンナが指を刺したのは、何もない通路だった。


占い婆は牢屋の目の前まで来て、2人を見る。


そして目線がリアで少し止まると、ハッとした表情を一瞬だけ浮かべるが、直ぐに元の温厚な表情へと戻った。



「よいよい、気にするな。ついでじゃよ、ついで」



「あのー、占い婆さんは何をしにここへ?」



「話せば長くなるのう。まあ、簡単に言うと偵察じゃな」


「偵察ですか〜?私たちと一緒ですね」




「こらっ!ハンナ!!」



リアはいつもの様にハンナに強烈な一撃をお見舞いする。



「痛っ!何するんですか隊長〜」



「まだこのお婆さんが何者かわかんないでしょっ!!…あっ」



リアがやってしまったと言わんばかりの顔で占い婆の方を見るが




「いいんじゃよ、組織に属する者としては当然じゃな!良い心がけじゃ」





リアは目の前の老婆に言いようもない気持ちを抱く。



誰かに褒められたのっていつ振りだろう?





「兎に角、お前さん達の邪魔はしないよ。用が済んだら直ぐに転移して帰るからの」



「…転移とは何ですか?」


「なんか凄そうです〜」



「転移魔法も知らんのか…まあ良い、ここで会ったのも何かの縁じゃ。お前さん達、外に出たいのではないか?」


「ええ、まあ…出たいです」


「出た〜い!!」



占い婆は優しい笑顔を見せる。




「儂が転移で連れ出してやろう」



「い、良いんですか??私達にはその…お礼に何か差し上げる事は出来ないのですが…」



占い婆はリアを見つめると


「お前さん…名前は何という?」



「はい?!えーと、リア・タナルカ・アーネルと申します」



「リアよ、お主なかなか面白い才能があるようじゃな、お前自身も気付いてない才能が」



「…はい?!」



「ここから連れ出すお礼はお主の"身体"で払ってもらうことにするから安心せい」



「………は?!全然安心できないんですけど??」


「隊長!私のた…私達のためにお願いしますねっ」




隣で可愛らしい顔で非常な懇願をするハンナに、思わずイラッとしたリアは案の定



「痛っっっ!!!いつもより強いですよ〜」



ハンナの脳天に一撃が入った。





「さて…そろそろ時間切れのようじゃの。用事はまた今度にするか。それよりも面白そうなものに出会えたことだしのう」


占い婆の視界にはリアが映っていた。




「じゃあ行くぞっ!少しばかり衝撃が来るが…まあ、我慢せいっ」



「え?!ちょ、いきなりですか?!」


「わーい、脱出だぁ〜」




3人の周囲の空間が突然うねりをあげて、歪み始めた。


そして歪みは、そのまま3人を飲み込んで行くのだった。













「魔王様っ!来てください!!この通り、1人脱獄したみたいで…あれ??」



利央とゴブ一郎はオームに連れられ、牢屋にやって来たのだが…




「おいオーム、これはどういうことだ?」



ゴブ一郎の言葉には、静かな怒りが透けて見えていた。




「いや、さっきまで1人はいたんですよ!!あれー?おかしいなぁ」



「せっかくこの前の功績をリオ様に称えられて看守長に昇進したのに…リオ様の時間を無駄にするなど、言語道断であるぞっ!」



ゴブ一郎はオームの胸ぐらを掴み上げている。




その様子を利央は、あんなに身長差があるのに凄いなあなどと呑気に見ているのだった。





ゴブ一郎は基本的にしっかりしてるからな、部下への当たりも軍人のように規律正しいんだよね。なんていうか…鬼教官的なね?





「まあまあゴブ一郎、その辺にしといてやれって。こいつも必死に伝えようとしてくれた訳だしさ」



「しかしリオ様!…わかりました」




ゴブ一郎がオームから手を放した途端に、オームは利央の元へと擦り寄って来た。



「おお、魔王様!そのような過分な評価を頂き、このオーム。天にも昇る心地です!!」




「お、おう」




「今後は魔王様より授かったこの"看守長"の責務をしっかりと果たして…」





いやー、正直言って役職とか配属は結構適当に決めたからな。



それに看守長って…





まあ、本人が喜んでるならいっか!




「うむ、今後もよろしく!」


「ははぁーーー!!!」








そういえば何しに牢屋に来たんだっけ…





まあ、忘れるくらいなら大したことじゃなかったってことだろう。





利央はそのまま牢屋を後にするのだった。

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